[PC092] 被災地支援ボランティア体験の語りの継時的変化
共有と個別化のプロセス
Keywords:体験, 語り
問 題
体験学習等における活動のふりかえりでは,活動参加時の体験について他の参加者と語り合うことで体験に意味づけが与えられ,各参加者の個別の体験が構成されていくと考えられる(文野,2011)。本研究では,ボランティア活動の参加者を対象とした同行調査を行い,異なる時点での活動のふりかえりの語りを比較することで,体験の意味づけの個別化の過程を探索的に検討することを目的とする。
方 法
対象者:文京学院大学地域連携推進員会の下で大学教員の引率により実施された東日本大震災被災地支援ボランティアの活動に参加した学生18名。
活動概要:2012年9月に岩手県遠野市を拠点とするNPO法人まごころネット(以降「まごころネット」)によるボランティア活動に団体で参加した。日程は3泊4日であった(詳細は文野(2013)を参照)。
手続き:ボランティア活動後,2012年10月下旬~11月初旬に,同時に複数名を対象とした半構造化インタビューを行った。質問内容は活動への参加動機,活動で印象に残っていること/人,各作業の感想,被災地について自分たちにできること,活動後に感じた自身の変化等であった。また,1日の活動終了後のバスの中で記入した活動報告,各作業日の夜に実施したミーティングでの参加者の感想,活動終了後1週間前後に学内報告用に各参加者が執筆した感想文についても許可を得て分析対象とした。
分析手続き:参加者の活動報告,ミーティングでの感想,活動後の感想文,インタビューでの語りを対象に,参加者を通じて共通してみられる語りが現れる時点に着目しながら各参加者の語りの変化を検討した。また,参加者の活動履歴(初回,2回目)による比較も行った。
結果と考察
活動初日の感想では,初回参加者のみが,メディアからの情報による現地の印象と現実の情況との相違について言及していた。2回目となる参加者は,以前の風景と「変わっていない」ことや,復興に向けた作業に初めて取り組んだことに言及していた。また,津波の被害を示す痕跡は,被災者の生活や心情に対する思いや自身の責務の自覚を強く喚起していた。この傾向はとくに初回参加者にみられた。これらのことから,「新しい体験」が語られやすいといえる。
全体的に,活動日に語られた内容は,インタビューのみを対象とした分析結果(文野,2013)と同様,参加者間で共通する意味づけが多くみられ,多様性は見られなかった。しかし,各参加者の感想文では,当日の感想では見られなかった語りが含まれており,他者の語りの採り入れが行われていた。とくに,現地のボランティアスタッフの語りは,短期間の活動の貢献度に関する参加者の懸念を解消する役割を果たしていた。
引用文献
文野 洋 (2011).体験から環境を学ぶ.茂呂雄二・田島充士・城間祥子編『社会と文化の心理学―ヴィゴツキーに学ぶ』.世界思想社:京都.pp.175-189.
文野 洋 (2013).被災地支援ボランティア体験の語りにおける体験の個別化.日本社会心理学会第54回大会発表論文集,193.
※本研究は,科学研究費補助金(基盤研究(C),課題番号23530830)の助成を受けて行われた。
体験学習等における活動のふりかえりでは,活動参加時の体験について他の参加者と語り合うことで体験に意味づけが与えられ,各参加者の個別の体験が構成されていくと考えられる(文野,2011)。本研究では,ボランティア活動の参加者を対象とした同行調査を行い,異なる時点での活動のふりかえりの語りを比較することで,体験の意味づけの個別化の過程を探索的に検討することを目的とする。
方 法
対象者:文京学院大学地域連携推進員会の下で大学教員の引率により実施された東日本大震災被災地支援ボランティアの活動に参加した学生18名。
活動概要:2012年9月に岩手県遠野市を拠点とするNPO法人まごころネット(以降「まごころネット」)によるボランティア活動に団体で参加した。日程は3泊4日であった(詳細は文野(2013)を参照)。
手続き:ボランティア活動後,2012年10月下旬~11月初旬に,同時に複数名を対象とした半構造化インタビューを行った。質問内容は活動への参加動機,活動で印象に残っていること/人,各作業の感想,被災地について自分たちにできること,活動後に感じた自身の変化等であった。また,1日の活動終了後のバスの中で記入した活動報告,各作業日の夜に実施したミーティングでの参加者の感想,活動終了後1週間前後に学内報告用に各参加者が執筆した感想文についても許可を得て分析対象とした。
分析手続き:参加者の活動報告,ミーティングでの感想,活動後の感想文,インタビューでの語りを対象に,参加者を通じて共通してみられる語りが現れる時点に着目しながら各参加者の語りの変化を検討した。また,参加者の活動履歴(初回,2回目)による比較も行った。
結果と考察
活動初日の感想では,初回参加者のみが,メディアからの情報による現地の印象と現実の情況との相違について言及していた。2回目となる参加者は,以前の風景と「変わっていない」ことや,復興に向けた作業に初めて取り組んだことに言及していた。また,津波の被害を示す痕跡は,被災者の生活や心情に対する思いや自身の責務の自覚を強く喚起していた。この傾向はとくに初回参加者にみられた。これらのことから,「新しい体験」が語られやすいといえる。
全体的に,活動日に語られた内容は,インタビューのみを対象とした分析結果(文野,2013)と同様,参加者間で共通する意味づけが多くみられ,多様性は見られなかった。しかし,各参加者の感想文では,当日の感想では見られなかった語りが含まれており,他者の語りの採り入れが行われていた。とくに,現地のボランティアスタッフの語りは,短期間の活動の貢献度に関する参加者の懸念を解消する役割を果たしていた。
引用文献
文野 洋 (2011).体験から環境を学ぶ.茂呂雄二・田島充士・城間祥子編『社会と文化の心理学―ヴィゴツキーに学ぶ』.世界思想社:京都.pp.175-189.
文野 洋 (2013).被災地支援ボランティア体験の語りにおける体験の個別化.日本社会心理学会第54回大会発表論文集,193.
※本研究は,科学研究費補助金(基盤研究(C),課題番号23530830)の助成を受けて行われた。