日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PC

(501)

2014年11月7日(金) 16:00 〜 18:00 501 (5階)

[PC078] リーダーシップと性格特性との関連

伊藤俊樹 (神戸大学)

キーワード:リーダーシップ, PM理論, BIG FIVE

【問題】
リーダーシップを,「集団機能」という次元から見出そうとする「集団機能論的リーダーシップ論」がある。三隅(1966)による「PM式リーダーシップ理論」では、集団機能を2つの次元,P機能 (課題達成機能),M機能 (集団維持機能)で考えている。本研究では,PM式理論を基にした「討議集団におけるPM機能評定尺度」を使用した。House(1979)は,今日の現実社会でのリーダーを,自然発生的・選挙による選出制・任命制のリーダーの三タイプに分かれると定義している。金井(2007)は,リーダーシップの議論が紛糾しているのはこれらのリーダーのタイプが峻別されなかったからであり,リーダーの発生に対する視点が抜け落ちている事が考えられる。そこで本研究では,自然発生的なリーダーのリーダーシップ行動と性格特性との関連に着目した。
【方法】
(1)[被験者]関西圏の大学生205人を対象。(男性128人,女性62人,不明15人,全33グループ)。(2)[調査時期] 2013年10月中旬から11月中旬。(3)[実施場所]被験者が通いなれている大学の講義室。(4)[実験道具]質問紙,討議課題の紙,ストップウォッチ,封筒,投票用紙
(5)[質問紙構成] Big-Five尺度60項目+討議集団におけるPM機能評定尺度20項目
(6)[方法]Big-Fiveに回答してった後で、5人1グループに分け、10分間討議課題について討議してもらう。教示は「あなたのグループが遭難し無人島に辿り着きました。島には3つのものしか持ち込めません。配られた紙に書かれている物から話し合って3つ選択し,用紙に書いて下さい。自己紹介等は行わないでください。時間は今から10分間です。始めてください。」
10分たった時点で,その議論において最もリーダーシップを発揮したと考えられる人を投票でグループから1人決めてもらい,最多得票者以外の人に討議集団におけるそのリーダーを対象としてPM機能評定尺度20項目に回答してもらう。
【結果】
リーダー31名,それ以外133名の結果を得た。自然発生的リーダーを「過半数の構成員にリーダーシップを発揮したと「評価された人物」とした。リーダーを支持した人物をフォロワーとした。
(1)信頼性の検討…個々の尺度の信頼性は、P得点:α=.859,M得点:α=.957,外向性:=.899,情緒不安定性:α=881,開放性:α=815,誠実性:=824,調和性:=.843と非常に高い信頼性が確認された。
(2)P機能,M機能による大規模ファイルのクラスター分析とt検定
今回,フォロワーが評価したP得点とM得点の間にr=.815(p<.01)という高い相関の値が得られた。そこでP得点M得点を用いクラスター分析を行ったところ,2つのクラスターを抽出された。結果は、P得点M得点ともに高い群、低い群であり、それぞれをPM高群,PM低群と名付けた。
③PM高群とPM低群におけるBig-Fiveの比較
PM高群・PM低群の2つの群におけるBig-Fiveの5因子についてt検定を行ったところ,調和性のみ,t(29)=-1.896 (p<.10)とPM高群がPM低群よりも有意に高い傾向を示した。
④リーダーとフォロワーとの性格特性による比較
リーダーとフォロワーとの性格特性を比較するために,t検定を行ったところ,Big-Five5因子全てにおいて有意差は見られなかった。
【考察】
PM理論では,課題達成機能と集団維持機能がそれぞれ独立しているとされてきたが,今回の実験ではこの二つの機能は相関関係にあった。つまり,課題達成機能と集団維持機能の均衡が取れている人が自然発生的リーダーとして認められる傾向があると言える。
PM高群,PM低群のBig-Five尺度の5因子についてt検定を行ったところ,調和性においてのみ有意傾向が見られた。このことから,調和性と自然発生的なリーダーには何らかの関連があると考えられる。本調査では、その原因を明らかにするまでには至らなかった。
リーダーとフォロワーに関して,性格とリーダーシップ行動との有意な関係は見られなかった。自然発生的リーダーにおいても,優れたリーダーに共通する不変的特性を特定できない先行研究の結果を裏付けることが明らかとなった。