[PF009] メタ認知的な意識づけによる批判的思考への効果
文献講読演習の場合
Keywords:批判的思考, メタ認知
大学生の一般的な学習活動の一つである文献講読形式の演習では様々なメタ認知の働きを必要とする。例えば,文章を読んで疑問を生成すること,文章内容をまとめ他者に伝えること,そのために分かりやすい報告を心がけること等々が考えられる。本研究では,大学で日常的に行われる文献講読演習の中で,特に文献内容をレジュメにまとめ報告することと,内容に関する疑問点をあげることを強調することによって,メタ認知の働きが促進されるかを検討する。
また,批判的思考のプロセスにメタ認知が影響すると考えられる(例えば,田中・楠見, 2007)ことから,メタ認知の働きを示す指標として批判的思考力に着目し,その関連性も検討する。
方法
参加者
北海道教育大学旭川校の学生27名が参加した。
課題
批判的思考力テスト 久原・井上・波多野(1983)の批判的思考力テストを使用した。半数を事前テスト,残り半数を事後テストとして,どちらも12分の制限時間で行った。実験実施後に事前テストの1問に印刷ミスがあることが判明したため,その問題と事後テストの対応する問題は分析から除外した。
省略三段論法推論 田中・楠見(2012)の省略三段論法推論課題を使用した。全30問を半数に分け,それぞれ事前テストと事後テストで使用した。
メタ認知尺度 吉野・懸田・宮崎・浅村(2008)を使用した。
文献講読演習 「大学生のためのリサーチリテラシー入門」(山田・林, 2011)をテキストとして使用し,参加者のうち12名だけが行った(実験群)。このテキストはメタ認知や批判的思考の重要性に触れており,参加者にそれらへ意識を向けさせることを狙った。演習では毎回担当者が指定された章を読みレジュメにまとめ報告し,他の参加者も事前にテキストを読み考えておいた質問を報告者に対してするよう試みた。
手続き
事前テスト 全員が集団で参加した。批判的思考テスト,省略三段論法推論,メタ認知尺度,テキストの講読有無について順に回答した。
文献講読演習 実験群の12名が,ほぼ週一回のペースで,およそ2ヶ月行った。なお,統制群は同一時間帯に心理学に関する講読を行った。
事後テスト 全員が集団で参加した。批判的思考テスト,省略三段論法推論,メタ認知尺度,テキストの講読回数について順に回答した。
結果及び考察
事前テスト及び事後テストで実施した批判的思考力テスト,省略三段論法推論,メタ認知尺度をそれぞれ得点化した。事後テストの得点から事前テストの得点を引いた値を得点変化とした。省略三段論法推論得点は,数値が小さいほど,より批判的思考を行っていると考えられるので,得点変化の正負を逆転させたものを使用した。
文献講読演習の効果
実験群と統制群における批判的思考力テスト得点,省略三段論法推論得点,メタ認知尺度得点の変化を検討した。3種類の得点ともに,実験群と統制群の間で得点変化に有意差は認められなかった[批判的思考力テスト:t (25) = -1.207, n.s.,省略三段論法推論:t (25) = .897, n.s.,メタ認知全体:t (25) = .434, n.s.,メタ認知知識:t (25) = .571, n.s.,メタ認知活動:t (25) = -.021, n.s.](表1)。
レジュメ作成と疑問生成を強調した文献講読演習による批判的思考力及びメタ認知への効果は認められなかった。大学で従来から行われてきた一般的な学習活動の中でメタ認知や批判的思考の重要性を自ら感じ,定着されるのが非常に難しいのかもしれない。
メタ認知と批判的思考の関連
メタ認知能力と批判的思考力の関係を確認するために,事前テストの得点及び事後テストの得点それぞれで,メタ認知得点と,批判的思考力得点及び省略三段論法推論得点との相関分析を行った。その結果,事前テストで,批判的思考力テスト得点とメタ認知知識得点との間に有意な負の相関が認められた[r = -.394, p < .05]。また,事後テストで,省略三段論法推論得点とメタ認知全体得点及びメタ認知知識得点との間にそれぞれ有意な正の相関が認められた[メタ認知全体:r = .400, p < .05,メタ認知知識:r = .399, p < .05]。
メタ認知尺度得点と省略三段論法推論には有意な正の相関が認められたことから,メタ認知,特に,知識的側面と批判的思考の関連性が確認できた。メタ認知的知識をもつことによって,より批判的な思考が可能になると考えられる。これとは反対に,批判的思考力テストとは負の相関が認められ,批判的思考力テスト得点と省略三段論法推論得点の間には相関が認められない(事前テスト:r = -.018, n.s.),あるいは,負の相関が認められた(事後テスト:r = -.455, p < .05)。また,批判的思考力得点が低かったことを併せて考えると,批判的思考力テストは制限時間内に適切に解答することが非常に難しく,今回の参加者の批判的思考力を適正に評価できていなかった可能性も考えられる。
また,批判的思考のプロセスにメタ認知が影響すると考えられる(例えば,田中・楠見, 2007)ことから,メタ認知の働きを示す指標として批判的思考力に着目し,その関連性も検討する。
方法
参加者
北海道教育大学旭川校の学生27名が参加した。
課題
批判的思考力テスト 久原・井上・波多野(1983)の批判的思考力テストを使用した。半数を事前テスト,残り半数を事後テストとして,どちらも12分の制限時間で行った。実験実施後に事前テストの1問に印刷ミスがあることが判明したため,その問題と事後テストの対応する問題は分析から除外した。
省略三段論法推論 田中・楠見(2012)の省略三段論法推論課題を使用した。全30問を半数に分け,それぞれ事前テストと事後テストで使用した。
メタ認知尺度 吉野・懸田・宮崎・浅村(2008)を使用した。
文献講読演習 「大学生のためのリサーチリテラシー入門」(山田・林, 2011)をテキストとして使用し,参加者のうち12名だけが行った(実験群)。このテキストはメタ認知や批判的思考の重要性に触れており,参加者にそれらへ意識を向けさせることを狙った。演習では毎回担当者が指定された章を読みレジュメにまとめ報告し,他の参加者も事前にテキストを読み考えておいた質問を報告者に対してするよう試みた。
手続き
事前テスト 全員が集団で参加した。批判的思考テスト,省略三段論法推論,メタ認知尺度,テキストの講読有無について順に回答した。
文献講読演習 実験群の12名が,ほぼ週一回のペースで,およそ2ヶ月行った。なお,統制群は同一時間帯に心理学に関する講読を行った。
事後テスト 全員が集団で参加した。批判的思考テスト,省略三段論法推論,メタ認知尺度,テキストの講読回数について順に回答した。
結果及び考察
事前テスト及び事後テストで実施した批判的思考力テスト,省略三段論法推論,メタ認知尺度をそれぞれ得点化した。事後テストの得点から事前テストの得点を引いた値を得点変化とした。省略三段論法推論得点は,数値が小さいほど,より批判的思考を行っていると考えられるので,得点変化の正負を逆転させたものを使用した。
文献講読演習の効果
実験群と統制群における批判的思考力テスト得点,省略三段論法推論得点,メタ認知尺度得点の変化を検討した。3種類の得点ともに,実験群と統制群の間で得点変化に有意差は認められなかった[批判的思考力テスト:t (25) = -1.207, n.s.,省略三段論法推論:t (25) = .897, n.s.,メタ認知全体:t (25) = .434, n.s.,メタ認知知識:t (25) = .571, n.s.,メタ認知活動:t (25) = -.021, n.s.](表1)。
レジュメ作成と疑問生成を強調した文献講読演習による批判的思考力及びメタ認知への効果は認められなかった。大学で従来から行われてきた一般的な学習活動の中でメタ認知や批判的思考の重要性を自ら感じ,定着されるのが非常に難しいのかもしれない。
メタ認知と批判的思考の関連
メタ認知能力と批判的思考力の関係を確認するために,事前テストの得点及び事後テストの得点それぞれで,メタ認知得点と,批判的思考力得点及び省略三段論法推論得点との相関分析を行った。その結果,事前テストで,批判的思考力テスト得点とメタ認知知識得点との間に有意な負の相関が認められた[r = -.394, p < .05]。また,事後テストで,省略三段論法推論得点とメタ認知全体得点及びメタ認知知識得点との間にそれぞれ有意な正の相関が認められた[メタ認知全体:r = .400, p < .05,メタ認知知識:r = .399, p < .05]。
メタ認知尺度得点と省略三段論法推論には有意な正の相関が認められたことから,メタ認知,特に,知識的側面と批判的思考の関連性が確認できた。メタ認知的知識をもつことによって,より批判的な思考が可能になると考えられる。これとは反対に,批判的思考力テストとは負の相関が認められ,批判的思考力テスト得点と省略三段論法推論得点の間には相関が認められない(事前テスト:r = -.018, n.s.),あるいは,負の相関が認められた(事後テスト:r = -.455, p < .05)。また,批判的思考力得点が低かったことを併せて考えると,批判的思考力テストは制限時間内に適切に解答することが非常に難しく,今回の参加者の批判的思考力を適正に評価できていなかった可能性も考えられる。