[PC074] 大学生の進路意思決定における教職に関わる阻害的要素への対処
Keywords:大学生, 進路意思決定, 教職
問題と目的
教育学部の学生は,入学時に教員を志望していても,授業や実習の過程で教職志望を阻害する情報や体験(以下,阻害的要素)に出会い,志望を見直すことも多い。
Erikson(1950)が危機と呼ぶこの過程を,どのように乗り越えて教職志望に至るかを明らかにすることは,学術的にも実践的にも意義をもつ。本報告では,そうした教職志望と関係する阻害的要素への対処のあり方を解明する。
方 法
1.調査の概要
教員養成学部の4年生に2013・14年度の2月に面接を行った。協力者は31名で,教職を選択した人(教職群)は19名,非教職群は12名であった。
2.調査の内容
入学時点からの教職志望意識の変動を浮沈曲線で描かせ,浮沈曲線の水準や変化について,理由やそのときの考えを尋ねた。続いて,阻害的要因尺度への回答から,阻害程度の高い項目について具体的になぜ気になったのか,それは進路を決めるまでにどうなったかを尋ねた。
結 果
教職群,非教職群の話から,阻害的要素への対処に関わるカギとなる概念を以下に挙げる。
1.他者とのつながり
教職群の人たちは,現職の教員や同学年の人たちとのやりとりを通じて,自分がやっていける(いきたい)という感覚を強めていた。前者とは相談相手やモデルとして,後者とは励ましあいや,一緒に指導案を考えたり勉強のペースメイクをする関係としてである。他方,非教職群も学外で知り合った同学年の人と情報交換などをしていた。また熱心に教職を語る同学年の言動に「(熱心すぎて)宗教みたい」という違和感をもった人もいた。
2.応えてくれる感覚
教職群は力量に不安があっても,実習等での経験から「一生懸命取り組めば,子どもや保護者はわかって(応えて)くれる」と述べている。他方,非教職群の人たちは,達成経験が少ないか,「附属学校は特殊だから」と懐疑的であった。
3.完全志向をもたないこと
非教職群においては,「教師になる器ではない」と発言が特徴的であった。併せて「教師は天職のような人がなるもの」などと述べられた。他方,教職群の子は自身を「教師が天職」とはとらえてはおらず,足りないところをこれから補っていく,教師に「正解」はない,周りの先生と協同で解決していく問題もある,と緩く捉えていた。
ただ一部の非教職群は,教師の仕事の緩さ・甘さを指摘し,民間の方が意識が高い,そちらの方が自分は成長できる,といったものも聞かれた。
4.先送り
必ずしも卒業までに決めない,という人も見られた。教職群の何名かは阻害的要素をまだ感じていて,1年間講師をする中でそれを上回るやりがいが得られれば正式に目指すという。また大学院でもっと経験を積んでからという人もいた。反面,教師はいつでもなれるが,民間への就職は新卒時のみであるとして,民間を志望した人もいた。
考 察
従来,進路選択過程を推進するとされてきた自己効力感が,阻害的要素の対処と関わることがまず示された。他に,結果の1および3からは,教師という職業に対して,自分の職業や今後の生き方として「信頼できるもの」と捉えていると見ることができ,内的ワーキング・モデルの枠組みで解明できる可能性が示唆されたと言える。
教育学部の学生は,入学時に教員を志望していても,授業や実習の過程で教職志望を阻害する情報や体験(以下,阻害的要素)に出会い,志望を見直すことも多い。
Erikson(1950)が危機と呼ぶこの過程を,どのように乗り越えて教職志望に至るかを明らかにすることは,学術的にも実践的にも意義をもつ。本報告では,そうした教職志望と関係する阻害的要素への対処のあり方を解明する。
方 法
1.調査の概要
教員養成学部の4年生に2013・14年度の2月に面接を行った。協力者は31名で,教職を選択した人(教職群)は19名,非教職群は12名であった。
2.調査の内容
入学時点からの教職志望意識の変動を浮沈曲線で描かせ,浮沈曲線の水準や変化について,理由やそのときの考えを尋ねた。続いて,阻害的要因尺度への回答から,阻害程度の高い項目について具体的になぜ気になったのか,それは進路を決めるまでにどうなったかを尋ねた。
結 果
教職群,非教職群の話から,阻害的要素への対処に関わるカギとなる概念を以下に挙げる。
1.他者とのつながり
教職群の人たちは,現職の教員や同学年の人たちとのやりとりを通じて,自分がやっていける(いきたい)という感覚を強めていた。前者とは相談相手やモデルとして,後者とは励ましあいや,一緒に指導案を考えたり勉強のペースメイクをする関係としてである。他方,非教職群も学外で知り合った同学年の人と情報交換などをしていた。また熱心に教職を語る同学年の言動に「(熱心すぎて)宗教みたい」という違和感をもった人もいた。
2.応えてくれる感覚
教職群は力量に不安があっても,実習等での経験から「一生懸命取り組めば,子どもや保護者はわかって(応えて)くれる」と述べている。他方,非教職群の人たちは,達成経験が少ないか,「附属学校は特殊だから」と懐疑的であった。
3.完全志向をもたないこと
非教職群においては,「教師になる器ではない」と発言が特徴的であった。併せて「教師は天職のような人がなるもの」などと述べられた。他方,教職群の子は自身を「教師が天職」とはとらえてはおらず,足りないところをこれから補っていく,教師に「正解」はない,周りの先生と協同で解決していく問題もある,と緩く捉えていた。
ただ一部の非教職群は,教師の仕事の緩さ・甘さを指摘し,民間の方が意識が高い,そちらの方が自分は成長できる,といったものも聞かれた。
4.先送り
必ずしも卒業までに決めない,という人も見られた。教職群の何名かは阻害的要素をまだ感じていて,1年間講師をする中でそれを上回るやりがいが得られれば正式に目指すという。また大学院でもっと経験を積んでからという人もいた。反面,教師はいつでもなれるが,民間への就職は新卒時のみであるとして,民間を志望した人もいた。
考 察
従来,進路選択過程を推進するとされてきた自己効力感が,阻害的要素の対処と関わることがまず示された。他に,結果の1および3からは,教師という職業に対して,自分の職業や今後の生き方として「信頼できるもの」と捉えていると見ることができ,内的ワーキング・モデルの枠組みで解明できる可能性が示唆されたと言える。