[PH051] 大学生の自己意識に関する研究Ⅲ
アイデンティティ形成過程および自尊感情との関連性
Keywords:大学生, 自己意識, アイデンティティ
1.問題と目的
自己意識は,パーソナリティの一つと定義され(APA,2009),アイデンティティの形成過程には,パーソナリティが重要な役割を担っている(Grotevant,1987)。しかし,自己意識との関連研究は少なく(Hamer&Bruch,1994;Cheek&Briggs,1982),今後の課題と指摘されている(辻,1993)。青年期は,アイデンティティ形成の時期である。青年期は,自己意識が高まるため,現実-理想自己の差異を実感し,自尊感情が低下する(Duval&Wicklund,1972)。ただし,現実-理想自己の差異は,新たな行動への意欲を喚起し,主我の形成を促すとも指摘される(梶田,1988)。また,青年期の自己否定性は,自分を知るという生産的な過程であり,自己変容を促し,自己を再構築させる意義がある(中間,2007;溝上,1999)。岡本(1995)は,成人としてのアイデンティティ獲得には,「アイデンティティ拡散→モラトリアム→アイデンティティ達成」の道筋をたどることを指摘している。従って,本研究では,アイデンティティ形成過程において,自己意識がどのように関わっているかを検討し,さらに,自尊感情との関連も検討する。
2.方法
(1)調査時期:2013年6月~7月。
(2)調査対象:首都圏の私立大学2校の学生487名を対象に調査を行った。質問紙に不備のあった者を除いた460名(男性121名;女性339名)が,最終的な分析対象となった(有効回答率94.4%)。平均年齢は,19.47歳(SD=1.28)であった。
(3)調査内容:1.改訂版自己意識尺度(金子・河村,日本カウンセリング学会第46回大会)…研究Ⅱ参照。2.自尊感情尺度(山本・松井・山成,1982)…10項目の5段階評定。3.同一性地位判定尺度(加藤,1983)…「現在の自己投入」,「過去の危機」,「将来の自己投入の希求」の各4項目計12項目の6段階評定。
3.結果と考察
(1)自己意識のクラスター分析
大学生の自己意識の様相を探索的に検出するために,改訂版自己意識尺度の各4つの下位尺度を標準化し,その値に基づいて,クラスター分析(Ward法)を行った。デンドログラム及びクラスターの解釈可能性から,3つのクラスターが抽出された。自己意識の3つのクラスターを独立変数,自己意識の4つの下位尺度を従属変数とする一要因分散分析を行った(Table.1)。第1クラスターは,全ての下位尺度において,他のクラスターよりも高かったため,『自己意識高群』(124名;26.95%)と命名した。第3クラスターは,全ての下位尺度において,他のクラスターよりも低かったため,『自己意識低群』(99名;21.52%)と命名した。第2クラスターは,「私的自己意識」以外,第3クラスターよりも高く,第1クラスターよりも低かったため,『自己意識中群』(237名;51.52%)と命名した。
(2)各自己意識像とアイデンティティ・ステイタスとのχ2検定および自尊感情との一要因分散分析
自己意識の各クラスターとアイデンティティ・ステイタスのχ2検定を行った結果,双方に有意な関連性が示されたため(χ2=50.04,p<.001,df=10,N=460),残差分析を行った(Table.2)。その結果,自己意識高群は,「モラトリアム」,「同一性達成」が多く,「D-M中間地位」が少なかった。自己意識中群は,「D-M中間地位」が多く,「モラトリアム」,「同一性達成」が少なかった。自己意識低群は,「同一性拡散」が多く,「モラトリアム」が少なかった。これらの結果から,1.自己意識高群は,アイデンティティ発達が良好である,2.自己意識低群は,アイデンティティ発達に問題を抱えている,3.自己意識が高まるに従って,ステイタスが移行し,自我が統合されていく(同一性拡散【低群】→D-M中間地位【中群】→モラトリアム・同一性達成【高群】),以上の3点が示唆されたと考える。本研究結果より,青年期において,アイデンティティ形成を促進させる要因に,自己意識の高まりが関与している可能性が示唆された。次に,自己意識の各クラスターを独立変数,自尊感情を従属変数とする一要因分散分析を行った結果,有意であったため(F(2,457)=3.05,p<.05),TukeyのHSD法による多重比較を行った。自己意識高群は,自己意識低群に比べて,自尊感情が低いことが明らかとなった。
自尊感情の低い大学生は,一見すると,不適応状態と判断されるかもしれない。しかし,その背後に自己意識の高さがみられる場合,現実-理想自己の差異を実感するためであり,アイデンティティを追究する姿として認識することも可能である。
自己意識は,パーソナリティの一つと定義され(APA,2009),アイデンティティの形成過程には,パーソナリティが重要な役割を担っている(Grotevant,1987)。しかし,自己意識との関連研究は少なく(Hamer&Bruch,1994;Cheek&Briggs,1982),今後の課題と指摘されている(辻,1993)。青年期は,アイデンティティ形成の時期である。青年期は,自己意識が高まるため,現実-理想自己の差異を実感し,自尊感情が低下する(Duval&Wicklund,1972)。ただし,現実-理想自己の差異は,新たな行動への意欲を喚起し,主我の形成を促すとも指摘される(梶田,1988)。また,青年期の自己否定性は,自分を知るという生産的な過程であり,自己変容を促し,自己を再構築させる意義がある(中間,2007;溝上,1999)。岡本(1995)は,成人としてのアイデンティティ獲得には,「アイデンティティ拡散→モラトリアム→アイデンティティ達成」の道筋をたどることを指摘している。従って,本研究では,アイデンティティ形成過程において,自己意識がどのように関わっているかを検討し,さらに,自尊感情との関連も検討する。
2.方法
(1)調査時期:2013年6月~7月。
(2)調査対象:首都圏の私立大学2校の学生487名を対象に調査を行った。質問紙に不備のあった者を除いた460名(男性121名;女性339名)が,最終的な分析対象となった(有効回答率94.4%)。平均年齢は,19.47歳(SD=1.28)であった。
(3)調査内容:1.改訂版自己意識尺度(金子・河村,日本カウンセリング学会第46回大会)…研究Ⅱ参照。2.自尊感情尺度(山本・松井・山成,1982)…10項目の5段階評定。3.同一性地位判定尺度(加藤,1983)…「現在の自己投入」,「過去の危機」,「将来の自己投入の希求」の各4項目計12項目の6段階評定。
3.結果と考察
(1)自己意識のクラスター分析
大学生の自己意識の様相を探索的に検出するために,改訂版自己意識尺度の各4つの下位尺度を標準化し,その値に基づいて,クラスター分析(Ward法)を行った。デンドログラム及びクラスターの解釈可能性から,3つのクラスターが抽出された。自己意識の3つのクラスターを独立変数,自己意識の4つの下位尺度を従属変数とする一要因分散分析を行った(Table.1)。第1クラスターは,全ての下位尺度において,他のクラスターよりも高かったため,『自己意識高群』(124名;26.95%)と命名した。第3クラスターは,全ての下位尺度において,他のクラスターよりも低かったため,『自己意識低群』(99名;21.52%)と命名した。第2クラスターは,「私的自己意識」以外,第3クラスターよりも高く,第1クラスターよりも低かったため,『自己意識中群』(237名;51.52%)と命名した。
(2)各自己意識像とアイデンティティ・ステイタスとのχ2検定および自尊感情との一要因分散分析
自己意識の各クラスターとアイデンティティ・ステイタスのχ2検定を行った結果,双方に有意な関連性が示されたため(χ2=50.04,p<.001,df=10,N=460),残差分析を行った(Table.2)。その結果,自己意識高群は,「モラトリアム」,「同一性達成」が多く,「D-M中間地位」が少なかった。自己意識中群は,「D-M中間地位」が多く,「モラトリアム」,「同一性達成」が少なかった。自己意識低群は,「同一性拡散」が多く,「モラトリアム」が少なかった。これらの結果から,1.自己意識高群は,アイデンティティ発達が良好である,2.自己意識低群は,アイデンティティ発達に問題を抱えている,3.自己意識が高まるに従って,ステイタスが移行し,自我が統合されていく(同一性拡散【低群】→D-M中間地位【中群】→モラトリアム・同一性達成【高群】),以上の3点が示唆されたと考える。本研究結果より,青年期において,アイデンティティ形成を促進させる要因に,自己意識の高まりが関与している可能性が示唆された。次に,自己意識の各クラスターを独立変数,自尊感情を従属変数とする一要因分散分析を行った結果,有意であったため(F(2,457)=3.05,p<.05),TukeyのHSD法による多重比較を行った。自己意識高群は,自己意識低群に比べて,自尊感情が低いことが明らかとなった。
自尊感情の低い大学生は,一見すると,不適応状態と判断されるかもしれない。しかし,その背後に自己意識の高さがみられる場合,現実-理想自己の差異を実感するためであり,アイデンティティを追究する姿として認識することも可能である。