The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PE

(5階ラウンジ)

Sat. Nov 8, 2014 1:30 PM - 3:30 PM 5階ラウンジ (5階)

[PE036] 算数のバグを初めて知る大学生の反応

学習のとらえ直し

鈴木敦子 (桐朋学園大学)

Keywords:算数, 学習, 大学生

【問題】「バグる」という動詞は学生の間で一般的になっているようである。何かを間違えるという意味でこれ自体は正しいといえる。しかし、もともとこの言葉はコンピュータ用語であり、プログラミングの過ちを示している。それが転じて算数問題などの誤答に「バグがある」という言い方をしていることを知っている学生は少ない。今回大学での学習心理学の授業でこのバグを扱った。小学生の算数の筆算、および応用問題で誤答として扱われた回答をバグという観点から解説を行った。この小学生達は単に計算ができなかったわけではなく、その子どもなりの理由、論理に従って問題を解き、結果として間違いになってしまったことを学生に示した。対象の学生は特に教職を目指してはおらず、従って教育に関心が高かったわけではなく文系の一般学生であったがその驚きは大きかった。算数の出来ない小学生は教師の説明をよくきいていないか、あるいはトレーニング不足が原因と考えていたようである。思い込みではあるが、その子どもなりのロジックでシステマティックに間違っているとは思い至らなかったのである。本研究ではバグに関する講義を受けた後に学生が記したコメントペーパーを分析し、それまでの学習観の変化を示す。
【方法】小学校低学年で学習する繰り下がりのある3桁の引き算(筆算)で生じるバグを学生に提示し、そのメカニズムを説明した。

間に合わせ方略(回避)
一の位の計算はできるが、十の位の計算はこのままでは不可能になっている。そこで行き止まりになった桁の計算を何らかの形で回避する方略が用いられる。この場合、十の位の計算を回避し、計算が可能である百の位の結果を記す。回答にある11のうちの10は実は100であり、回答欄の1と1の間が空いてしまうので見栄えを考えて1を右に寄せたものと考えられる。ここで子どもはできる計算は行い、できない計算は回避して回答を出すという方略を用いている。3桁の引き算は一の位、十の位、百の位と3回計算を行わなければならず、この子どもは3回の計算がワンセットで一つの回答になるという概念にかけているのかもしれず、一つくらい回避しても問題ないと思っているのかもしれない。だが、いい加減なことをしているわけではなく、出来ない計算は回避して回答をだすという方略を使っているのである。
応用問題の例
かずこさんは、えんぴつを8ほんもっています。うしろになんぼんかくしているでしょう(右手にそれぞれ5本、4本、2本鉛筆を持ち、左手を後ろに隠している3人のかずこさんの絵が提示されている)。
この問題を解こうとした小学一年生は最初回答は不可能だと主張した。何故かと質問すると、同時に同じかずこさんが登場することはあり得ないので、回答できないという。そこで、実は朝のかずこさん、昼のかずこさん、夜のかずこさんが一緒に映っていて、時間差があると補足の説明を加えると即座に3本、4本、6本と正解を述べた。
【結果と考察】計算のバグに関しては小学生で同様のことをしていた記憶が蘇ったという。「算数が嫌いというよりわからないから嫌いでした。まさしく今日やった間に合わせ方略や縦の方略、類似の方略をたくさんしたことを覚えています」。「自分も同じことをしていたんだと思う。よく理解しないで問題を解いていた」。
また、応用問題に関しては大人と子どもの理解のずれに気づいた学生がいた。「小学校一年生は勉強をする上でとても重要な時期なので、正しく理解させるような文章にしなければいけないということです。特に“子どものため”と思っていれたはずの絵が逆に誤解を招いてしまう結果になりかねないのでそこが難しいと思いました」。「(小学生に出された問題は)よく考えると、問題の意図と枠をとらえなくてはそのまんま正直にとらえるとおかしいことがわかった」など、子どもの立場に立って考える視点が生じている。
学習は従来から反復練習が重要であると信じられている。問題が解けないのは練習不足であると考えている学生は多い。バグを説明されたことにより、子どもは子どもなりの論理で理解してとの気づきが生じたと思われる。