[PH003] 小学校教師における教育実践語の意味理解の多様性
Keywords:小学1年生, 教師の視点, 教育実践語
【問題と目的】
これまでの教師の視点は「子ども観」(小川,1985)や「不適応観」(淵上・田中,2001)といったような大きな枠組みで捉えられてきている。しかし,学校現場における指導行動や子ども理解に対しては,子ども観のような大きな枠組みで捉えられた教師の視点よりも,教師同士が子どもや教育の場,あるいは実践について語り合う際に用いる一つ一つの言葉の捉え方や使う意味合いに反映された視点の方が,より直接的な影響を及ぼしているのではないかと考えられる。岩川(1994)によれば,教師の語る言葉には,実践や経験の中で築きあげられる専門的見識と実践的知識が含み込まれるという。また,野口ら(2007)も,教育の場でよく用いられる語は,その語を使用することで教師同士が実践を語り,理解を共有しているように見えるが,実際には個々の教師の視点や実践的知識のあり方,用いる者の立場によって,同じ語においても異なる意味内容を扱っていることが予想されると指摘している。このような教師間の思い込みや食い違いは,教師がお互いに子どもや教育の実践について語る時の,その言葉の意味理解において連携を阻む大きな要因となっているのではないだろうか。そこで本研究では,1年生の子どもの様子やその指導について,教師が日常使用する語を対象として,各教師の記述から意味内容の共通点と相違点とを明らかにするとともに,それらの語の意味の捉え方には属性によって違いがあるのかについて検討する。
【方法】
調査協力者 公立小学校教師109名(男性33名,
女性75名、不明1名)。協力者の教職経験年数は1~3年目が20名,4~10年目が29名,11~21年目が24名,22年以上が36名であった。また,1年生の担任経験者が65名,経験なしが42名,不明が2名であった。
調査内容 『1年生のある1日』と題したビデオを視聴した公立学校教師12名のインタビューから,教育現場で日常的に使用されている語として選出された「元気」「1年生なりの成長」「授業規律」「他学年と比べた1年生」「トラブルの解決」「一人一人に配慮する」「協力する」の7語の意味を記述するよう依頼し,各語の使用頻度と使用する時に意味を考える程度についても回答を依頼した。
【結果と考察】
○属性と各語の記述回答数の比較
各語の回答人数は685名,分類の結果,意味記述総数は1666となった。いずれの語においても回答人数よりも記述数の方が多かったことから,全ての語に対して複数の意味で使用されていることが確認された。例えば,『元気』は,「外でよく遊ぶ」「声の大きさ」など半数以上の教師が肯定的に捉える一方で,「大きな声で騒ぐ」「落ち着きがない」といった記述がみられた。教職経験の多い教師の記述数が多く,担任回数ごとのの記述数比較では,『元気』『1年生なりの成長』『授業規律』の3語において,担任回数の多い教師の方が有意に記述数が多かった。
○属性と各語のカテゴリーにおける記述の割合
協力者の各語の自由記述を意味内容により分類した結果,それぞれの語に対して7から11のカテゴリーが作成された。教職経験年数によって有意な差が認められたのは,『1年生なりの成長』『他学年と比べた1年生』であった。22年以上の教師は,『1年生なりの成長』を「自立」「人間関係」の意味で記述する割合が高かった。教職年数が3年以下の教師では,「子どもらしさ」の記述の割合が低く,「教師の指導」「学校行事」の記述の割合が高かった。
○各語の使用頻度と思考の関係
各語に対する使用頻度の回答では,『元気』(84.3%)と協力する(63.0%)以外の語では,「よく使う」と回答していた協力者は半数以下であった。各語は実際に教育実践をビデオで観察した後のインタビューの語りから抽出していたにも関わらず,実際の場を離れ,あらためて語を提示された場合には使用頻度は低かった。また,各語の使用頻度と意味の思考について両者の相関は『授業規律』(r=.582)以外,見られなかった。
教師が日常使用する語は,複数の意味で使われるだけではなく,肯定的な意味とそうでない意味の両方を含んでいる語もあることが明らかとなった。本研究では,対象となる語は7語であったが,教育現場で使用されるほとんどの語が複数の意味で使用されていることが予想される。教師間で使用する語には複数の意味があることや,子どもや教育実践について同僚と話をする際に,たとえ同じ語を使用したとしても,自分が考えている意味とは違う意味で相手がその語を捉えている可能性があることを知っておくことは意義があるであろう。
これまでの教師の視点は「子ども観」(小川,1985)や「不適応観」(淵上・田中,2001)といったような大きな枠組みで捉えられてきている。しかし,学校現場における指導行動や子ども理解に対しては,子ども観のような大きな枠組みで捉えられた教師の視点よりも,教師同士が子どもや教育の場,あるいは実践について語り合う際に用いる一つ一つの言葉の捉え方や使う意味合いに反映された視点の方が,より直接的な影響を及ぼしているのではないかと考えられる。岩川(1994)によれば,教師の語る言葉には,実践や経験の中で築きあげられる専門的見識と実践的知識が含み込まれるという。また,野口ら(2007)も,教育の場でよく用いられる語は,その語を使用することで教師同士が実践を語り,理解を共有しているように見えるが,実際には個々の教師の視点や実践的知識のあり方,用いる者の立場によって,同じ語においても異なる意味内容を扱っていることが予想されると指摘している。このような教師間の思い込みや食い違いは,教師がお互いに子どもや教育の実践について語る時の,その言葉の意味理解において連携を阻む大きな要因となっているのではないだろうか。そこで本研究では,1年生の子どもの様子やその指導について,教師が日常使用する語を対象として,各教師の記述から意味内容の共通点と相違点とを明らかにするとともに,それらの語の意味の捉え方には属性によって違いがあるのかについて検討する。
【方法】
調査協力者 公立小学校教師109名(男性33名,
女性75名、不明1名)。協力者の教職経験年数は1~3年目が20名,4~10年目が29名,11~21年目が24名,22年以上が36名であった。また,1年生の担任経験者が65名,経験なしが42名,不明が2名であった。
調査内容 『1年生のある1日』と題したビデオを視聴した公立学校教師12名のインタビューから,教育現場で日常的に使用されている語として選出された「元気」「1年生なりの成長」「授業規律」「他学年と比べた1年生」「トラブルの解決」「一人一人に配慮する」「協力する」の7語の意味を記述するよう依頼し,各語の使用頻度と使用する時に意味を考える程度についても回答を依頼した。
【結果と考察】
○属性と各語の記述回答数の比較
各語の回答人数は685名,分類の結果,意味記述総数は1666となった。いずれの語においても回答人数よりも記述数の方が多かったことから,全ての語に対して複数の意味で使用されていることが確認された。例えば,『元気』は,「外でよく遊ぶ」「声の大きさ」など半数以上の教師が肯定的に捉える一方で,「大きな声で騒ぐ」「落ち着きがない」といった記述がみられた。教職経験の多い教師の記述数が多く,担任回数ごとのの記述数比較では,『元気』『1年生なりの成長』『授業規律』の3語において,担任回数の多い教師の方が有意に記述数が多かった。
○属性と各語のカテゴリーにおける記述の割合
協力者の各語の自由記述を意味内容により分類した結果,それぞれの語に対して7から11のカテゴリーが作成された。教職経験年数によって有意な差が認められたのは,『1年生なりの成長』『他学年と比べた1年生』であった。22年以上の教師は,『1年生なりの成長』を「自立」「人間関係」の意味で記述する割合が高かった。教職年数が3年以下の教師では,「子どもらしさ」の記述の割合が低く,「教師の指導」「学校行事」の記述の割合が高かった。
○各語の使用頻度と思考の関係
各語に対する使用頻度の回答では,『元気』(84.3%)と協力する(63.0%)以外の語では,「よく使う」と回答していた協力者は半数以下であった。各語は実際に教育実践をビデオで観察した後のインタビューの語りから抽出していたにも関わらず,実際の場を離れ,あらためて語を提示された場合には使用頻度は低かった。また,各語の使用頻度と意味の思考について両者の相関は『授業規律』(r=.582)以外,見られなかった。
教師が日常使用する語は,複数の意味で使われるだけではなく,肯定的な意味とそうでない意味の両方を含んでいる語もあることが明らかとなった。本研究では,対象となる語は7語であったが,教育現場で使用されるほとんどの語が複数の意味で使用されていることが予想される。教師間で使用する語には複数の意味があることや,子どもや教育実践について同僚と話をする際に,たとえ同じ語を使用したとしても,自分が考えている意味とは違う意味で相手がその語を捉えている可能性があることを知っておくことは意義があるであろう。