[PF023] 自己決定理論に基づく学習動機づけと学業成績との関連(1)
クロスラグモデルによる検討
Keywords:学習動機づけ, 縦断調査, クロスラグモデル
問題と目的
これまで,学習動機づけと学業成績の関係について多くの検討がされてきた。近年は,自己決定理論(Deci & Ryan, 2002)によって学習動機づけが細分化され,より詳細な検討が行われている。この理論では,自己決定性の程度から,内的調整(おもしろいから勉強する),同一化的調整(自分のためになるから勉強する),取り入れ的調整(勉強ができないと恥ずかしいから勉強する),外的調整(親に言われるから勉強する)の4つの学習動機づけに分類される。
自己決定理論で想定されている学習動機づけと学業成績の関連について,岡田(2012)のメタ分析では,同一化的調整が学業達成と最も強い関連を持つことが示されている。しかし,岡田(2012)のメタ分析で対象となった研究の多くは横断デザインを採用しており,学業成績の予測という点では結果の解釈に留意が必要である。また,学習動機づけと学業成績の関連を考えた場合に,学習動機づけが学業成績に与える影響だけでなく,学業成績次第で学習動機づけが変化するという方向性も考えられる。そこで本研究では,クロスラグモデルにより,学習動機づけと学業成績の相互因果関係について検討することを目的とする。
方 法
調査協力者・手続き 首都圏にある公立中学校5校に所属する中学1―3年生2734名(男性1353名,女性1380名,不明1名)を対象に,2013年6月,9月,11月,2014年2月に実施された定期テストの1週間後に調査を行った。なお,教科として数学を想定させて質問項目への回答を求めた。
調査内容
1. 学習動機づけ 西村他(2011)が作成した自律的学習動機尺度から,4つの学習動機づけを測定する項目をそれぞれ3項目用いた(4件法)。
2. 数学成績 「あなたの学校の中で,あなたはどのくらいの成績をとっていますか」という項目に対して,5件法で回答を求めた。
結果と考察
欠測値の処理 多重代入法(Enders, 2010)によって,欠測値の処理を行った。
クロスラグモデルによる分析 分析モデルでは,自己回帰に加え,各学習動機づけが学業成績に影響を与え,学業成績が各学習動機づけに影響を与えることを仮定した。また,全ての学習動機づけの間にもパスを仮定した。なお,測定時点が同じである変数の残差間には共分散を仮定し,概念的に同じ意味であるパスには等値制約を課した。
分析の結果を表1に示す。ここでは,学習動機づけから数学成績へのパス係数と,数学成績から学習動機づけへのパス係数のみを記載している。まず学習動機づけが学業成績に与える影響について,いずれの学年でも,内的調整と取り入れ的調整が学業成績に有意な正の影響を与えていた。また,学業成績は内的調整と同一化的調整,取り入れ的調整に対して有意な正の影響を与えることが示された。したがって,学習動機づけと学業成績には相互因果関係があるといえる。
謝辞 本研究は,公益財団法人博報児童教育振興会「第8回 児童教育実践についての研究助成事業」の支援を受けた。