The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PE

(5階ラウンジ)

Sat. Nov 8, 2014 1:30 PM - 3:30 PM 5階ラウンジ (5階)

[PE052] 幼児は水平の障害物をいかに回避するか

「またぐ・くぐる」の選択に及ぼす環境要因の検討

江尻桂子1, 天野秀哉1 (茨城キリスト教大学)

Keywords:障害物回避, 危険認知, 幼児

目的
障害物回避行動の発達に関してはこれまで様々な研究が行われてきたが,なかでも本研究では根ケ山(2000)や,上野・奥住(2011)の研究で扱われた「水平のバーをまたぐかくぐるか」といった実験状況における障害物回避行為の発達について検討するものである。4~6歳児58名を対象に行った江尻・天野(2013)の研究では,対身長比40%と50%の高さの間でまたぐ→くぐるの転換が起こることや,年長児よりも年中児のほうが,障害物への接触率が高いことが確認された。一方でこの研究では,幼児らは根ケ山(2000)の結果に比べて,より短い時間で(時間をあまりかけずに)障害物を回避し,障害物接触率も高かった。これらの原因として,江尻・天野(2013)の研究ではゴムひもを障害物として用いたため,幼児は,障害物接触に伴う危険性を認知しにくい(回避すべきと意識しにくい)状況であった可能性が指摘された。このような実験装置(障害物の素材)による幼児の危険回避行動への影響を調べるため,本研究では,幼児が回避すべき障害物として,硬質のバー(触れると落下する)を用いて実験を行い,先の我々の研究の結果と比較することとした。

方法
実験協力者:年中児48名(男児24名, 女児24名。平均5歳5カ月,4歳11カ月~5歳10カ月)。年長児58名(男児25名, 女児33名。平均6歳5カ月, 5歳11カ月~6歳10カ月)
実験計画:年齢(2:年中・年長)×障害物の高さ(2:高・低)の2要因計画。
実験条件:低条件:障害物(硬質の水平バー)の高さが実験協力者の身長×0.4cm。高条件:障害物の高さが身長×0.5cm。2つの条件の順番は実験協力者ごとに変え,カウンターバランスをとった。
実験装置: 幅1メートルの間隔に立てた2本のスチール製の支柱の間に床面と平行に水平バーを設置し,自由に高さを変えられるようにした。
実験手続き:1)練習試行(1試行):実験協力者は障害物が設置されていない状態でスタート(装置の手前1m)からゴール(装置の向こう1m地点)まで移動する。2)低条件・高条件(各1試行):練習試行のあと支柱間にバーを設置したのち,実験協力者には「スタートからゴールまで移動すること,その際,バーをまたいでもくぐってもいいが,触れないように」と教示を与えた。
記録と分析:スタートからゴールまでの所要時間,障害物回避の際の行為,障害物への接触の有無,接触した身体部位について目視で判定し,かつ,ビデオカメラによる録画データをもとに確認した。

結果
障害物回避の際の行為:「くぐる」を選択した人数の比率は,先行研究と同様,年中児・年長児ともに高条件(対身長比50%)のほうが低条件(対身長比40%)に比べて高かった(年中:高94%>低67%,年長:高91%>低69%)。障害物への接触:年中児・年長児ともに,先行研究と同様,高条件よりも低条件において接触率が高かった(年中:低31%>高10%,年長:低24%>高7%)。回避行動別に見ると,年長児・年中児ともに「くぐる」より「またぐ」時の方が接触率は高かった。

考察
水平の障害物が相対的に低い場合よりも高い場合のほうが幼児は「くぐる」を選択しやすいこと,障害物が低くて「またぐ」を選択したときに,より障害物に接触しやすいことは,先行研究(江尻・天野,2013)の結果を追認するものであった。ただし,それぞれの比率を両研究で比較すると,本研究(障害物が硬質バー)では,先行研究(障害物がゴム)に比べて,幼児は「くぐる」を多く選択することが多く,障害物への接触率も低かった。このことから本研究で対象となった幼児は,危険回避にあたって,より慎重な行動を選択し,結果として危険回避率も高かったことが示唆される。このことから,幼児は目の前の水平障害物が「超えらる高さかどうか」だけでなく,それに接触した際に自身が受ける衝撃(例:痛いか)や起こり得る事態(例:バーが落ちるなど)をも予測した上で,とるべき行動を選択しているのではないかと推測される。以上より,幼児における水平障害物危険回避に関わる認知やそれに伴う行動は,従来指摘されてきたように,単に水平の障害物の「高さ」だけに影響を受けるのではなく,その障害物の「素材」にも影響されること,言い換えれば,障害物回避の際に幼児が行う環境と身体の関係の認識は,従来考えられてきたものよりも高度なものである可能性が示唆される。