[PE092] 5歳児運動健診における地域援助ネットワークの意義
地域における行政機関の橋渡しとしての役割
Keywords:5歳児運動健診, 地域援助ネットワーク, 就学指導
【目 的】
5歳児健診は,発達障害の早期発見に関して有用であるとされ,厚生労働省でも研究成果の報告があり,さまざまな地域で取り組まれている。しかし,法制化されていないという背景があり,その実施にはそれぞれの自治体の状況や事情により,方法やコスト,スクリーニングの制度や専門家の確保などに多くの課題がある(子吉2012)。 また,5歳児健診を行ったとしても支援に繋げなければ健診をしない方がいいという指摘もある(平沼2008)。さらに,健診担当者は子どもの発達,発達障害に関する幅広い知識を理解し,発達の問題を発見する健診技術を持ち,地域への発達障害児への支援体制についてよく知っている必要がある(下泉2011)という指摘もある。
筆者らが2年前から取り組んできた運動という視点を取り入れたZ県X町の5歳児運動健診は,多職種の専門職チームを外部から導入し,安定した健診技術を提供することを可能としている。しかし,健診の継続には地域の行政機関の連携が欠かせない。ここでは,健診で得られた子どもたちの特性を就学以降の小学校生活に活用するために地域援助ネットワークのあり方と専門職チームの役割について検討することを目的とした。
【概 要】
5歳児健診では,正確なスクリーニングと子どもの現在を未来につなぐシステムづくりが求められる。その意味で,地域と専門性が融合した地域援助ネットワークの役割は大きい。現行システムでは,3歳児健診までは厚生労働省の管轄である保健センターが行い,就学以降は文部科学省へと行政の管轄が移行するため,子育て支援の行政的仕組みに連続性が欠けてしまう。そのため,子どもの特徴や歩みを伝え,親の不安を支えるシステムも小学校就学を境に途切れてしまう。
すでに安定した5歳児の健診が継続して実施されている地域もある。そこでは,子どもに関わるあらゆる課題が扱われ,出産から社会へ巣立つまでを一貫して支える行政の仕組みができており,「子ども課」として行政の管轄の垣根が取り外され,一元化されている。このような体制は理想であるが,すべての地域で可能というわけではない。したがって,その地域の現状や限界を加味して取り組んでいく必要がある。
筆者らが実施している5歳児健診では,地域援助ネットワークを構築し,子どもたちを取り巻く町の関係機関が連携している。教育委員会が中心となり,就学指導の一環として健診を企画し,母子の今までの育ちの歩みを把握している保健センターを会場とし,馴染みの保健師が健診の中心となっている。子どもたちは,保育園・幼稚園の担任に付き添われて,小さい頃から行き慣れている保健センターで健診を受ける。健診には小学校・中学校の教員も参加し,子どもたちの様子を見守る。健診におけるアセスメントと情報提供は専門家チームを構成し,地域では確保できないメンバーが外部から参加している。
【考 察】
健診の実施方法やプログラムは回数を重ねるごとに工夫されており,常に進化している。初めは戸惑っていた保育関係者も園では見られない子どもたちの様子や専門家チームからのコンサルテーションを受け,視点や関わりに変化がみられるようになっている。保護者も戸惑いながら,協力してくれている。子どものありのままの姿と健診の結果が伝えられることで,我が子の行動や態度の背景を知り,自身の子育てをただ反省するのではなく,前向きな取り組みができるようになってきている。
この背景には,子どもをとりまく行政機関がそれぞれの立場を大きく崩すことのないまま,かつての垣根を越えて,協力協働できていることがなによりも重要である。しかし,地域の行政機関は,住民にとって最後の砦となる重要な場所でもあるその機関を敵対し,悩みを持ち込むことができなくなっては本末転倒である。そのために,重要なことは外部から専門職チームが入るという構造である。外からきて,外に出ていくため,日常を脅かす存在ではない。さらに,専門職から伝えられることばは,他の職種や役割からの響きと異なる。地域援助ネットワークでは行政機関を橋渡しすることのできる専門職チームにさまざまな役割が期待できそうである。
5歳児健診は,発達障害の早期発見に関して有用であるとされ,厚生労働省でも研究成果の報告があり,さまざまな地域で取り組まれている。しかし,法制化されていないという背景があり,その実施にはそれぞれの自治体の状況や事情により,方法やコスト,スクリーニングの制度や専門家の確保などに多くの課題がある(子吉2012)。 また,5歳児健診を行ったとしても支援に繋げなければ健診をしない方がいいという指摘もある(平沼2008)。さらに,健診担当者は子どもの発達,発達障害に関する幅広い知識を理解し,発達の問題を発見する健診技術を持ち,地域への発達障害児への支援体制についてよく知っている必要がある(下泉2011)という指摘もある。
筆者らが2年前から取り組んできた運動という視点を取り入れたZ県X町の5歳児運動健診は,多職種の専門職チームを外部から導入し,安定した健診技術を提供することを可能としている。しかし,健診の継続には地域の行政機関の連携が欠かせない。ここでは,健診で得られた子どもたちの特性を就学以降の小学校生活に活用するために地域援助ネットワークのあり方と専門職チームの役割について検討することを目的とした。
【概 要】
5歳児健診では,正確なスクリーニングと子どもの現在を未来につなぐシステムづくりが求められる。その意味で,地域と専門性が融合した地域援助ネットワークの役割は大きい。現行システムでは,3歳児健診までは厚生労働省の管轄である保健センターが行い,就学以降は文部科学省へと行政の管轄が移行するため,子育て支援の行政的仕組みに連続性が欠けてしまう。そのため,子どもの特徴や歩みを伝え,親の不安を支えるシステムも小学校就学を境に途切れてしまう。
すでに安定した5歳児の健診が継続して実施されている地域もある。そこでは,子どもに関わるあらゆる課題が扱われ,出産から社会へ巣立つまでを一貫して支える行政の仕組みができており,「子ども課」として行政の管轄の垣根が取り外され,一元化されている。このような体制は理想であるが,すべての地域で可能というわけではない。したがって,その地域の現状や限界を加味して取り組んでいく必要がある。
筆者らが実施している5歳児健診では,地域援助ネットワークを構築し,子どもたちを取り巻く町の関係機関が連携している。教育委員会が中心となり,就学指導の一環として健診を企画し,母子の今までの育ちの歩みを把握している保健センターを会場とし,馴染みの保健師が健診の中心となっている。子どもたちは,保育園・幼稚園の担任に付き添われて,小さい頃から行き慣れている保健センターで健診を受ける。健診には小学校・中学校の教員も参加し,子どもたちの様子を見守る。健診におけるアセスメントと情報提供は専門家チームを構成し,地域では確保できないメンバーが外部から参加している。
【考 察】
健診の実施方法やプログラムは回数を重ねるごとに工夫されており,常に進化している。初めは戸惑っていた保育関係者も園では見られない子どもたちの様子や専門家チームからのコンサルテーションを受け,視点や関わりに変化がみられるようになっている。保護者も戸惑いながら,協力してくれている。子どものありのままの姿と健診の結果が伝えられることで,我が子の行動や態度の背景を知り,自身の子育てをただ反省するのではなく,前向きな取り組みができるようになってきている。
この背景には,子どもをとりまく行政機関がそれぞれの立場を大きく崩すことのないまま,かつての垣根を越えて,協力協働できていることがなによりも重要である。しかし,地域の行政機関は,住民にとって最後の砦となる重要な場所でもあるその機関を敵対し,悩みを持ち込むことができなくなっては本末転倒である。そのために,重要なことは外部から専門職チームが入るという構造である。外からきて,外に出ていくため,日常を脅かす存在ではない。さらに,専門職から伝えられることばは,他の職種や役割からの響きと異なる。地域援助ネットワークでは行政機関を橋渡しすることのできる専門職チームにさまざまな役割が期待できそうである。