[PD099] 顕在・潜在的内的作業モデルが対人ストレス・コーピングに及ぼす影響
潜在連合テスト(Implicit Association Test)を用いた検討
Keywords:内的作業モデル, 対人ストレス・コーピング, 潜在連合テスト
問題と目的
対人ストレス場面における対処方略が,愛着スタイルによって異なることはAinsworth et al.(1978)の幼児を対象とした研究で明らかになっている。金政(2005)は青年期において,愛着の内的作業モデル(IWM)の見捨てられ不安と親密性の回避が共に高ければ,対人ストレス・コーピング(SC)のネガティブ関係コーピングを用いやすいことを報告した。しかしながら,近年IWMの無意識(潜在)的側面の重要性が指摘されている(坂上,2005)にも関わらず,金政(2005)では,自記式尺度を用いたため,IWMの意識(顕在)的側面しか測定していない。そこで大浦ら(2014)は,自記式尺度を用いて顕在的IWMを,藤井ら(2012)の潜在連合テスト(IAT)を用いて潜在的IWMを測定し,感情調節との関連を検討した。その結果,女性において顕在不安が低く潜在不安が高い場合に感情の統制が最も強くなることを報告した。このことから愛着に関連する他の変数についても顕在的WMだけでなく,潜在的IWMが及ぼす影響を検討する必要があると思われる。よって本研究では,顕在的IWMと潜在的IWMが対人SCに及ぼす影響を検討した。
方法
実験協力者:平均年齢18.73歳(SD = .837)の大学生45名(男性19名,女性26名)であった。
変数:顕在的IWMはECR-GO(Brennan et al., 1998; 中尾,2004)を用いて測定し,顕在不安と顕在回避得点を得た。潜在的IWMの測定には藤井ら(2012)の不安IATと回避IATを用い,潜在不安と潜在回避得点を得た。対人SCは短縮版対人SC尺度(加藤,2002)を用い,ポジティブ関係コーピング(PRC),ネガティブ関係コーピング(NRC),解決先送りコーピング(SDC)得点を得た。なお,顕在IWMと潜在IWMは大浦ら(2014)と同じデータを用いた。
結果
従属変数に対人SCの各下位尺度を用い,年齢と性別を統制変数,顕在不安・回避,潜在不安・ 回避を独立変数,続いて顕在不安×顕在回避,潜在不安×潜在回避,顕在不安×潜在不安,顕在回避×潜在回避の交互作用項を投入し,階層的重回帰分析を行った。その結果,NRCにおいて,1)潜在不安×潜在回避(β = -.304)と2)顕在不安×潜在不安(β = -.312)の交互作用が有意傾向となった。得られた回帰式で両下位尺度得点の平均±1SDの値を代入し,Figure 1, 2に示した。単純傾斜の検定を行った結果,1)において潜在不安が高い場合に潜在回避の効果が5%水準で有意となった(β = -.539)。さらに,2)において潜在不安が低い場合に顕在不安の効果が5%水準で有意(β = .550)に,顕在不安が低い場合に潜在不安の効果が有意傾向となった(β = .431)。
考察
本研究の結果,NRCにおいて,1)潜在不安と潜在回避,2)顕在不安と潜在不安の交互作用がみられることが分かった。1)において,潜在回避の効果は潜在不安が高い場合にのみ限定されていた。また,2)において,潜在不安の効果は顕在不安が低い場合に,顕在不安の効果は潜在不安が低い場合に限定されており,潜在不安が高い場合は顕在不安が調整効果を示さなかった。このことから,自記式尺度で測定したNRCにおいて,潜在IWMの効果は限定的ではあることが示唆された。
対人ストレス場面における対処方略が,愛着スタイルによって異なることはAinsworth et al.(1978)の幼児を対象とした研究で明らかになっている。金政(2005)は青年期において,愛着の内的作業モデル(IWM)の見捨てられ不安と親密性の回避が共に高ければ,対人ストレス・コーピング(SC)のネガティブ関係コーピングを用いやすいことを報告した。しかしながら,近年IWMの無意識(潜在)的側面の重要性が指摘されている(坂上,2005)にも関わらず,金政(2005)では,自記式尺度を用いたため,IWMの意識(顕在)的側面しか測定していない。そこで大浦ら(2014)は,自記式尺度を用いて顕在的IWMを,藤井ら(2012)の潜在連合テスト(IAT)を用いて潜在的IWMを測定し,感情調節との関連を検討した。その結果,女性において顕在不安が低く潜在不安が高い場合に感情の統制が最も強くなることを報告した。このことから愛着に関連する他の変数についても顕在的WMだけでなく,潜在的IWMが及ぼす影響を検討する必要があると思われる。よって本研究では,顕在的IWMと潜在的IWMが対人SCに及ぼす影響を検討した。
方法
実験協力者:平均年齢18.73歳(SD = .837)の大学生45名(男性19名,女性26名)であった。
変数:顕在的IWMはECR-GO(Brennan et al., 1998; 中尾,2004)を用いて測定し,顕在不安と顕在回避得点を得た。潜在的IWMの測定には藤井ら(2012)の不安IATと回避IATを用い,潜在不安と潜在回避得点を得た。対人SCは短縮版対人SC尺度(加藤,2002)を用い,ポジティブ関係コーピング(PRC),ネガティブ関係コーピング(NRC),解決先送りコーピング(SDC)得点を得た。なお,顕在IWMと潜在IWMは大浦ら(2014)と同じデータを用いた。
結果
従属変数に対人SCの各下位尺度を用い,年齢と性別を統制変数,顕在不安・回避,潜在不安・ 回避を独立変数,続いて顕在不安×顕在回避,潜在不安×潜在回避,顕在不安×潜在不安,顕在回避×潜在回避の交互作用項を投入し,階層的重回帰分析を行った。その結果,NRCにおいて,1)潜在不安×潜在回避(β = -.304)と2)顕在不安×潜在不安(β = -.312)の交互作用が有意傾向となった。得られた回帰式で両下位尺度得点の平均±1SDの値を代入し,Figure 1, 2に示した。単純傾斜の検定を行った結果,1)において潜在不安が高い場合に潜在回避の効果が5%水準で有意となった(β = -.539)。さらに,2)において潜在不安が低い場合に顕在不安の効果が5%水準で有意(β = .550)に,顕在不安が低い場合に潜在不安の効果が有意傾向となった(β = .431)。
考察
本研究の結果,NRCにおいて,1)潜在不安と潜在回避,2)顕在不安と潜在不安の交互作用がみられることが分かった。1)において,潜在回避の効果は潜在不安が高い場合にのみ限定されていた。また,2)において,潜在不安の効果は顕在不安が低い場合に,顕在不安の効果は潜在不安が低い場合に限定されており,潜在不安が高い場合は顕在不安が調整効果を示さなかった。このことから,自記式尺度で測定したNRCにおいて,潜在IWMの効果は限定的ではあることが示唆された。