[PG041] 養護教諭の自己効力感とリフレクションの関連
量的および質的な検討
Keywords:養護教諭, 自己効力感, リフレクション
問題と目的
教師は必ずしも右肩上がりの「垂直的な成長」を辿るとは限らず,「水平的ないしはオルターナティブな成長」もあるという(山崎,1999)。そのような成長は教育実践上の課題や困難への直面,葛藤の経験が契機となることが指摘されている(山崎,1999)ことから,自らの実践を振り返り省察するリフレクション(Sch?n,2001)にも同様の効果が期待できよう。しかし,研究授業や職員室での情報交換といった一般教諭がもつリフレクションの機会と比較して,養護教諭は基本的に1校に1人の配置であり,校内で学びあう機会や養護教諭同士の交流する機会が限られている。そのために,仕事に対する手ごたえや自信,成長を実感しにくいことが指摘されている(岡田,2010)。そこで本研究では仕事に対する手ごたえや自信を自己効力感(Bandura,1977)と捉え,養護教諭の職務自己効力感と一般的自己効力感にリフレクションが及ぼす影響について検討する(研究1)。次にPAC分析を用いて養護教諭の社会的および個人的な体験がどのように意味づけされ構造化されているのかを明らかにし,その認知構造と一般的自己効力感との関連について検討する(研究2)。
研究1
方法
調査時期 20XX年7月。
調査協力者 A県養護教諭部会総会に参加した養護教諭。
調査方法 会場で506名に質問紙を配布し,留置法・郵送法で回収した。353名から回収され(回収率69.7%),有効回答数は343名(有効回答率97.2%)であった。
調査項目 1)属性(学校種,学校規模,経験年数),2)自己効力感に影響を与えると考えられる要因(豊島・吉田(2009)の6項目に2項目を追加),3)一般的自己効力感尺度(GSES;坂野・東條,1986),4)養護教諭の職務自己効力感尺度(豊島・吉田,2009)。
結果と考察
1.GSESおよび職務自己効力感尺度の因子分析
GSESは1項目を除き先行研究と同様の3因子構造を示した。調査協力者全体の平均値は6.9(SD=3.82)で,東條・坂野(1989)における一般成人女性(M=9.1,SD=3.93)や小谷野(1999)における看護師(M=7.5,SD=3.92)よりも低い値であった。
職務自己効力感尺度も先行研究と同様に1因子構造が確認された。調査協力者全体の平均値は93.0(SD=13.73)であり,豊島・吉田(2009)の平均値(M=93.8,SD=16.1)と同程度であった。
2.属性による自己効力感の差異
調査協力者の属性を独立変数とする分散分析を行ったところ,職務自己効力感尺度得点において経験年数の主効果が有意であった(F(4,323)=10.97,p<.001)。多重比較の結果,経験年数1~5年と11年以上との間(p<.001), 6~10年と30年以上との間(p<.01)で有意差が認められた。
3.GSES得点および職務自己効力感尺度得点に影響を与える要因の検討
2の結果から経験年数10年以下と11年以上の2群に分け,自己効力感に影響を与えると考えられる諸要因を説明変数,GSES得点及び自己効力感尺度得点を目的変数とする重回帰分析(強制投入法)を行った(Table1)。
いずれにおいても調整済みR2値は有意であり,2つの自己効力感尺度得点に対して経験年数10年以下の群では「職場の人間関係」が,11年以上の群では「仕事の満足度」と「学校外での個人的な勉強会への参加」が正の影響を及ぼしていた。「職場の人間関係」は11年以上の群のGSES得点にも影響していた。「実践の振り返りやまとめ」は経験年数に関わらず職務自己効力感に正の影響を及ぼしていた。
研究2
方法
調査時期 20XX年8月~9月
調査協力者 研究1への参加時に個別インタビューへの協力を申し出た協力者から,GSES得点と経験年数を基に選出された養護教諭12名。
調査内容 『養護教諭として仕事をしてくる中で印象に残っている出来事』を連想刺激としてこれまでの経験を振り返ってもらい,PAC分析を行った。6週間後にGSESの再測定とPAC分析で感じたことや気づいたことについて自由記述で回答を求めた。
結果と考察
PAC分析から得られたクラスターに対する協力者自身の解釈において,GSES得点が低く経験年数が浅い養護教諭は職場の人間関係に関する悩みや仕事に対する自信のなさ等を語った。GSES得点の高い養護教諭や経験年数11年以上の養護教諭は,周囲から支えられた経験や過去の辛い経験も肯定的に捉え直した様子を語り,それらが成長の糧となったことが窺えた。事後調査におけるGSES得点には大きな変化は認められず,PAC分析の体験が自己効力感を上昇させることは確認できなかった。しかし自由記述からは,PAC分析を通した振り返りがこれまでの経験の再統合につながったことが示唆された。
教師は必ずしも右肩上がりの「垂直的な成長」を辿るとは限らず,「水平的ないしはオルターナティブな成長」もあるという(山崎,1999)。そのような成長は教育実践上の課題や困難への直面,葛藤の経験が契機となることが指摘されている(山崎,1999)ことから,自らの実践を振り返り省察するリフレクション(Sch?n,2001)にも同様の効果が期待できよう。しかし,研究授業や職員室での情報交換といった一般教諭がもつリフレクションの機会と比較して,養護教諭は基本的に1校に1人の配置であり,校内で学びあう機会や養護教諭同士の交流する機会が限られている。そのために,仕事に対する手ごたえや自信,成長を実感しにくいことが指摘されている(岡田,2010)。そこで本研究では仕事に対する手ごたえや自信を自己効力感(Bandura,1977)と捉え,養護教諭の職務自己効力感と一般的自己効力感にリフレクションが及ぼす影響について検討する(研究1)。次にPAC分析を用いて養護教諭の社会的および個人的な体験がどのように意味づけされ構造化されているのかを明らかにし,その認知構造と一般的自己効力感との関連について検討する(研究2)。
研究1
方法
調査時期 20XX年7月。
調査協力者 A県養護教諭部会総会に参加した養護教諭。
調査方法 会場で506名に質問紙を配布し,留置法・郵送法で回収した。353名から回収され(回収率69.7%),有効回答数は343名(有効回答率97.2%)であった。
調査項目 1)属性(学校種,学校規模,経験年数),2)自己効力感に影響を与えると考えられる要因(豊島・吉田(2009)の6項目に2項目を追加),3)一般的自己効力感尺度(GSES;坂野・東條,1986),4)養護教諭の職務自己効力感尺度(豊島・吉田,2009)。
結果と考察
1.GSESおよび職務自己効力感尺度の因子分析
GSESは1項目を除き先行研究と同様の3因子構造を示した。調査協力者全体の平均値は6.9(SD=3.82)で,東條・坂野(1989)における一般成人女性(M=9.1,SD=3.93)や小谷野(1999)における看護師(M=7.5,SD=3.92)よりも低い値であった。
職務自己効力感尺度も先行研究と同様に1因子構造が確認された。調査協力者全体の平均値は93.0(SD=13.73)であり,豊島・吉田(2009)の平均値(M=93.8,SD=16.1)と同程度であった。
2.属性による自己効力感の差異
調査協力者の属性を独立変数とする分散分析を行ったところ,職務自己効力感尺度得点において経験年数の主効果が有意であった(F(4,323)=10.97,p<.001)。多重比較の結果,経験年数1~5年と11年以上との間(p<.001), 6~10年と30年以上との間(p<.01)で有意差が認められた。
3.GSES得点および職務自己効力感尺度得点に影響を与える要因の検討
2の結果から経験年数10年以下と11年以上の2群に分け,自己効力感に影響を与えると考えられる諸要因を説明変数,GSES得点及び自己効力感尺度得点を目的変数とする重回帰分析(強制投入法)を行った(Table1)。
いずれにおいても調整済みR2値は有意であり,2つの自己効力感尺度得点に対して経験年数10年以下の群では「職場の人間関係」が,11年以上の群では「仕事の満足度」と「学校外での個人的な勉強会への参加」が正の影響を及ぼしていた。「職場の人間関係」は11年以上の群のGSES得点にも影響していた。「実践の振り返りやまとめ」は経験年数に関わらず職務自己効力感に正の影響を及ぼしていた。
研究2
方法
調査時期 20XX年8月~9月
調査協力者 研究1への参加時に個別インタビューへの協力を申し出た協力者から,GSES得点と経験年数を基に選出された養護教諭12名。
調査内容 『養護教諭として仕事をしてくる中で印象に残っている出来事』を連想刺激としてこれまでの経験を振り返ってもらい,PAC分析を行った。6週間後にGSESの再測定とPAC分析で感じたことや気づいたことについて自由記述で回答を求めた。
結果と考察
PAC分析から得られたクラスターに対する協力者自身の解釈において,GSES得点が低く経験年数が浅い養護教諭は職場の人間関係に関する悩みや仕事に対する自信のなさ等を語った。GSES得点の高い養護教諭や経験年数11年以上の養護教諭は,周囲から支えられた経験や過去の辛い経験も肯定的に捉え直した様子を語り,それらが成長の糧となったことが窺えた。事後調査におけるGSES得点には大きな変化は認められず,PAC分析の体験が自己効力感を上昇させることは確認できなかった。しかし自由記述からは,PAC分析を通した振り返りがこれまでの経験の再統合につながったことが示唆された。