日本教育心理学会第56回総会

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ポスター発表 PE

(501)

2014年11月8日(土) 13:30 〜 15:30 501 (5階)

[PE080] コンパッションに基づく学級集団SSTの効果の検討

コンパッションが学級満足度,社会的スキルに及ぼす影響

仲嶺実甫子1, 甲田宗良2, 伊藤義徳2, 佐藤寛3 (1.関西大学大学院, 2.琉球大学, 3.関西大学)

キーワード:学級集団SST, コンパッション

【問題と目的】
学級集団単位の社会的スキル訓練は,社会的スキルの獲得を促す技法として広く学級集団を対象に用いられているが(大対・松見, 2010),その一方でその効果の維持,般化が生じにくいことも指摘されている(佐藤ら, 2004)。Gresham(1991)は社会的スキル訓練において,生起した行動への日常場面での強化があまり考慮されていないことを問題点として挙げている。現行のSSTの手続きのほとんどはコーチング法を用いているが(佐藤ら, 2000),日常とは異なる文脈内でスキルの獲得が目指されることが問題となる。獲得スキルの般化を促すには,プログラム場面を日常場面の延長として扱い,その中で自然な強化が得られることが必要となると考えられる。そこで本研究では,日常の人間関係が生じやすいレクリエーション場面を取り入れたプログラムを提案する。
次に問題となってくるのは、ターゲットスキルの選定であるが,近年の学校問題に対応したターゲットスキルとして本研究では、他者への思いやりの態度を促進する要素であるコンパッションの概念を取り入れる。コンパッションは、日本語で慈しみや哀れみ、思いやりと訳され(伊藤,2010)、「自己そして他者の苦しみを取り除こうとする深い慈しみをともなった感受性」と定義されている(Dalai Lama, 1995)。本研究は、コンパッションの概念に即した他者への思いやりや慈しみの態度をターゲットスキルとしたプログラムを実施し,コンパッション得点の介入前後の変化の違いが学級満足度や社会的スキルの生起に及ぼす影響について検討することを目的としている。
【方法】
参加者:沖縄県内の公立中学校に通う1学年159名(男子80名,女子79名)。
調査材料:(1)他者へのコンパッション尺度 (自作),(2)仲間関係への社会的スキル尺度(小石・岩崎, 2000),(4)学校生活満足度尺度(中学生用)Q-U(河村, 1999)
手続き:プログラムは,週1回50分,計4回の頻度で実施された。効果測定は介入前後に2回ずつ行われ,介入前は1カ月,介入後は3カ月の期間をあけて行われた。プログラムに用いられたレクリエーションは、コンパッションの定義に即した社会的スキルが生起するよう,構成的グループエンカウンターにおけるレクリエーション,Gilbert(2010)のワークなどを参考に作成した。
【結果と考察】
生徒のコンパッションの変化のパターンを分析するために介入前後のコンパッションの総得点に基づいて、クラスター分析を行った。その結果、3つのクラスターに分類することが最も妥当な解釈ができるものと考えられた(クラスターⅠ(高得点下降群) 38名, クラスターⅡ(低得点下降群) 28名, クラスターⅢ(上昇群) 28名)。また,クラスターの理解の妥当性を検討するためにコンパッション総合得点を従属変数とした,群(各クラスター)×測定段階(介入前後)の2要因の分散分析を行った。その結果,交互作用が有意であった (F(2,91)=28.45, p<.001)。多重比較の結果,低得点下降群,高得点下降群は介入前から介入後にかけて得点が有意に減少しており,上昇群は得点が有意に増加していた。また、低得点下降群は介入前後ともに高得点下降群よりも得点が有意に高かった。以上の結果からクラスターの解釈は妥当であると考えられた。
次に群を独立変数,社会的スキル総合得点と学級満足度得点の介入前から介入後にかけての変化量を従属変数とした分散分析を行った。まず、学級満足度得点に関して分散分析を行った結果、群の主効果が有意であった(F(2,91)=8.05, p<.01)。多重比較の結果,上昇群は高・低得点下降群と比べて学級満足度の得点が介入前から介入後にかけて有意に増加していた。社会的スキル合計得点に関しても同様の分析を行った結果,群の主効果が有意であった(F(2,91)=4.23, p<.01)。多重比較の結果,上昇群は高得点下降群と比べて介入前から介入後にかけての変化量が有意に大きいことが示された。以上の結果から,コンパッションが涵養された生徒は,仲間関係における社会的スキルの使用が促され,学校生活における満足度が高まったと考えられる。一方で,コンパッションの得点の増加が見られない生徒に関しては,社会的スキル得点,学級満足度得点の上昇は認められなかった。今後は介入効果に個人差が生じる要因について検討する必要があると考えられる。