The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PH

(5階ラウンジ)

Sun. Nov 9, 2014 1:30 PM - 3:30 PM 5階ラウンジ (5階)

[PH006] 教師の学習の契機としての校種間連携(2)

組織の安定と理解深化を基盤とした実践の創出と成員性の獲得

藤江康彦 (東京大学大学院)

Keywords:小中一貫教育, 教師の学習, 教師の専門性

【問題】藤江(2013)では、小中一貫校における教師の語りから、他校種の教師や子どもと接することで自校種の文化や実践の省察がなされ、異なる教師文化、学校文化の結節点において双方の実践や子どもの学習や発達を語る新たな言語を獲得することを可能とする点で、小中一貫教育は教師の学習の契機となる可能性があると考察した。今回は、2年目を迎えた同校の教師の語りから、どういった実践が創出され、新たな語りが教師のどういった学習のありようを示しているか検討する。
【方法】対象:関西地方にて小中一貫教育に取り組んで2年目となる施設一体型小中一貫校。9学年が同一校舎で生活している。小中の教師は職員室を共有し、校務分掌や職員会議など学校運営には常に合同で取り組む。5、6年生を中心に一部教科で教科担任制を導入。調査:教師に対する面談と授業への参与観察。対象人数は小学校教師11、中学校教師11、特別支援担当教師2、栄養教諭1、校務支援員1、養護教諭2、管理職3の計31名(うち、小8、中7、特支1、栄養教諭1、校務支援員1、養護教諭2、管理職1の計21名は前年度から継続して当該校に勤務)。分析:音声記録の質的分析。
【結果と考察】昨年度から引き続き当該校に勤務している多くの教諭からは〔組織の安定〕が語られた。教師集団として「小中一貫校に慣れ」「なじんだ」からであった。昨年度の〔異校種教師文化への気づき〕を基盤として「要領を覚えた」のである。小中一貫教育には「よい面悪い面あるが、よい面を伸ばしていく」という方針で実践を構成しようとする意思を読み取ることができる。
 また、昨年度に比べて今年度はさらに〔異校種の教師や子どもへの理解深化〕がみられた。とりわけ中学校教師が小学生や小学校教師の様子をよく観察していた。教科担任として小学校の授業を担当している社会科、英語科、音楽科、保健体育科の教師を中心として小学生の様子をつぶさに観察していた。「分からんかったらふにゃっとなったりとか、分かったら非常にうれしそうな表情をしたり」など、具体的な子どもの姿として語られた。「この子らを中学校でまた教えるつもり」で担当学年から9年生までの長期スパンで教科指導をとらえている。中学校教師はまた小学校の学級における教師と子どもの関係性のあり方を間接的に経験し、子どもへの丁寧な関わり方や関係性形成のあり方などにおける密接さに気づいた。「職員室一個というのはすごい大きい」という語りにあるように物理的環境が観察の契機をもたらしたのだろう。
 さらに、〔具体的な実践のアイデア〕が語られた。6年生の担任教師は実際には卒業しない子どもたちに「人生の別れ目の出会いのときには、それなりのシチュエーションをつくってあげる」ために、教師自身が卒業を控えた雰囲気を創出し、レベルの高い課題を用意したり、子どもが自分で意思決定をする場面を創出していた。5年生の担任教師は「どんな7年生になりたいかを考えさせる」ための「足跡帳」を導入し、なりたい7年生になるために行事などでどのようなことをがんばるか記入し振り返る活動に取り組んだ。中学校の保健体育科教諭は、12歳までに神経系の発達を促す活動を取り入れること構想していた。教師たちが「発達」という観点から学級経営や子どもの活動、教科指導を構想し実践しており9年間の発達を視野に入れた実践の創出がみられた。
加えて、〔成員性の獲得〕が語りに現れた。例えば、「小中一貫でしてきたことをもう少し外に発信していかなければならない」という発信することの必要性が語られた。小中一貫校経験者の社会的役割について言及している。小中一貫校教師としてのディスコースを獲得したと考えられる。また、新たに着任した教師が実践を安定して進めることができるよう記録を残しておくことの必要性についても語られた。組織の維持や継承についての語りには、小中一貫校教師としての成員性の獲得が現れている。さらに、一貫校で経験したこと、蓄えた実践知を異動先でどのように生かすかについての語りも聞かれた。小中一貫校での経験を自らのキャリアに肯定的に位置づけるようになってきたといえる。小中一貫校の社会的意味を検討する際にきわめて重要な語りであるといえる。
 教師たちの語りは「小でもない中でもない小中学校の文化」と語られるように、小中それぞれの教師としてだけではなく「小中一貫校教師」としてのアイデンティティと成員性の獲得を示唆する。
本研究は、科学研究費補助金(基盤研究(C))「小中連携、一貫の実践における教師の学習過程の分析と支援システムの開発」(研究課題番号:24530994)の助成を受けた。