[PF015] 検索経験の有効性を学習者は認識しているのか
学習判断の観点から
Keywords:検索経験, 精緻化, 学習判断
目 的
検索経験 (retrieval practice)すなわち,学習終了後にその内容について思い出すことが,学習のくり返しよりも,長期的な記憶保持に有効であることが知られている。しかしながら,学習者の多くは検索経験の有効性を認識していないということが質問紙調査や実験室実験により報告されている。たとえば,実際の課題成績は他の条件よりも高いにも関わらず,その学習判断 (JOL: Judgments of Learning)の値は他の条件よりも低いという実際の課題成績と学習判断の値とのあいだの乖離が実験室実験において確認されている (e.g., Karpicke & Blunt, 2011)。ただし,この乖離に関する報告は北米を中心とするものであり,研究報告の数もさほど多くない。そこで本研究では,日本人大学生を対象として, Karpicke & Blunt (2011)の手続きをもとに,学習者の検索経験の有効性に対する認識についての検証を試みた。
方 法
実験参加者 大学生78名 (各群26名ずつを配置)
材料
テキスト 科学エッセイ (914文字, 30IU)
最終テスト課題 記述式 (逐語問題と推論問題)
質問紙 学習判断課題 (3日後と1週間後,1ヶ月後の各時期について,どのくらい文章の内容をおぼえていられると思うかについての質問),および研究とは無関係の読解方略に関する質問
デザイン 3水準 [学習法: 検索経験, 筆記説明, 1回読み (ベースライン)]の1要因被験者間計画
手続き 手続きは学習フェーズと最終テストフェーズ (1週間後)からなる (図1)。
学習フェーズ (1日目) いずれの群も第1ピリオドにテキスト内容の理解が求められた。筆記説明群は第2~第4ピリオドにかけて,テキストが参照できる環境下での筆記説明が求められた。他方検索経験群は,第1ピリオド終了後の第2ピリオドにテキスト内容の自由再生が求められ,後続する第3と第4ピリオドには第1と第2ピリオドでの手続きのくり返しが求められた。ベースライン群では第1ピリオドのテキスト内容の理解のみが課せられた。その後いずれの群も質問紙への回答が求められ,学習フェーズを終えた。
最終テストフェーズ (1週間後) いずれの群も最終テスト課題を終えたあと,デブリーフィングを受け解散した
結 果
各群における学習判断課題の平均値 (図1)について二要因混合計画の分散分析を実施した結果,学習法における主効果は確認されなかった。
考 察
実験の結果,いずれの群に配置された学習者の学習判断も同様の傾向を示すことがわかった。この実験結果は,先行研究のように学習者が検索経験の有効性を認識していないということを示す結果とは異なる。その原因のひとつとして,先行研究ではある特定の一時期についてのみの学習判断を課している一方で,本研究では複数時期についての判断を課していることが挙げられる。つまり本研究において学習者は,その学習判断を学習法の手ごたえや感触ではなく,記憶に関する素朴な知識や理論を手がかりとして下した可能性が考えられる。今後の研究では,学習者が検索経験の有効性を認識しているかどうかについての検証に併せて,学習判断課題の設定方法によるその判断の変容可能性についても検討していく必要があろう。
なお本研究は齋藤・邑本 (2013). 日本心理学会第77回大会. での発表内容にデータを新たに追加し,一部表現に修正を加えたものである。
引用文献
Karpicke, J. D., & Blunt, J. R. (2011). Retrieval practice produces more learning than elaborative studying with concept mapping. Science, 331, 772-775.
検索経験 (retrieval practice)すなわち,学習終了後にその内容について思い出すことが,学習のくり返しよりも,長期的な記憶保持に有効であることが知られている。しかしながら,学習者の多くは検索経験の有効性を認識していないということが質問紙調査や実験室実験により報告されている。たとえば,実際の課題成績は他の条件よりも高いにも関わらず,その学習判断 (JOL: Judgments of Learning)の値は他の条件よりも低いという実際の課題成績と学習判断の値とのあいだの乖離が実験室実験において確認されている (e.g., Karpicke & Blunt, 2011)。ただし,この乖離に関する報告は北米を中心とするものであり,研究報告の数もさほど多くない。そこで本研究では,日本人大学生を対象として, Karpicke & Blunt (2011)の手続きをもとに,学習者の検索経験の有効性に対する認識についての検証を試みた。
方 法
実験参加者 大学生78名 (各群26名ずつを配置)
材料
テキスト 科学エッセイ (914文字, 30IU)
最終テスト課題 記述式 (逐語問題と推論問題)
質問紙 学習判断課題 (3日後と1週間後,1ヶ月後の各時期について,どのくらい文章の内容をおぼえていられると思うかについての質問),および研究とは無関係の読解方略に関する質問
デザイン 3水準 [学習法: 検索経験, 筆記説明, 1回読み (ベースライン)]の1要因被験者間計画
手続き 手続きは学習フェーズと最終テストフェーズ (1週間後)からなる (図1)。
学習フェーズ (1日目) いずれの群も第1ピリオドにテキスト内容の理解が求められた。筆記説明群は第2~第4ピリオドにかけて,テキストが参照できる環境下での筆記説明が求められた。他方検索経験群は,第1ピリオド終了後の第2ピリオドにテキスト内容の自由再生が求められ,後続する第3と第4ピリオドには第1と第2ピリオドでの手続きのくり返しが求められた。ベースライン群では第1ピリオドのテキスト内容の理解のみが課せられた。その後いずれの群も質問紙への回答が求められ,学習フェーズを終えた。
最終テストフェーズ (1週間後) いずれの群も最終テスト課題を終えたあと,デブリーフィングを受け解散した
結 果
各群における学習判断課題の平均値 (図1)について二要因混合計画の分散分析を実施した結果,学習法における主効果は確認されなかった。
考 察
実験の結果,いずれの群に配置された学習者の学習判断も同様の傾向を示すことがわかった。この実験結果は,先行研究のように学習者が検索経験の有効性を認識していないということを示す結果とは異なる。その原因のひとつとして,先行研究ではある特定の一時期についてのみの学習判断を課している一方で,本研究では複数時期についての判断を課していることが挙げられる。つまり本研究において学習者は,その学習判断を学習法の手ごたえや感触ではなく,記憶に関する素朴な知識や理論を手がかりとして下した可能性が考えられる。今後の研究では,学習者が検索経験の有効性を認識しているかどうかについての検証に併せて,学習判断課題の設定方法によるその判断の変容可能性についても検討していく必要があろう。
なお本研究は齋藤・邑本 (2013). 日本心理学会第77回大会. での発表内容にデータを新たに追加し,一部表現に修正を加えたものである。
引用文献
Karpicke, J. D., & Blunt, J. R. (2011). Retrieval practice produces more learning than elaborative studying with concept mapping. Science, 331, 772-775.