The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

Presentation information

ポスター発表 » ポスター発表 PD

ポスター発表 PD

(5階ラウンジ)

Sat. Nov 8, 2014 10:00 AM - 12:00 PM 5階ラウンジ (5階)

[PD063] 聴覚障害生徒における読書力と学びの力との関連

標準読書力診断テストにおける下位検査間の偏りに着目して

桑原一哲 (北海道高等聾学校)

Keywords:聴覚障害, 読書力, 学習言語

目 的
特別支援学校(聴覚障害)高等部に在籍する生徒に読書力を測るための検査を実施し,傾向を把握するとともに,教育活動との関連等について考察する。

方 法

対象及び実施時期 公立特別支援学校(聴覚障害)高等部の生徒78名。2011年4月。
検査 標準読書力診断テスト(金子書房)。発達段階に応じてBIからDまでが準備されている。今回は65名がD式を使用し,それ以外の生徒はC式を使用した。

結 果

Figure1は,結果示された読書力学年の構成比である。対象の2/3強が中3以下の段階であり,1/2弱が小6以下の段階である。1/3弱は高1から高3以上の段階である。
Figure2は速読,読解,読字,単語の各下位検査の結果について読書力学年を2学年ごとに区切ってグラフで表したものである。下位検査の個人内差を見ると,「速読」「読字」(漢字の読み)に比較し,「読解」「単語」が著しく低い。特に最も多人数で構成される中1から高1までの集団においてこの偏りは顕著だが,このことを勘案すると,この集団における読解力は小3から小4程度と考えられる。
また,発達検査(新田中B式)と読書力学年の相関係数はr=0.3686であり,相関は必ずしも高いとはいえなかった。

考 察

下位検査における個人内差は,いわゆる「9歳の壁」の存在を「読解力」と「単語」において明瞭に示した結果とも言えるが,読書力は書記日本語の学習を進めるにつれ,値が変化する(向上する)ことであることにも留意すべきである。
日本の学校における教科の学びは日本語母語話者を対象に,「日本語」によって進められる。日本語のリテラシー能力の不足は,そのまま教科の学びの困難さにつながる。教科内容が深まる,深まらない,の前に,そもそも日本語で書かれている内容をよく読み取れなければならないからである。
注意が必要なのは,あくまで読書力検査は,日常生活における会話などで使う生活言語ではなく,学びの活動で必要になる学習言語を測るものであることであることと,そもそも聴覚に障害のない日本語母語話者の児童・生徒向けにつくられているということである。
よく喋る生徒でも,メールでやりとりができても,学習言語の力が高まっているとは言い難い。学びの力は,生活体験や日常の会話によって向上するものではない。教科の学びを深めるための,良質な授業をいかに提供できるかにかかっている。

引用文献

脇中起余子(2011). 聴覚障害児と「9歳の壁」~「生活言語」から「学習言語」へ~ 聴覚障害第66巻,聾教育研究会