日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PD

(5階ラウンジ)

2014年11月8日(土) 10:00 〜 12:00 5階ラウンジ (5階)

[PD008] 国立教員養成系大学生の教師特有のビリーフに関する検討

学生の志望学校種による差異に着目して

高野七良見1, 河村茂雄1 (早稲田大学)

キーワード:教師特有のビリーフ

【問題と目的】
河村・國分(1996)は教師には共通する強迫性の高いビリーフがみられることを指摘している。先行研究では,教師のビリーフの強迫性の高さについて,リーダーシップ行動の集団維持機能および勢力資源の魅力面の低下(河村・田上,1998),子どもを捉える視点の限定(渡部・加世田,2004),不快感の高さ(河村・鈴木・岩井,2004)等との関連が報告されている。このことから,教師のビリーフの強迫性の高さは教師の態度や指導行動,感情面に望ましくない影響を及ぼす可能性があると考える。
鈴木(2007)はビリーフの学校差を調査したところ,「教職への熱意」「敬慕される教師像」の得点において小,中学校教師よりも高校教師の方が有意に低いことを明らかにしている。また,教師特有のビリーフの「教職への熱意」から「教師―生徒関係」「同僚関係」へ,「教師―生徒関係」「同僚関係」から「教育上の成果」へ正のパスが認められることを明らかにし,教職への熱意は職務を遂行するうえで必要なビリーフであると指摘するとともに,高校教師の教職への熱意の低さを危惧している。このことから,高校教師の教職に対する熱意の低さについては,その要因の何らかの検討が求められると考える。
河野(2007)は教員志望学生の教師特有のビリーフは非教員志望学生のビリーフよりも高いことを指摘している。このことから,教師特有のビリーフは養成段階から形成されている可能性があると考えられる。そこで,本研究ではまず,入職前の段階として,高校教師を志望する学生の教師特有のビリーフについて特徴がみられるかどうかを検討することを目的とした。
【方法】
調査対象 関東にある国立A大学の教職課程を履修する2年生から4年生160名を対象とした。
調査時期 2011年7月に「教師特有の指導行動を生むイラショナル・ビリーフ尺度」(河村ら,1996)を実施した。また,「志望順位の一番高い校種」について4件法で回答を求めた。
【結果】
「志望順位の一番高い校種」について「特別支援学校」を選択した学生は4名だったため,分析から除外し156名を分析対象とした。教師特有のビリーフの学生の志望学校種による差を検討するため,教師特有のビリーフ尺度の3因子を独立変数,志望学校種を従属変数とした一要因分散分析を行った(Table 1)。その結果,有意差が認められたため,Tukey法による多重比較を行った。分析の結果,児童(生徒)管理・生活指導に関する因子は高校志望者の方が中学校志望者よりも得点が低い傾向にあること,教師の熱意・使命感に関する因子は高校志望者の方が小学校志望者よりも得点が有意に低いこと,児童(生徒)に期待する教師への信頼感に関する因子は高校志望者の方が中学校志望者よりも得点が有意に低いことが示唆された。
【考察】
教職に対する熱意・使命感,児童および生徒に期待する教師への信頼感において高校志望者は他校種の志望者と比べて得点が低いという結果は,鈴木(2007)の教員を対象とした調査と同様の傾向であった。このことから,高校教師については入職前から教職に対する熱意・使命感,生徒に期待する教師への信頼感が低い傾向にあり,その傾向は入職後も大きく変容しない可能性があることが推察された。一方,児童(生徒)管理・生活指導に関する因子においては高校志望者の方が中学校志望者よりも得点が低い傾向にあることが示唆された。これは,児童(生徒)管理・生活指導に関する因子と対応すると考えられる「毅然とした指導」には学校差が見られないという鈴木(2007)の結果とは異なる傾向であった。教師特有のビリーフは教師の職業文化の影響を受けて形成されることが指摘されている(河村ら,1998)。よって,高校教師の生徒管理・生活指導に関するビリーフについては,入職後に職業文化の影響を受けて変容していく可能性があるのではないかと推察された。なお,本研究では教員との直接的な比較を行っていないため,今後さらなる検討が求められると考える。