[PG063] 中国語・英語を母語とする中級日本語学習者のPCによる作文過程
Keywords:作文, 第二言語習得, パソコン
目的
中国語または英語を母語とする中級日本語学習者が,PC を用いた日本語の作文過程で行っている思考活動を明らかにすることである。
方法
参加者 中級日本語学習者であり,中国語を母語とする者5名,英語を母語とする者6名。
作文のテーマ 自国の食べ物と日本の食べ物,田舎の生活と都会の生活,高校生活と大学生活等の7つの比較のテーマから,調査時に1つを選択。
手続き 作文に必要なものの持ち込み,使用を事前に許可しておいた。作文時に考えていることを日本語でも母語でもよいので,できる限り話す(発話思考法)よう依頼した。参加者が沈黙した際は話すようにカードで指示すると伝えた。発話思考法を四則計算・母語での作文・日本語での作文で約1 時間練習した後,上記の7つのテーマから1つを選んで作文を書いてもらい,ビデオ,IC レコーダー,録画ソフトで記録した。作文執筆終了後,インタビューを行った。
分析方法 チェックリスト法を用い,観察対象の思考活動の有無を1分単位でチェックした。観察対象となる思考活動のカテゴリーは石毛(2012)で用いられた8つの行動機能のカテゴリー「課題を読む」「書いた文,または文の一部を読み返す」「編集」「論評・評価」「外部リソースによる助け」「計画」「試行」「発話しながら書く」を用いた。
結果と考察
学習者の母語(中国語・英語)と思考活動の関係を検討するために,思考活動の度数分布について2(母語)×8(思考活動)のχ2検定を行ったところ,思考活動の分布に有意な偏りが認められた(χ2(7,N=1468)=44.922, p <.001)。残差分析の結果,中国語母語話者は「試行」の頻度が高く,「論評・評価」および「計画」の頻度が低かった(表1)。英語母語話者は「論評・評価」および「計画」の頻度が高く,「試行」の頻度が低かった(表1)。「試行」は思考の言語化の過程で,入力してみる前に表現したい内容や意味が適切に言語化されるように試してみることで,例として「韓国へ,韓国を,韓国で,韓国にいるとき」のようにつぶやくことをさす(石毛2012)。「論評・評価」は書かれた語句や文に対するメタ言語的な発話で,例として「『なので』(という言葉を)使いすぎですね」と自分の作文や言語活動を自己評価することをさす(石毛2012)。そして「計画」は文章構造・内容・方略についての立案であり,発話例は「(テーマを)決めました」「じゃあ最後の話(を書こう)」などがある(石毛2012)。
これらの特徴的に観察された活動を中国語母語話者と英語母語話者で比較してみると,中国語母語話者の方が認知負担のあまり重くない,あらわされる言語を操作する「試行」を多く行っているのに対し,英語母語話者は「計画」のように内容や構成を考えるという認知負担が重い活動,そしてあらわされた内容や言語を振り返る「論評・評価」を行っていることが示された。
引用文献
石毛順子(2012)『第二言語習得における作文教育の意義と特殊性』風間書房
付記
本研究は科研費若手研究B24720237「日本語学習者のパソコンを用いた作文過程の探求」の助成を受けている。
中国語または英語を母語とする中級日本語学習者が,PC を用いた日本語の作文過程で行っている思考活動を明らかにすることである。
方法
参加者 中級日本語学習者であり,中国語を母語とする者5名,英語を母語とする者6名。
作文のテーマ 自国の食べ物と日本の食べ物,田舎の生活と都会の生活,高校生活と大学生活等の7つの比較のテーマから,調査時に1つを選択。
手続き 作文に必要なものの持ち込み,使用を事前に許可しておいた。作文時に考えていることを日本語でも母語でもよいので,できる限り話す(発話思考法)よう依頼した。参加者が沈黙した際は話すようにカードで指示すると伝えた。発話思考法を四則計算・母語での作文・日本語での作文で約1 時間練習した後,上記の7つのテーマから1つを選んで作文を書いてもらい,ビデオ,IC レコーダー,録画ソフトで記録した。作文執筆終了後,インタビューを行った。
分析方法 チェックリスト法を用い,観察対象の思考活動の有無を1分単位でチェックした。観察対象となる思考活動のカテゴリーは石毛(2012)で用いられた8つの行動機能のカテゴリー「課題を読む」「書いた文,または文の一部を読み返す」「編集」「論評・評価」「外部リソースによる助け」「計画」「試行」「発話しながら書く」を用いた。
結果と考察
学習者の母語(中国語・英語)と思考活動の関係を検討するために,思考活動の度数分布について2(母語)×8(思考活動)のχ2検定を行ったところ,思考活動の分布に有意な偏りが認められた(χ2(7,N=1468)=44.922, p <.001)。残差分析の結果,中国語母語話者は「試行」の頻度が高く,「論評・評価」および「計画」の頻度が低かった(表1)。英語母語話者は「論評・評価」および「計画」の頻度が高く,「試行」の頻度が低かった(表1)。「試行」は思考の言語化の過程で,入力してみる前に表現したい内容や意味が適切に言語化されるように試してみることで,例として「韓国へ,韓国を,韓国で,韓国にいるとき」のようにつぶやくことをさす(石毛2012)。「論評・評価」は書かれた語句や文に対するメタ言語的な発話で,例として「『なので』(という言葉を)使いすぎですね」と自分の作文や言語活動を自己評価することをさす(石毛2012)。そして「計画」は文章構造・内容・方略についての立案であり,発話例は「(テーマを)決めました」「じゃあ最後の話(を書こう)」などがある(石毛2012)。
これらの特徴的に観察された活動を中国語母語話者と英語母語話者で比較してみると,中国語母語話者の方が認知負担のあまり重くない,あらわされる言語を操作する「試行」を多く行っているのに対し,英語母語話者は「計画」のように内容や構成を考えるという認知負担が重い活動,そしてあらわされた内容や言語を振り返る「論評・評価」を行っていることが示された。
引用文献
石毛順子(2012)『第二言語習得における作文教育の意義と特殊性』風間書房
付記
本研究は科研費若手研究B24720237「日本語学習者のパソコンを用いた作文過程の探求」の助成を受けている。