[PG066] 討論活動における児童の聴き方の偏りと発話傾向との関連
聴き方のマイサイドバイアスに着目して
Keywords:聴き方のマイサイドバイアス, 討論活動, 初等教育
問題と目的
質の高い話し合いを行うためには,持論だけでなく,反対意見をふまえて思考・発話することが重要である(e.g., Kuhn, 2005)。そこで,先行研究では反対意見を記録するなど,反対意見に注意を向けるためのツールやプロンプトを提供し,反対意見をふまえた発話の促進を試みてきた(e.g., Nussbaum & Edwards, 2011)。ただし,これらの研究では「反対意見を聴く」ことを重要な活動として位置づけているにもかかわらず,学習者の聴き方については焦点を当ててこなかった。そのため,聴き方と発話傾向との関連については,十分に明らかにされていないという現状にある。
そこで本研究では,討論活動における児童の聴き方の特徴をマイサイドバイアスという観点から捉え,聴き方のマイサイドバイアスと発話傾向との関連について検討する。なお,本研究では聴き方のマイサイドバイアスを「反対意見よりも賛成側の意見を多く聴くこと」の意味で用いる。
方法
対象 都内小学校3年生の1学級(男子20名,女子18名)において,2011年12月から2012年2月の間に行われた4回の討論活動を対象とした。
討論の手続き 2つの対立する立場を提示し,それぞれの立場に対する賛成度評定を求めた。児童は賛成度の高い立場側で討論活動を行った。
直後再生課題 本研究では児童の聴き方の特徴を直後再生課題によって近似的に捉えた。そして,「賛成意見再生数?反対意見再生数」によって算出される「聴き方のマイサイドバイアス指数(以降,MB指数)」と,発話傾向との関連を検討した。
発話の応答性 発話連鎖に関係なく新たに自分の意見を示す発話を「トピック発話」とし,事前に発せられた反対意見に対する応答を「応答発話」として分類した。
発話の機能 Nussbaum & Edwards(2011)の分析枠組みをもとに,1)持論の良い点のみを指摘する「利点提示」(例:猫は,ちっちゃくて,ふわふわしてかわいいから),2)反対意見の悪い点のみを指摘する「欠点提示」(例:犬は,ほえるからうるさい),3)反対意見の利点は持論にも共通しているとする「打ち消し」(例:犬はしつけができるというけど,猫もちゃんとやればしつけができる),4)持論と反対意見を比較し,持論の優勢性を示す「優勢提示」(例:犬はいっぱい吠えたり,駆け回ったりするけど,猫はおとなしく座ってたりするから),の4カテゴリを設け分類を行った(κ = .75)。
結果と考察
聴き方のマイサイドバイアス 全討論活動における再生数間の平均値差を検証した結果,反対意見再生数(M = 3.13, SD = 2.06)よりも,賛成意見再生数(M = 5.45, SD = 3.07)の方が多いことが示された(t (30) = 3.98, p < .01, dD = 0.73)。すなわち,児童の聴き方にはマイサイドバイアスと呼べる偏りがあり,反対意見よりも賛成する側の意見をより積極的に聴いている傾向にあることが示された。
MB指数と発話傾向との関連 MB指数と各発話カテゴリにおける平均発話数との相関分析を行った。ただし,発話傾向には聴き方だけでなく,立場に対する態度も影響していると考えられる(Baron, 1995)。そこで,討論前の立場に対する児童の賛成度を除去した偏相関係数についても算出した。結果をTable 1に示す。
分析の結果,MB指数と応答発話数,および,打ち消し発話数との間に有意な負の相関係数,偏相関係数が確認された。すなわち,反対意見を多く再生していた児童ほど,反対意見に対する応答を多く行っており,とりわけ反対意見の利点を打ち消すような発話を行っていることが示された。
以上の結果は,討論における聴き方の偏りが発話傾向と関連している可能性を示唆している。したがって,発話の質を高めるためには,「他者の意見を良く聴く」だけでなく,「聴き方の偏りを自覚し,調整する」ことが重要になると考えられる。特に,反対意見をふまえた発話を促進する上では,反対意見を聴くように促すための支援が必要になるといえるだろう。
質の高い話し合いを行うためには,持論だけでなく,反対意見をふまえて思考・発話することが重要である(e.g., Kuhn, 2005)。そこで,先行研究では反対意見を記録するなど,反対意見に注意を向けるためのツールやプロンプトを提供し,反対意見をふまえた発話の促進を試みてきた(e.g., Nussbaum & Edwards, 2011)。ただし,これらの研究では「反対意見を聴く」ことを重要な活動として位置づけているにもかかわらず,学習者の聴き方については焦点を当ててこなかった。そのため,聴き方と発話傾向との関連については,十分に明らかにされていないという現状にある。
そこで本研究では,討論活動における児童の聴き方の特徴をマイサイドバイアスという観点から捉え,聴き方のマイサイドバイアスと発話傾向との関連について検討する。なお,本研究では聴き方のマイサイドバイアスを「反対意見よりも賛成側の意見を多く聴くこと」の意味で用いる。
方法
対象 都内小学校3年生の1学級(男子20名,女子18名)において,2011年12月から2012年2月の間に行われた4回の討論活動を対象とした。
討論の手続き 2つの対立する立場を提示し,それぞれの立場に対する賛成度評定を求めた。児童は賛成度の高い立場側で討論活動を行った。
直後再生課題 本研究では児童の聴き方の特徴を直後再生課題によって近似的に捉えた。そして,「賛成意見再生数?反対意見再生数」によって算出される「聴き方のマイサイドバイアス指数(以降,MB指数)」と,発話傾向との関連を検討した。
発話の応答性 発話連鎖に関係なく新たに自分の意見を示す発話を「トピック発話」とし,事前に発せられた反対意見に対する応答を「応答発話」として分類した。
発話の機能 Nussbaum & Edwards(2011)の分析枠組みをもとに,1)持論の良い点のみを指摘する「利点提示」(例:猫は,ちっちゃくて,ふわふわしてかわいいから),2)反対意見の悪い点のみを指摘する「欠点提示」(例:犬は,ほえるからうるさい),3)反対意見の利点は持論にも共通しているとする「打ち消し」(例:犬はしつけができるというけど,猫もちゃんとやればしつけができる),4)持論と反対意見を比較し,持論の優勢性を示す「優勢提示」(例:犬はいっぱい吠えたり,駆け回ったりするけど,猫はおとなしく座ってたりするから),の4カテゴリを設け分類を行った(κ = .75)。
結果と考察
聴き方のマイサイドバイアス 全討論活動における再生数間の平均値差を検証した結果,反対意見再生数(M = 3.13, SD = 2.06)よりも,賛成意見再生数(M = 5.45, SD = 3.07)の方が多いことが示された(t (30) = 3.98, p < .01, dD = 0.73)。すなわち,児童の聴き方にはマイサイドバイアスと呼べる偏りがあり,反対意見よりも賛成する側の意見をより積極的に聴いている傾向にあることが示された。
MB指数と発話傾向との関連 MB指数と各発話カテゴリにおける平均発話数との相関分析を行った。ただし,発話傾向には聴き方だけでなく,立場に対する態度も影響していると考えられる(Baron, 1995)。そこで,討論前の立場に対する児童の賛成度を除去した偏相関係数についても算出した。結果をTable 1に示す。
分析の結果,MB指数と応答発話数,および,打ち消し発話数との間に有意な負の相関係数,偏相関係数が確認された。すなわち,反対意見を多く再生していた児童ほど,反対意見に対する応答を多く行っており,とりわけ反対意見の利点を打ち消すような発話を行っていることが示された。
以上の結果は,討論における聴き方の偏りが発話傾向と関連している可能性を示唆している。したがって,発話の質を高めるためには,「他者の意見を良く聴く」だけでなく,「聴き方の偏りを自覚し,調整する」ことが重要になると考えられる。特に,反対意見をふまえた発話を促進する上では,反対意見を聴くように促すための支援が必要になるといえるだろう。