[PE004] 児童を対象とした社会的能力の向上と学習への取組促進の効果
SEL-8Sプログラムを活用して
Keywords:社会的能力, SEL-8S学習プログラム, 学習への取組促進
目的
近年,学校現場では,子どもの社会的能力を育み,望ましい人間関係を構築するための取組が数多くなされている。生徒指導提要(文部科学省,2010)でも,学習指導における生徒指導として,学習活動が成立するために,一人一人の児童生徒が落ち着いた雰囲気の下で学習に取り組めるよう,基本的な学習態度の在り方等についての指導を行うことと述べられている。学習場面において,望ましい人間関係を築いていくことができれば,児童生徒一人一人が存在感をもって,共感的な人間関係のもとで学習を進めていくことができると考える。
そこで,本研究では,社会性と情動の学習(Social and Emotional Learning,以下SEL)の中の特定のプログラムとして,小泉(2011)が提唱するSEL-8S(Social and Emotional Learning of 8 Abilities at the School)プログラムを活用して,児童の社会的能力を向上させ,学習場面における意欲促進の効果について検討することを目的とする。
方法
実施時期:2013年6月~同年12月
調査対象:県内の公立小学校2校のうち1校(児童数404名)を実験学校,他校(児童数464名)を統制学校とした。
手続き:これまでのSEL-8Sプログラムの実践(香川・小泉,2012)をもとに,実験学校の教育課程に,低学年では8回,中学年以上では9回の学習プログラムの学習を位置づけた。各学年の内容については小泉・山田(2011)を中心にして,主幹教諭と相談して学校全体に提案し,当該学年の担当教師の修正を加えて決定した。その際,他教科との関連,事後活動への接続,強化のための環境整備などを確認した。
効果測定:
①社会的能力:SEL8つの能力尺度(田中・真井・津田・田中,2011)に従って,全学年における教師評定,3学年以上は児童の自己評定の両方を行った。評価は,実験学校学級と統制学校において,SEL-8Sプログラムを実施する前の2013年6月上旬に1回目(実施前),取組終了後の同年11月下旬に2回目(実施後)を行った。
②学習への取組意欲:児童による5日間の記録を,チェック表を用い①同様,2回測定した。「朝の登校」「掃除」「学習への意欲(持ち物,授業態度)」「家庭学習」について「できた(1点)」「できなかった(0点)」で記録した。
③学習定着度:2年生以上の,1,2学期末の市販のテスト(国語200点満点),算数(150点満点),漢字の書きテスト(100点満点)の得点を使用した。
結果
実験学校と統制学校の測定結果をまとめ,実施(実験群,統制群)×時期(実施前,実施後)の2要因分散分析を行った。交互作用に注目すると,①の社会的能力について,児童評定における3年生の「自己への気づき」「人生の重要事態に対処する能力」,4年生の「自己への気づき」,5年生の「他者への気づき」,6年生の「他者への気づき」「生活上の問題防止スキル」で,実験学校の得点上昇あるいは統制学校より高得点となる有意な結果が得られた。教師評定では,6年生の社会的能力の8能力すべてで同様の結果が得られた。③の学習定着を図るための市販テストの結果においても,2~6年の国語(図),4年の算数,4,6年の漢字において同じような有意なまたは有意傾向のある交互作用が見られた。②の取組意欲については,平均点の上昇は見られるものの,実験群と統制群の間に統計的に有意な差はなかった。
考察
約3か月間にわたるSEL-8Sプログラム実施の結果,実験学校の社会的能力得点は,教師評定において上昇し,児童の社会的能力を一定程度向上させることができた。これは,実験学校が全職員共通理解のもと社会的能力を向上させるための取組を行ったためと考える。教師の日常の声かけが変わったり,学習後の継続的な取組につなげようとする工夫があったりしたことで,強化・般化につながったと考えられる。学習で学んだ言葉かけによって,授業中の望ましい態度が強化されたり,よさを認め合おうとする友達同士の声かけが増えたりして,児童の学習への取組が促進されたと考える。
【付記】本研究は,(独)科学技術振興機構 社会技術研究開発センター 研究開発成果 実装支援プログラムの助成を受けた。