The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PG

(5階ラウンジ)

Sun. Nov 9, 2014 10:00 AM - 12:00 PM 5階ラウンジ (5階)

[PG056] 大学生を対象とした反転授業の効果検証に関する研究

本田周二1, 森朋子2, 溝上慎一3 (1.島根大学, 2.関西大学, 3.京都大学)

Keywords:反転授業, 学習アプローチ, 縦断的調査

問題と目的
本研究は,大学生を対象にした反転授業(Flipped Classroom)の効果検証を行ったものである。反転授業とは,説明型の講義など基本的な学習を宿題として授業前に行い,個別指導やプロジェクト学習など知識の定着や応用力の育成に必要な学習を授業中に行う教育方法のことであり,21世紀型授業のモデルの1つとして米国を中心に広がっている。日本においても,小学校から大学まで数多くのフィールドにおいて実践が行われてきており,様々な事例が報告されている。しかし,反転授業の効果を検証したものはほとんど見られない。そこで,本研究では,大学生を対象に反転授業を実施し,その効果を量的なデータにおいて検証することを目的とした。
方法
調査時期:Pre調査は,2013年5月,Post調査は2013年7月に実施した。
分析対象者:島根県内の大学生164名(男性122名,女性42名,平均年齢19.5歳)であった。
調査内容:Pre調査・・・学習アプローチ(深い学習観,浅い学習観)(河井・溝上, 2012),大学授業観(積極的な要望,安直な考え)(桑村ら, 2005),学習動機(浅野, 2002)を用いた。Post調査・・・Pre調査と同様の項目に加えて,反転授業に対する評価(「一般の授業よりも反転授業の方が,学習内容の理解が深まった」「一般の授業よりも反転授業の方が,授業に参加しているという感覚が持てた」「一般の授業よりも反転授業の方が,学習へのやる気が上がった」),そして,自由記述にて「一般の授業と比べて良かった点,改善してほしい点」について回答を求めた。
結果と考察
Pre調査における学習動機を元に,分析対象者を学習動機低群(86名),高群(76名)に分類した。そして,学習動機group(低群・高群)×調査時期(Pre・Post)による2要因混合分散分析を行った。
分析の結果を以下に示す。まず,深い学習観に関して,学習動機groupの主効果のみ有意であった(F(1,153) = 31.78, p<.01)。動機づけ低群よりも高群の方が深い学習観の得点が高かった。次に,浅い学習観に関して,調査時期(F(1,153) = 5.04, p<.05)および学習動機group(F(1,153) = 9.48, p<.01)の主効果が有意であった。Pre調査よりもPost調査の方が,動機づけ高群よりも低群の方が浅い学習観の得点が高かった。そして,積極的な要望に関して,学習動機groupの主効果のみ有意であった(F(1,154) = 11.70, p<.01)。動機づけ低群よりも高群の方が深い学習観の得点が高かった。最後に,安直な考えに関して,調査時期(F(1,153) = 7.91, p<.05)および学習動機group(F(1,153) = 18.76, p<.01)の主効果,交互作用(F(1,153) = 7.30, p<.01)が有意であった。交互作用が有意であったため,単純主効果の検定を行った。その結果,動機づけ高群における調査時期の単純主効果およびPre調査,Post調査における学習動機groupの単純主効果が有意であった。動機づけ高群において,Pre調査よりもPost調査の方が安直な考えが高かった。そして,Pre,Post調査どちらにおいても動機づけ高群よりも低群の方が安直な考えが高かった。
分析の結果,反転授業によるポジティブな結果は得られなかった。反面,反転授業を実施したことによって,浅い学習動機の高まりや動機づけ高群における安直な考えの増加が見られた。本研究の結果からは,反転授業によるマイナスの効果が見出されたと言えよう。しかし,反転授業の実施方法には様々なものがあり,実施方法によって反転授業の効果が異なる可能性は十分考えられる。また,反転授業の効果を適切に測定するための変数には様々なものがあるだろう。反転授業は,近年注目され始めたばかりであり,その実施方法や効果についてはまだまだ試行錯誤の段階にあると考えられる。
今後は,反転授業の効果を測定するための尺度の精査を行うこと,また,本研究で用いなかった様々な変数(成績や学習時間など)も合わせたうえで分析を行うことにより,反転授業の効果についてより丁寧に検証していくことが重要であろう。学生,教員双方にとって有益な授業の枠組みとなるために,地道なデータの蓄積が求められる。
引用文献
河井亨・溝上慎一 (2012). 学習を架橋するラーニング・ブリッジングについての分析-学習アプローチ、将来と日常の接続との関連に着目して- 日本教育工学会論文誌, 36, 217-226.