[PD004] 社会化エージェントの多層的影響に関する研究(11)
友人関係と教師のエージェント機能における交互作用的影響の検討
Keywords:社会化, 交互作用的影響, 視点取得
子どもを取り巻く環境要因は社会化を促すエージェントとして相乗的・相互補完的に社会化に作用する (吉澤他, 2013)。エージェント間の効果を比較した研究では,友人関係が子どもの社会化に大きな影響を及ぼすと論じられ,友人関係をもたない子どもは適切な社会化がなされないとされる (Vandell, 2000)。また,いじめなど仲間からの排斥は,公正さの欠けた自己中心的判断へと人々を導くことも示されている (Prooijen et al., 2006)。一方で,教育場面における子どもの社会化プロセスを検討するうえでは,友人関係だけでなく,教師の影響も同時に考慮する必要がある (Harris, 1998)。そこで本研究では,子どもの社会化にとって重要な要素である視点取得 (Davis et al., 1996) に着目し,友人関係機能と教師のリーダーシップとの交互作用的効果について検討する。とくに,友人関係が機能していない中学生に着目する。
方 法
対象者 東海地方の中学生に対して調査を行った。有効回答は720名 (男子354名, 女子366名; 1年生252名, 2年生243名, 3年生225名) であった。
測定項目 子どもの社会化指標として,(a) 児童用多次元共感性尺度 (長谷川ら, 2009) の“視点取得”(9項目5件法, ? = .79) を測定した。また,社会化エージェントに関する要因として,(b) 丹野 (2009) の友人関係機能 (12項目5 件法, ? = .95),(c) 三隅・矢守 (1989) の教師のリーダーシップ尺度 (“配慮”: 4項目5件法, ? = .80;“厳しさ”: 3項目5件法, ? = .75;“指導”: 4項目5
件法, ? = .60“親近性”: 3項目5件法, ? = .64) を測定した。
結果と考察
各社会化エージェント機能を説明変数,子どもの視点取得を基準変数とする階層的重回帰分析 (強制投入法) を実施した (Table 1)。Step 1では,友人関係機能と教師のリーダーシップを説明変数に投入し,Step 2では友人関係機能と教師のリーダーシップとの交互作用項を追加投入した。
分析の結果,友人関係機能と教師のリーダーシップとの交互作用項を投入したStep 2において,説明率が有意に上昇していた (ΔR2 = .012, p <.05)。具体的には,友人関係機能と教師リーダーシップの配慮との有意な交互作用がみられた。そこで,単純傾斜分析を実施したところ (Figure 1),友人関係機能高群では,教師の配慮に有意な正の傾きが認められたが,友人関係機能低群では,教師の配慮に有意な負の傾きが認められた。
子どもの視点取得能力を高めるためには,教師が子どもの自律的な意思決定を日常的に支援することが有効である (Reeve & Jang, 2006)。しかし本知見から,教師の配慮が子どもの視点取得能力を高めるのは,友人関係がエージェントとして機能している状況に限定され,対人ストレスや排斥により友人関係がエージェントとして機能していない子どもに対する教師の配慮は,自律的な意思決定をかえって阻害する可能性が示唆された。本研究の知見により良好な友人関係が土台となってはじめて,他の社会化エージェントも機能する可能性が示唆された。学校場面に注目した本研究では,社会化エージェントとして友人関係と教師のみを扱ったが,今後は,親や地域住民の影響を考慮したより包括的なモデルを想定し,縦断的研究によって因果関係を明らかにする必要があるだろう。
方 法
対象者 東海地方の中学生に対して調査を行った。有効回答は720名 (男子354名, 女子366名; 1年生252名, 2年生243名, 3年生225名) であった。
測定項目 子どもの社会化指標として,(a) 児童用多次元共感性尺度 (長谷川ら, 2009) の“視点取得”(9項目5件法, ? = .79) を測定した。また,社会化エージェントに関する要因として,(b) 丹野 (2009) の友人関係機能 (12項目5 件法, ? = .95),(c) 三隅・矢守 (1989) の教師のリーダーシップ尺度 (“配慮”: 4項目5件法, ? = .80;“厳しさ”: 3項目5件法, ? = .75;“指導”: 4項目5
件法, ? = .60“親近性”: 3項目5件法, ? = .64) を測定した。
結果と考察
各社会化エージェント機能を説明変数,子どもの視点取得を基準変数とする階層的重回帰分析 (強制投入法) を実施した (Table 1)。Step 1では,友人関係機能と教師のリーダーシップを説明変数に投入し,Step 2では友人関係機能と教師のリーダーシップとの交互作用項を追加投入した。
分析の結果,友人関係機能と教師のリーダーシップとの交互作用項を投入したStep 2において,説明率が有意に上昇していた (ΔR2 = .012, p <.05)。具体的には,友人関係機能と教師リーダーシップの配慮との有意な交互作用がみられた。そこで,単純傾斜分析を実施したところ (Figure 1),友人関係機能高群では,教師の配慮に有意な正の傾きが認められたが,友人関係機能低群では,教師の配慮に有意な負の傾きが認められた。
子どもの視点取得能力を高めるためには,教師が子どもの自律的な意思決定を日常的に支援することが有効である (Reeve & Jang, 2006)。しかし本知見から,教師の配慮が子どもの視点取得能力を高めるのは,友人関係がエージェントとして機能している状況に限定され,対人ストレスや排斥により友人関係がエージェントとして機能していない子どもに対する教師の配慮は,自律的な意思決定をかえって阻害する可能性が示唆された。本研究の知見により良好な友人関係が土台となってはじめて,他の社会化エージェントも機能する可能性が示唆された。学校場面に注目した本研究では,社会化エージェントとして友人関係と教師のみを扱ったが,今後は,親や地域住民の影響を考慮したより包括的なモデルを想定し,縦断的研究によって因果関係を明らかにする必要があるだろう。