The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PD

(5階ラウンジ)

Sat. Nov 8, 2014 10:00 AM - 12:00 PM 5階ラウンジ (5階)

[PD012] 感謝の社会的認知モデルにおける「状況要因」の検討

吉野優香1, 相川充2 (1.筑波大学大学院, 2.筑波大学)

Keywords:状態感謝, 被援助状況, 状況要因

問題と目的
「感謝」は,他者の善意によって自己が利益を得ていることを認知することで生じるポジティブな感情(Tsang, 2006)と定義され,一時的な情動状態である「状態感謝」と,感謝のしやすさ,感じやすさといった個人特性の「特性感謝」の2水準がある(Watkins et al., 2003)。
2水準の感謝の関係について,Wood et al. (2008)は,特性感謝と状態感謝の関係を説明する社会的認知モデルを主張している。このモデルは,「特性感謝」と「状況要因」が,被援助者の被援助への主観的評価である「利益の評価」を高く見積もらせるため,「状態感謝」は強く経験される,と説明する。しかしWood et al. (2008)は,このモデルにおける「状況要因」に関して検討していない。
「状況要因」を検討する際に,感謝は被援助場面で生じる感情と限定するならば,被援助研究の成果(泉井ら,2010など)が参考になる。感謝研究においても,被援助場面について検討することで「状況要因」が明らかになるのでないかと考えられる。
そこで本研究では,感謝の社会的認知モデルの「状況要因」を検討するために,大学生が経験する被援助状況と状態感謝の関係を分析する。
方法
調査方法:質問紙法 参加者:大学生222名(男性106名・女性116名) 質問紙構成: 最近経験した被援助状況を自由記述させ,質問に回答させた。質問は,Wood et al. (2008)を和訳した「状態感謝」を測る項目と,被援助研究を基に作成した「援助意図(1:依頼した,2:相手が申し出た,0:その他)」を測る項目)であった。
結果と考察
自由記述により得た被援助状況を,「いつ」「どこで」「誰に(援助者)」「手助けの内容」「手助けの結果」の大カテゴリーで分類し,それを小カテゴリーでさらに分類した。「いつ」は被援助を受けたのが“いつ”であるかについての関心の有無で2つの小カテゴリーに分類した。「どこで」は被援助を受けた場所により3つの小カテゴリーに分類した。「誰に(援助者)」は,援助者と被援助者の関係により4つの小カテゴリーに分類した。「手助けの内容」は,ソーシャルサポートの種類の分類をもとに3つの小カテゴリーに分類した。「手助けの結果」は,制御焦点理論(Higgins, 1997)をもとに3つの小カテゴリーに分類した。各小カテゴリーについて自由記述の内容の有無をダミー変数とした。項目で質問した「援助意図」は,依頼による援助か,援助者の自発的な援助かの2つの小カテゴリーにわけ,回答の有無をダミー変数とした。
被援助者が被援助状況をどのようにとらえているかを明らかにするため,上記のデータを用いて階層的クラスタ分析を行った。「どこで」を除き,合計14 の小カテゴリーを投入変数(最遠隣法‐平方ユークリッド距離)として扱った。最終的に5つのクラスタを抽出した。
第1クラスタは,友人・知人からの自発的な情報的支援を受け,被援助の結果を促進焦点でとらえていた。第2クラスタは,困難状況におかれた被援助者が家族や職業従事者に依頼をし,情緒的支援を受け,被援助の結果を促進焦点でとらえていた。第3クラスタは,第2クラスタとほぼ共通だが,被援助が援助者から自発的になされていた。第4クラスタは,友人・知人に依頼をし,情報的支援や道具的支援を受けていた。第5クラスタは,他のクラスタより知らない人から自発的な道具的支援を受け,被援助の結果を予防焦点でとらえていた。
次に,各クラスタ間で状態感謝に違いがあるかどうか確認するため,平均値について一要因分散分析を行った。各クラスタ間に有意傾向の主効果がみられた(F(4, 222)= 2.41 p< .10)。多重比較(Tukey 法)の結果,第2クラスタ(M= 5.70)のほうが第5クラスタ(M= 5.18)よりも,有意傾向だが強い状態感謝を報告した(p< .10)。
以上の結果より,状態感謝は,援助意図では,「自発」より「依頼」のほうが強く,手助けの内容では,「道具的支援」より「情緒的支援」のほうが強く,被援助の結果は「予防焦点」よりも「促進焦点」で捉えるほうが強く経験されるという可能性が示された。