[PH037] 話し上手・聞き上手に至る発達の予測的知見(4)
教師の指導目標と指導との関連,及び児童の学習目標と学習の実際の時期的な変容について
Keywords:話し上手・聞き上手, 指導目標, 学習目標
問題と目的
学校教育実践における文字言語・音声言語教育の指導について,大越(2004)は,音声言語教育の指導に力点が置かれていることを指摘している。しかし,従来の教育心理学研究においては,話すこと・聞くことといった音声言語に関わる実践研究(例えば,秋田ら, 2002; 臼井ら, 2005; 一柳, 2009; 梶井, 2008, 2011, 2012)の数は,文字言語に関わる研究に比べて,相対的に少ない。例えば,山元(2005)は,視覚的に見えない行為である話す聞く能力の指導においては,生徒が立てた学習目標に照らして自己の学習を振り返るなどのメタ認知活動が重要となることを指摘している。
そこで本研究では,教師が設定する指導目標(以下,指導目標)と,児童が設定する学習目標(以下,学習目標)との比較,及び授業の到達度評価,授業観察に基づく教師へのフィードバックを実施し,教師の指導観や指導の変化,及び児童の学習の実際の時期的な変容について検討することを目的とする。
方 法
研究協力者 都内の公立小学校第5学年(男子4名,女子5名,計9名)で,担任は田中教諭(仮名,40代女性)であった。
調査場所 指導目標の設定は教務室または自教室,学習目標の設定は自教室で行った。
実施時期 調査は,2011年5月から10月に行った。話し方・聞き方評価観点・項目(阿彦・梶井, 2012。以下,話・聞評価項目)を基に,教師による児童への評価(以下,教師評価)と,児童による自分への評価(以下,児童評価)を各3回(研究開始時,7月,10月)行った。また,7月と10月では,国語(「話すこと・聞くこと」単元)の授業を調査対象とし,各単元開始時に教師は観察対象児に対する指導目標を,児童は学習目標をそれぞれ設定した。
観察対象児の選出 対象学級の全児童に対し,話・聞評価項目を基に,教師評価と児童評価を実施した。研究開始時の教師評価の値から,話し上手・聞き下手に該当したA児と,話し下手・聞き上手に該当したB 児の計2名を,観察対象児として選出した。
結果と考察
各指導目標・学習目標と話・聞評価項目との対応を検討し,時期ごとにまとめたものが以下の表である。A児は,10月の授業観察の後の教師評価で,苦手とする聞き方に変化がみられた。10月の授業観察における指導目標と学習目標は,対応する学年ブロック,評価観点が共におよそ一致していた。また,B児は,10月の授業観察の後の教師評価で,苦手とする話し方に変化がみられた。10月の授業観察における指導目標と学習目標は,対応する学年ブロックは隣接するものの一致はせず,評価観点は不一致していた。これらの結果から,指導・学習目標の対応する学年ブロック,評価観点,及び双方の一致することによる効果については,それぞれ今後さらに検討する必要があるものの,とりわけ児童が苦手とする能力に関わる話すこと・聞くことの指導においては,教師と児童が共通の目標を共有することで,指導・学習の効果が得られやすくなる可能性が示唆された。
学校教育実践における文字言語・音声言語教育の指導について,大越(2004)は,音声言語教育の指導に力点が置かれていることを指摘している。しかし,従来の教育心理学研究においては,話すこと・聞くことといった音声言語に関わる実践研究(例えば,秋田ら, 2002; 臼井ら, 2005; 一柳, 2009; 梶井, 2008, 2011, 2012)の数は,文字言語に関わる研究に比べて,相対的に少ない。例えば,山元(2005)は,視覚的に見えない行為である話す聞く能力の指導においては,生徒が立てた学習目標に照らして自己の学習を振り返るなどのメタ認知活動が重要となることを指摘している。
そこで本研究では,教師が設定する指導目標(以下,指導目標)と,児童が設定する学習目標(以下,学習目標)との比較,及び授業の到達度評価,授業観察に基づく教師へのフィードバックを実施し,教師の指導観や指導の変化,及び児童の学習の実際の時期的な変容について検討することを目的とする。
方 法
研究協力者 都内の公立小学校第5学年(男子4名,女子5名,計9名)で,担任は田中教諭(仮名,40代女性)であった。
調査場所 指導目標の設定は教務室または自教室,学習目標の設定は自教室で行った。
実施時期 調査は,2011年5月から10月に行った。話し方・聞き方評価観点・項目(阿彦・梶井, 2012。以下,話・聞評価項目)を基に,教師による児童への評価(以下,教師評価)と,児童による自分への評価(以下,児童評価)を各3回(研究開始時,7月,10月)行った。また,7月と10月では,国語(「話すこと・聞くこと」単元)の授業を調査対象とし,各単元開始時に教師は観察対象児に対する指導目標を,児童は学習目標をそれぞれ設定した。
観察対象児の選出 対象学級の全児童に対し,話・聞評価項目を基に,教師評価と児童評価を実施した。研究開始時の教師評価の値から,話し上手・聞き下手に該当したA児と,話し下手・聞き上手に該当したB 児の計2名を,観察対象児として選出した。
結果と考察
各指導目標・学習目標と話・聞評価項目との対応を検討し,時期ごとにまとめたものが以下の表である。A児は,10月の授業観察の後の教師評価で,苦手とする聞き方に変化がみられた。10月の授業観察における指導目標と学習目標は,対応する学年ブロック,評価観点が共におよそ一致していた。また,B児は,10月の授業観察の後の教師評価で,苦手とする話し方に変化がみられた。10月の授業観察における指導目標と学習目標は,対応する学年ブロックは隣接するものの一致はせず,評価観点は不一致していた。これらの結果から,指導・学習目標の対応する学年ブロック,評価観点,及び双方の一致することによる効果については,それぞれ今後さらに検討する必要があるものの,とりわけ児童が苦手とする能力に関わる話すこと・聞くことの指導においては,教師と児童が共通の目標を共有することで,指導・学習の効果が得られやすくなる可能性が示唆された。