The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PE

(5階ラウンジ)

Sat. Nov 8, 2014 1:30 PM - 3:30 PM 5階ラウンジ (5階)

[PE020] 保育士養成機関における模擬ケース会議の可能性

IPE(多職種連携教育)の構築にむけて

荊木まき子1, 森田英嗣2 (1.兵庫教育大学連合大学院, 2.大阪教育大学)

Keywords:IPE(多職種連携教育), 教育・福祉専門職養成機関, 協働

問題と目的
多職種連携教育(Inter professional education;IPE)が,医療領域の養成教育に取り入れられつつある(吉村,2012)。多職種協働の重要性は,教育領域でも同様である。従って本研究は,教育・福祉領域の養成段階にある学生に,協働に関する講義を行い,学生の学びについて検討する。
方 法
対象:保育士・福祉領域の専門学校学生(23年度前期34名・後期32名,24年度前期33名・後期19名,合計118名)。
時期:2011年9月~2013年2月間の計4回
実施講義:教育心理学(必修)の講義において,全15回の内,最後3回を協働の単元として行った。
実施方法:A)1回目は,コンサルテーションや協働の概念の説明と事例検討を行った。B)2回目は,情報カード実習(柳原,1976)により,模擬の幼稚園ケース会議を行った。5人班を作り,幼稚園の担任,園長,カウンセラー,教育センターの子ども担当相談員,親担当相談員に役割を振った。人数調整に書記を置く班もあった。C)ケース会議の説明を記した指示書,各役割に対し6枚の情報カードを渡し,口頭のやり取りを指示した。D)まとめた情報をカンファレンスシート(大阪府教育委員会,2006)に記入し,支援計画を立ててもらった。E)3回目,各班が「アセスメントの結果明らかになったこと」「確認すべきこと」「長期的な支援計画」「短期的な支援計画」を発表した。F)最後に,本講義全体の感想を記名式で記述した。
分析方法:a)感想から,模擬ケース会議について書かれたものをより分け,通し番号を振った。b)個々の意味のかたまり毎に切片化し,SCAT分析(大谷,2007)により,コード化した。c)コード化したものをIPEの6つの意義(CAIPE,2011;仁木,2009)に該当するものと,それ以外に分け,他の意味は類似するテーマ毎にグループ化した。使用したIPEの6つの意義とは,先進的なIPEを行う英国の団体CAIPEが示しており,利用者や介護者の1.ニーズ中心,専門職間の機会の2.公平性,専門職間の違いを理解する3.相違の尊重,4.各専門性の(目標や違いの)明確化と理解,専門家同士の5.連携による障害と対立への対応の確認,6.専門用語の使用回避または説明で構成されていた。
結 果
F)の118名の内,協働と無関係な記述をした者は49名(41.5%),協働に関する記述をした者は69名(58.5%)だった。協働に関する記述は,複数回答も含め分析した。その結果,IEPの意義を記述した者は92名(78.0%),内訳は1.ニーズ中心17名(14.4%),2.公平性1名(0.8%),3.相違の尊重11名(9.3%),4.各専門性の明確化と理解39名(33.1%),5.連携による障害と対応の確認20名(16.9%),6.専門用語の使用回避または説明4名(5.3%)だった。他,7.ケース会議自体の意義を書いた者33名(28.0%),「カウンセラーや担任が頑張ればいい」等の8.協働自体が理解困難だった者4名(3.4%),「スムーズな話し合いだった」等の9.意味不明の者2名(1.7%)であった。
考 察
協働の講義自体は親近性効果もあるが,概ね学生の印象に残る内容だったと考えられる。IPEの意義に関し,最も多かった4.各専門性の明確化と理解は,各専門職や役割での視点を元に情報を作成したため,自分や他職種の専門性,役割が理解しやすかったのかもしれない。1.ニーズ中心や5.連携による障害と対応の理解も,異なる情報を共有・整理する過程で,利用者理解が深まり,多職種によるケース会議の利点や困難が模擬とはいえ理解できた可能性がある。一方最も少なかった2.公平性に関しては,同じ専門性を学ぶ学生同士であったため,専門職間の従来の関係性や背景にある立場の違いが反映されなかったと考えられる。こうした部分は3.相違の尊重,6.専門用語の使用回避または説明でも共通しうる。相違点の理解には,実際の異なる専門領域が出会う場面を設定しなければ,学びが起こりづらいのかもしれない。他の7.ケース会議自体の意義を記述した学生は,集団討議や意見調整の意義,困難等について記述していた。これらは協働の基盤となるスキルとして,重要な要素となりうる。8.協働の意味自体が理解困難については,実際の協働場面でも見られる考えであり,今後の検討が必要となるだろう。
以上模擬ケース会議において,会議手法や他職種・利用理解には一定の効果を発揮したが,相違点の理解に課題が見られた。今後の展開として,実際の多職種交流の演習が必要と考えられた。