[PE046] 実用的利用価値の教授が学習者の動機づけ・パフォーマンスに及ぼす影響
Keywords:動機づけ, 課題価値
【問題と目的】
学習動機づけに関する近年の先行研究では,学習者が学習内容に対して価値ややりがいを見出しているとき,動機づけを高め,積極的に学習行動に取り組むことが示されている(Eccles & Wigfield,2002)。このような学習内容の価値を考える際に有用な理論的枠組みとなるのが,Ecclesらの提唱する課題価値理論(task value theory)である。
近年の研究では,課題価値の中でも特に学習内容がどのように実生活や社会に役立つのかを指す実用的利用価値の重要性が指摘されている。Hullemanらの研究グループは,高校生や大学生を対象に,学習内容の実用的利用価値の教授によって学習者の興味や学業達成が促進されることを示している (e.g., Hulleman & Harackiewicz, 2009)。
しかし,これまでの実用的利用価値に関する研究では学習内容の即時的・直接的な有用性のみを扱ってきた点で限界がある。学校教育で扱う学習内容は,学んですぐに役立つものばかりではない。学習することの価値には,実際的な応用可能性のみでなく,学習を通して生徒のものの見方や考え方が拡がることも含まれるのである (Brophy, 2004)。そこで本研究では,学習内容についてより長期的・間接的な実用的利用価値を学習者に教授し,その効果を実験的に検討する。
【方 法】
実験協力者 大学生48名(男子9名,女子39名:実験群27名,統制群21名)。
学習課題 「論理的推論問題」を課題とした。問題の作成にあたっては,就職試験SPIや公務員試験の問題集等から「推論問題」に関するものを選んで用いた。
手続き Figure 1に手続きの概要を示した。実験協力者は,実験参加前に論理的思考への自覚尺度(平山・楠見,2004)にWebアンケート上で回答を求められた。実験中には,実験群への操作として,本実験で扱う課題は論理的思考力を鍛えるものであることと,論理的思考力が日常生活でどのように有用であるかについて,パワーポイントを用いて説明された。
従属変数 ポスト測定では,課題への興味,有能感,エンゲージメント,興味の持続性が測定された。測定された尺度は全て9件法で,課題成績は6問からなる問題によって測定された。
【結 果】
ポスト時点の測定変数と課題成績を従属変数,論理的思考への自覚を共変量,群を独立変数とした共分散分析を行った(Table 1)。その結果,実用的利用価値の教授は有能感と課題成績には効果がみられず,課題への興味とエンゲージメント,興味の持続性を高めることが示された。
【考 察】
本研究の結果,学習内容について長期的視点からみた実用的利用価値を教授することで,従来の短期的な実用的利用価値の教授同様,学習者の興味やエンゲージメント,興味の持続性が高まることが示唆された。学習内容について即自的・直接的な有用性ではなくても,ある学習に取り組むことでどのような力が身に着き,その力が日々の生活でいかに重要なものなのかを教えることで,学習者の動機づけや学習行動を促進できる可能性が示唆された。
今後の課題として,異なる課題を用いて有能感や課題成績への影響を再検討すると同時に,抽象的な実用的利用価値独自の効果について検討することが挙げられる。
学習動機づけに関する近年の先行研究では,学習者が学習内容に対して価値ややりがいを見出しているとき,動機づけを高め,積極的に学習行動に取り組むことが示されている(Eccles & Wigfield,2002)。このような学習内容の価値を考える際に有用な理論的枠組みとなるのが,Ecclesらの提唱する課題価値理論(task value theory)である。
近年の研究では,課題価値の中でも特に学習内容がどのように実生活や社会に役立つのかを指す実用的利用価値の重要性が指摘されている。Hullemanらの研究グループは,高校生や大学生を対象に,学習内容の実用的利用価値の教授によって学習者の興味や学業達成が促進されることを示している (e.g., Hulleman & Harackiewicz, 2009)。
しかし,これまでの実用的利用価値に関する研究では学習内容の即時的・直接的な有用性のみを扱ってきた点で限界がある。学校教育で扱う学習内容は,学んですぐに役立つものばかりではない。学習することの価値には,実際的な応用可能性のみでなく,学習を通して生徒のものの見方や考え方が拡がることも含まれるのである (Brophy, 2004)。そこで本研究では,学習内容についてより長期的・間接的な実用的利用価値を学習者に教授し,その効果を実験的に検討する。
【方 法】
実験協力者 大学生48名(男子9名,女子39名:実験群27名,統制群21名)。
学習課題 「論理的推論問題」を課題とした。問題の作成にあたっては,就職試験SPIや公務員試験の問題集等から「推論問題」に関するものを選んで用いた。
手続き Figure 1に手続きの概要を示した。実験協力者は,実験参加前に論理的思考への自覚尺度(平山・楠見,2004)にWebアンケート上で回答を求められた。実験中には,実験群への操作として,本実験で扱う課題は論理的思考力を鍛えるものであることと,論理的思考力が日常生活でどのように有用であるかについて,パワーポイントを用いて説明された。
従属変数 ポスト測定では,課題への興味,有能感,エンゲージメント,興味の持続性が測定された。測定された尺度は全て9件法で,課題成績は6問からなる問題によって測定された。
【結 果】
ポスト時点の測定変数と課題成績を従属変数,論理的思考への自覚を共変量,群を独立変数とした共分散分析を行った(Table 1)。その結果,実用的利用価値の教授は有能感と課題成績には効果がみられず,課題への興味とエンゲージメント,興味の持続性を高めることが示された。
【考 察】
本研究の結果,学習内容について長期的視点からみた実用的利用価値を教授することで,従来の短期的な実用的利用価値の教授同様,学習者の興味やエンゲージメント,興味の持続性が高まることが示唆された。学習内容について即自的・直接的な有用性ではなくても,ある学習に取り組むことでどのような力が身に着き,その力が日々の生活でいかに重要なものなのかを教えることで,学習者の動機づけや学習行動を促進できる可能性が示唆された。
今後の課題として,異なる課題を用いて有能感や課題成績への影響を再検討すると同時に,抽象的な実用的利用価値独自の効果について検討することが挙げられる。