[PF051] 想起を通した集団の維持過程に関する研究(1)
変化のマネジメントとしての『成員の変化の隠蔽』
Keywords:集合的想起, 同窓会, 大学生
問題と目的:現在、高校生の約6割が所在県外の大学に進学している(文部科学省,2013)。したがって、今後地方の人材確保などを考えると、進学などで地元から離れた若者と地元の仲間集団の関係が、進学という物理的・時間的距離を超えて維持される過程を解明する必要がある。
集団の維持は、言語的相互行為の中の過去に関する語りである「想起」の観点から検討されてきた(Orr, 1991;森, 2011)。地元を離れた若者が地元の仲間集団を維持する回路として、帰省時などに行われる「同窓会」といった場が想定可能である。これまでの研究では、こうした同窓会でなされる想起に対して相互行為分析(西坂, 2001)を通して、共通の知人の変化を想起し、「我々の変わらなさ」を逆説的に達成することによって、集団を維持する過程を明らかにした(阿部, 2012)。しかし、同窓会では「変化した我々」について直接想起しなければならない事態も生じ得る。こうした事態が生じた際に、集団維持のために、変化に対する何らかのマネジメントがなされると考えられる。
以上のことから本研究では「変化した我々」について想起しなければならない事態に対する変化のマネジメントを捉えることを目的とする。
方法:夏季休業中の2010年7月に行われた、進学によって地元から離れた為に日常的に場を共有できない仲間集団の成員2名MとYが行った約2時間の同窓会に対し、両者に同意を取り、録画を行った。分析法は、様々な社会的現実が相互行為を通して達成されると捉えるエスノメソドロジーの観点から、相互行為の詳細な記述を通して現場の社会的現実の達成過程を分析する相互行為分析(西坂, 2001;森, 2011)を採用した。具体的な分析としては、まず得られたデータを文字に起こし、その後、特に成員の変化の想起に関する発話連鎖に焦点を当て、集団の維持される過程を検討した。
結果と考察:知人の変化に関する想起(阿部, 2012)は多数観察されるのに対し、成員自身の変化についての想起は2時間の同窓会の中で2事例と極めて少なかった。そのうちの1事例の発話連鎖を以下に示す。
抜粋1は、共通の知人であり、アニメや声優のオタクであるKについての想起である。しかし、6行にてMが「俺全然人のこと言えねえけど」と自分もオタクであることを示唆する発話をしている。7行でYが「あれ?」と疑問を示す発話を行っていることから、Mのオタク趣味は大学に入って獲得した新たな趣味であったと考えられる。しかし、こうした新たな趣味は深く語られること無く、11行で「KS」というKの侮蔑的なニックネームについての話題が移り変わっていく。こうした発話連鎖は、成員自身の変化を話題を変えることによって隠蔽する想起であったと考えられる。
考察:阿部(2012)の分析とあわせて考察すると、地元を離れた若者は、共通の知人の変化を想起することにより「我々の変わらなさ」を達成し、逆に自らの変化は隠蔽といった手段を持ってマネジメントすることによって、地元の仲間集団を維持していたと考えられる。しかし、隠蔽は極めて不安定な変化のマネジメントである。今後は変化が隠蔽できなくなった際のマネジメントのあり方を検討する必要があるだろう。(Koji ABE)
集団の維持は、言語的相互行為の中の過去に関する語りである「想起」の観点から検討されてきた(Orr, 1991;森, 2011)。地元を離れた若者が地元の仲間集団を維持する回路として、帰省時などに行われる「同窓会」といった場が想定可能である。これまでの研究では、こうした同窓会でなされる想起に対して相互行為分析(西坂, 2001)を通して、共通の知人の変化を想起し、「我々の変わらなさ」を逆説的に達成することによって、集団を維持する過程を明らかにした(阿部, 2012)。しかし、同窓会では「変化した我々」について直接想起しなければならない事態も生じ得る。こうした事態が生じた際に、集団維持のために、変化に対する何らかのマネジメントがなされると考えられる。
以上のことから本研究では「変化した我々」について想起しなければならない事態に対する変化のマネジメントを捉えることを目的とする。
方法:夏季休業中の2010年7月に行われた、進学によって地元から離れた為に日常的に場を共有できない仲間集団の成員2名MとYが行った約2時間の同窓会に対し、両者に同意を取り、録画を行った。分析法は、様々な社会的現実が相互行為を通して達成されると捉えるエスノメソドロジーの観点から、相互行為の詳細な記述を通して現場の社会的現実の達成過程を分析する相互行為分析(西坂, 2001;森, 2011)を採用した。具体的な分析としては、まず得られたデータを文字に起こし、その後、特に成員の変化の想起に関する発話連鎖に焦点を当て、集団の維持される過程を検討した。
結果と考察:知人の変化に関する想起(阿部, 2012)は多数観察されるのに対し、成員自身の変化についての想起は2時間の同窓会の中で2事例と極めて少なかった。そのうちの1事例の発話連鎖を以下に示す。
抜粋1は、共通の知人であり、アニメや声優のオタクであるKについての想起である。しかし、6行にてMが「俺全然人のこと言えねえけど」と自分もオタクであることを示唆する発話をしている。7行でYが「あれ?」と疑問を示す発話を行っていることから、Mのオタク趣味は大学に入って獲得した新たな趣味であったと考えられる。しかし、こうした新たな趣味は深く語られること無く、11行で「KS」というKの侮蔑的なニックネームについての話題が移り変わっていく。こうした発話連鎖は、成員自身の変化を話題を変えることによって隠蔽する想起であったと考えられる。
考察:阿部(2012)の分析とあわせて考察すると、地元を離れた若者は、共通の知人の変化を想起することにより「我々の変わらなさ」を達成し、逆に自らの変化は隠蔽といった手段を持ってマネジメントすることによって、地元の仲間集団を維持していたと考えられる。しかし、隠蔽は極めて不安定な変化のマネジメントである。今後は変化が隠蔽できなくなった際のマネジメントのあり方を検討する必要があるだろう。(Koji ABE)