The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

Presentation information

ポスター発表 » ポスター発表 PH

ポスター発表 PH

(5階ラウンジ)

Sun. Nov 9, 2014 1:30 PM - 3:30 PM 5階ラウンジ (5階)

[PH050] 大学生の自己意識に関する研究Ⅱ

改訂版自己意識尺度における精神的健康との関連性

金子功一1, 金子智昭2 (1.名古屋大学, 2.慶應義塾大学)

Keywords:自己意識, 自尊感情, 抑うつ

問題と目的
青年期は,自己意識が高まる時期である (Montemayor & Eisen, 1977)。自己意識が高まると,現実―理想自己の差異が拡大し,劣等感や自己嫌悪感などの否定的心性が生じるため,精神的健康が脅かされる可能性がある (榎本, 2012など)。公的自己意識と私的自己意識は,中学から高校,大学にかけて上昇し,大学生で最も高くなる (中間, 2012)。従って,自己への注目が高まる大学生において,自己意識と精神的健康との関連性を明らかにすることは重要であると考える。これまで,自己意識と自尊感情および抑うつとの関連を検討する研究が多く行われてきた (中間, 2012など)。その結果,公的または私的自己意識が高い者ほど,自尊感情が低く,抑うつが高いことが示されているが,一貫した結果は得られておらず,更なる検証が必要であると考える。研究Ⅰ (金子智昭・河村, カウンセリング学会第46回) は,公私自己意識などの概念を提唱して,自己意識を多面的に測定する改訂版自己意識尺度を作成した。本研究では,この尺度を用いて,精神的健康の指標である自尊感情や抑うつとの関連を検討する。
方 法
1)調査時期 : 2013年6月~7月
2)調査対象者 : 首都圏の私立大学2校の学生487名を対象に調査を行った。質問紙に不備のあった者を除いた460名 (男性121名 ; 女性339名) を最終的な分析対象とした (有効回答率94.4%)。平均年齢は19.47 (SD=1.28) 歳であった。
3) 調査内容 : ①改訂版自己意識尺度 (研究Ⅰ参照) :「外見への意識」8項目,「公私自己意識」10項目,「私的自己意識」6項目,「評価意識」5項目の計29項目。②自尊感情尺度 (山本ら, 1982) の10項目を用いた。③自己記入式抑うつ尺度 (福田・小林, 1973) は主感情を測定する項目,「気が沈んで, 憂うつだ」など2項目,生理的随伴症状を測定する項目,「夜良く眠れない」など8項目,心理的随伴症状を測定する項目,「いつもよりいらいらする」など10項目の計20項目を用いた。①と②は5段階評定(1. あてはまらない~5. あてはまる),③は4段階評定 (1. めったにない~4. いつも) で回答を求めた。
結果と考察
研究Ⅰで改訂版自己意識の下位尺度において性差がみられたため,男女別に分析を行った。改訂版自己意識の下位尺度と自尊感情,抑うつとのピアソンの相関係数を算出した (Table 1)。
評価意識は男女ともに,自尊感情とは負の関連,抑うつとは正の関連,さらに抑うつの下位尺度である主感情と心理的随伴症状とは正の有意な関連性があった。評価意識は,人から自分がどのように思われているかなどであり,他者からの評価を気にすることは精神的不健康との関連性が示された。
私的自己意識は,男性の主感情と正の有意な関連があり,自己の内面に注意を向けるほど,憂うつ的な感情を生じさせることが示された。公私自己意識は男女ともに,抑うつ,生理的随伴症状と負の関連があった。また,女性において心理的随伴症状と負の関連がみられた。公私自己意識の高い者は,他者や周囲との関係性の中で自己を意識するため,客観的に自己を捉えることができ,精神的健康を保てると考える。
外見への意識は,男性では抑うつおよび心理的随伴症状と負の関連,女性では生理的随伴症状と負の関連があり,自分の髪型や体系,スタイルを意識するほど,精神的に健康であることが示された。眞榮城ら (2007) は,容姿に対する自己評価の高さと抑うつ傾向との間に負の関連を指摘している。また,容姿に対する自己評価は,男性の方が女性よりも高いことが明らかにされている (眞榮城ら, 2007)。本研究では,外見への意識と抑うつとの関連性に性差が見いだされたことから,今後も男女別により詳細に検討する必要があると考える。
以上より,本研究の結果を総括すると,大学生における評価意識の高い者は,男女ともに,自尊感情が低く,抑うつが高いことから,精神的健康が脅かされることが明らかにされた。一方,公私自己意識の高い者は,男女ともに,抑うつが低いことから,抑うつ予防における健康的な自己注目である可能性が示唆された。このことから,従来の公的・私的という2分化的な自己意識の捉え方に公私という新たな視点を導入する必要性が示されたと考える。