The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PH

(5階ラウンジ)

Sun. Nov 9, 2014 1:30 PM - 3:30 PM 5階ラウンジ (5階)

[PH026] 読解内容を他者に伝える意識が文章読解後の作文に及ぼす影響

読解前の紹介文・要約文作成教示を用いた検討

柏崎秀子1, 費暁東2, 松見法男2 (1.実践女子大学, 2.広島大学)

Keywords:作文, 伝達意識, 評定

【目 的】
文章を読む時は,内容を他者に伝える意識を持つことで理解が深まり,伝達相手を考慮した心的表象を形成することができる(e.g., 柏崎・吉村・費・松見, 2013教心)。では,その意識は,読解後の作文にどのような影響を及ぼすであろうか。他者に伝えるためか自分のためか,また,読解内容を伝える相手が異なる場合,作文内容に違いが生じるであろうか。本研究では,柏崎他(2013)の結果をふまえ,伝達相手が異なる設定で読解した文章の内容に関して,読解後に書かれた作文を複数の観点から評定して,この問題を検討する。
【方 法】
<実験計画> 3つの教示条件を設定した。読んだ文章を大学2年生に分かるように紹介文を書く条件(大2),同様に中学1年生に紹介文を書く条件(中1),後で自分でよく分かるように要約文を書く条件(自分)であった。<実験参加者>女子大学生(2年生)104名で,無作為に3条件(大2=36名,中1=34名,自分=34名)に割り当てられた。<材料> 『「しきり」の文化論』(柏木,2004)の一部(1456字,35文)を用いた。<手続き> 教職課程の授業の一環として,集団形式で行われた。実験参加者は次の手順で課題に取り組んだ。①教示文の黙読・聴解,②文章の読解,③紹介文または要約文の筆記産出,④理解度テスト,⑤文の重要度評定,⑥筆記による内省報告,であった。<分析対象> 手順③の3種類の作文を,実験者以外の母語話者2名が11個の作文評定項目(邑本,1998)について,5段階(1:全くそう思わない~5:非常にそう思う)で評定した(一致率は88.64%)。
【結果と考察】
各項目の平均評定値(表1を参照)について,1要因(3水準)の分散分析を行った。項目3,5,7,11以外では,すべて主効果が有意であった。項目3(この文章は原文と見比べたときに,原文中の詳細な情報がよく省略されている),項目5(この文章は原文と見比べたときに,修飾語句が付加されたり,述語がより具体的になっていたりすることが多い),項目7(この文章は,原文にある複数の内容を抽象的にして,一つの文にしてまとめている),項目11(この文章は原文の内容と明らかに矛盾する内容が多い)の4項目のうち,項目3は平均評定値がどの条件でも高く,反対に項目11はどの条件でも低かった。読解後の作文において,内容を上手くまとめようとする意識が,各条件で生じた可能性が窺える。
主効果が有意であった項目の多重比較の結果に基づいて考察を進める。項目1(この文章は原文の中に書かれてある表現と同一の表現が多く使われている)と項目2(この文章は原文と見比べたときに,用いられている述語が原文と意味は同じだが異なることが多い)では,大2条件と自分条件の評定値が中1条件よりも高かった。伝達相手の違い(年齢)に応じた特徴を示す結果である。項目9(この文章は原文中に明示されておらず,読み手の既有知識をもとにした情報を付与している個所が多い)と項目10(この文章は原文に対するコメントを多く含んでいる)では,中1条件と大2条件の評定値が自分条件よりも高かった。他者を意識した伝え方の特徴を示す結果である。項目8(この文章は,原文中に明示されていないが原文から簡単に推測できる情報を付与している箇所が多い)では,大2条件の評定値が中1条件と自分条件よりも高かった。年齢と自他の双方に応じた特徴を示す結果である。
総じて,文章内容を誰に伝えるかによって,読解後の作文が,語句の選択,関連情報の加除,文章構成の仕方の各点で異なることが示唆される。今後は,読解の理解度との関連性も探りたい。