[PC079] 学校教育への研究的介入とその継続性についての分析
交渉のフィールドとしての地震防災学習カリキュラム
Keywords:総合的な学習の時間, 介入的実践, 地震防災学習
1.研究の背景と目的
研究者が教育の理論的な観点からデザインした実践は,実際の教育の現場では必ずしもそのまま受け入れられない。そのような場合,研究者と現場との間でネゴシエーションが行われるが,その過程についての定式化は未だ十分ではない。研究が蓄積されない一因として,個々の現場の状況が大きく異なるため,定式化が困難であることが挙げられる。
活動理論の観点から,教育現場と研究との双方向的な可変性のあるデザインとしてはEngestr?m(2007)が介入的アプローチ(CL:change laboratory)を提唱している。また同様に活動理論に基づきながらも異なる視点からのアプローチを提唱するColeらは,比較的安定した組織を研究現場とすることが多いCLと比較して構造の安定度の低いコミュニティにおける放課後学習のフィールドにおいて,研究と現場との双方向で流動的な変化を織り込んだ相互占有モデル(MA:mutual appropriation (Cole & Engestr?m, 2008; Downing-Wilson, Lecusay & Cole, 2011)を提唱している。Deborahら(2011)は,MAを,大学と地域の組織の参加者が,互いのイニシアチブについて,「占有したり,操作したり,寸断したりする試み」として捉える。しかし日本においては,このような分析はまだ少ない。
中村(2008)は,地域連携による学習環境の再デザインの試みとして地震防災学習をテーマに小学校2校および中学校1校において学校側の協力を得て「総合的な学習の時間」の一部としてプロジェクトを実施した。この研究では地域連携ネットワークの安定化と継続も重要な観点であったため,その後も学校側と協議し,学校から継続の要請があった場合はその方向で進めることとしたが,結果として小学校の実践は単年度で終了し,中学校の実践は現在に至るまで毎年行われている。
本分析では,このような連携実践がどのように導入,継続され,またその過程で変容されるかを,とくに日本の公教育という制度的制約の大きい独特のフィールドでの事例として検討する。またその際に上述のMAの観点を踏まえて,関係するアクターが互いを翻訳(Latour,1987)しあう試みとしての交渉やその結果に注目した。
2.方法
2007年から2014年まで公立の1中学校を対象として実施されている地震防災をテーマとしたプロジェクトのカリキュラム内容の変遷と,内容の打ち合わせの際に意見交換された前年度の成果や次年度に向けた意見交換に関するメモを中心に探索的な検討を行った。なお,このプロジェクトは,毎年中学1年生約150名全員を対象として正規授業である「総合的な学習の時間」のうち約30時間を使って実施されている。
3.結果と考察
第1回(2007年度)と現在(2013年度)のカリキュラムを比較すると,いくつかの変更が見られた(詳細な比較と変更経緯は発表時に提示)。
①学校の諸制度とくに学校行事や試験期間,クラス運営との調整(主に中学校側の条件に従っているが,防災まち歩きについては多くの大学生ボランティアが参加するため大学の予定が優先される)
②時間的制約
③プログラムの大幅な変更への抵抗と,小規模な新企画の導入
当初の研究者の観点は地域連携を含んだ実践的な学習環境のデザインにあり,その点では,中学校の取り組みは現実の社会問題への寄与から「学校的実践」へのシフトと解釈可能である(まち歩きの訪問先が固定的,前年までの学習成果が次の年に反映されない,地域の課題への提言性が弱まってるなど)。一方で,全体の枠組みを変えない範囲ではあるが,新しい試みを許容する中学校の姿勢が,大学生の研究的な関心からの提案を受け入れるなど,大学側の継続的な関与を支えている。
今後は個々の教員や行政,地域の取材先などの関係者へのインタビューなども含めて,中学校の地域-大学連携の有効性と問題点について,より詳細に検討する予定である。
このような観点での分析はまだ緒についたばかりであり,より多くの事例による検証が必要である。また介入的なプロジェクトでは,従来のアカデミズムの評価基準だけでなく,研究・教育・サイトの福祉といった多面的な評価が必要である。その評価のあり方も含めた一層の検討が求められる。
研究者が教育の理論的な観点からデザインした実践は,実際の教育の現場では必ずしもそのまま受け入れられない。そのような場合,研究者と現場との間でネゴシエーションが行われるが,その過程についての定式化は未だ十分ではない。研究が蓄積されない一因として,個々の現場の状況が大きく異なるため,定式化が困難であることが挙げられる。
活動理論の観点から,教育現場と研究との双方向的な可変性のあるデザインとしてはEngestr?m(2007)が介入的アプローチ(CL:change laboratory)を提唱している。また同様に活動理論に基づきながらも異なる視点からのアプローチを提唱するColeらは,比較的安定した組織を研究現場とすることが多いCLと比較して構造の安定度の低いコミュニティにおける放課後学習のフィールドにおいて,研究と現場との双方向で流動的な変化を織り込んだ相互占有モデル(MA:mutual appropriation (Cole & Engestr?m, 2008; Downing-Wilson, Lecusay & Cole, 2011)を提唱している。Deborahら(2011)は,MAを,大学と地域の組織の参加者が,互いのイニシアチブについて,「占有したり,操作したり,寸断したりする試み」として捉える。しかし日本においては,このような分析はまだ少ない。
中村(2008)は,地域連携による学習環境の再デザインの試みとして地震防災学習をテーマに小学校2校および中学校1校において学校側の協力を得て「総合的な学習の時間」の一部としてプロジェクトを実施した。この研究では地域連携ネットワークの安定化と継続も重要な観点であったため,その後も学校側と協議し,学校から継続の要請があった場合はその方向で進めることとしたが,結果として小学校の実践は単年度で終了し,中学校の実践は現在に至るまで毎年行われている。
本分析では,このような連携実践がどのように導入,継続され,またその過程で変容されるかを,とくに日本の公教育という制度的制約の大きい独特のフィールドでの事例として検討する。またその際に上述のMAの観点を踏まえて,関係するアクターが互いを翻訳(Latour,1987)しあう試みとしての交渉やその結果に注目した。
2.方法
2007年から2014年まで公立の1中学校を対象として実施されている地震防災をテーマとしたプロジェクトのカリキュラム内容の変遷と,内容の打ち合わせの際に意見交換された前年度の成果や次年度に向けた意見交換に関するメモを中心に探索的な検討を行った。なお,このプロジェクトは,毎年中学1年生約150名全員を対象として正規授業である「総合的な学習の時間」のうち約30時間を使って実施されている。
3.結果と考察
第1回(2007年度)と現在(2013年度)のカリキュラムを比較すると,いくつかの変更が見られた(詳細な比較と変更経緯は発表時に提示)。
①学校の諸制度とくに学校行事や試験期間,クラス運営との調整(主に中学校側の条件に従っているが,防災まち歩きについては多くの大学生ボランティアが参加するため大学の予定が優先される)
②時間的制約
③プログラムの大幅な変更への抵抗と,小規模な新企画の導入
当初の研究者の観点は地域連携を含んだ実践的な学習環境のデザインにあり,その点では,中学校の取り組みは現実の社会問題への寄与から「学校的実践」へのシフトと解釈可能である(まち歩きの訪問先が固定的,前年までの学習成果が次の年に反映されない,地域の課題への提言性が弱まってるなど)。一方で,全体の枠組みを変えない範囲ではあるが,新しい試みを許容する中学校の姿勢が,大学生の研究的な関心からの提案を受け入れるなど,大学側の継続的な関与を支えている。
今後は個々の教員や行政,地域の取材先などの関係者へのインタビューなども含めて,中学校の地域-大学連携の有効性と問題点について,より詳細に検討する予定である。
このような観点での分析はまだ緒についたばかりであり,より多くの事例による検証が必要である。また介入的なプロジェクトでは,従来のアカデミズムの評価基準だけでなく,研究・教育・サイトの福祉といった多面的な評価が必要である。その評価のあり方も含めた一層の検討が求められる。