[PH064] 幼児における数表記の理解と産出の発達(6)
1対1対応の原理と数字の読み書きの関連
Keywords:表記知識, 数字, 読み書き
【問題】数表記の理解・産出の発達や,それらと数概念の関連については十分に解明されていない。古池・山形(2014)は,数概念が数字の読みに影響を与えるという因果モデルを検証し,1対1対応の原理の指標が数字 1~10の読字数に影響を与えていたと報告している。1つのモノに数詞を1つだけ割り当てるという1対1対応の原理の理解は,異なる数を異なる形態のシンボルで書き表す数字の読み書きの前提となることが理論的にも推測される。本稿では,1対1対応の原理が十分に獲得されていない幼児における数字の読み書きの様相を質的な面から検討し,1対1対応の原理の獲得と数字の読み書きの関連について考察する。
【方法】すべて個人面接調査。調査参加児:3歳児13名(平均3:10),4歳児20名(平均4:10),5歳児20名(平均5:9)の計53名。課題:<数表記課題>(1)数字の読み課題:数字の書かれたカードを1枚ずつランダムに提示し,書かれた数字を声に出して読んでもらった(0,1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,20の計15個)。(2)数字の産出課題:調査者が読み上げる数字を,A3大の画用紙にカラーペンで書いてもらった(1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,0の計12個)。<数概念課題>新版K式発達検査2001より,(3)4つの積木,(4)13の丸(以上1対1対応の原理の指標),(5)数選び(5は本稿では省略)。
【結果】各課題の結果はTable 1に示した。「積木4」「丸10(13)」は,4つの積木(10個・13個の丸)に指をあてて数えることができたときに,課題通過とみなした。表では,3課題のいずれかが不通過であった12名の結果を不通過の3パターンに分けて示した。「数字の読み」は,正しく読まれた数字の総数である。「数字の書き」については, Yamagata(2007)のカテゴリを参考により細分化したカテゴリを設け,各数字に対する反応を分類して,カテゴリごとの総数を示した(「慣用的表示」が正規の数字である)。 1.読みの検討 通過児を含む3~5歳の参加児全体の平均正反応数は,10.36個であった。「積木4」不通過群5名のうち,Eを除く4名は, 0~1個であり全体平均を大きく下回っていた。しかし,「積木4」通過の2群においては,正反応数が0~1個の者は7名中2名(I・K)のみであり,全体平均に近似または上回る者も3名いた(G・H・L)。 2.書きの検討 慣用的表示の産出については,「積木4」不通過群では読字数の多いE以外はなかった。他の2群では7名中4名に見られ(F・G・H・J),いずれも4個以上の数字が読める者であった。次に,擬似数字における「数字」間の弁別性を吟味するため,形態の多様性を検討したところ,「積木4」不通過群でのみ,すべての数字を1種類の形態のみで書く者がいた(A:短線+丸,C:丸)。「数字」間の弁別性が低くなるこの書き方は,他群には見られなかった。最後に,「わからない」という反応については,「丸10」不通過群で見られ(F・G),また,「丸13」不通過群では書き課題の途中から課題継続への抵抗感を示す者がいた(H・J)。4名とも,4個以上の数字を正しく読み,かつ慣用的表示を産出していることから,いくつかの数字が読めるようになることで,数字間の形態の違いに気づき,正しく書けない数字に取り組むことへの抵抗感が生じた可能性もあるだろう。
【考察】以上の検討から,4つ以上のモノと数詞の1対1対応ができることが,数字の読みの可否,および弁別的な形態による書きの程度を規定する可能性が示唆された。また,数字の書きにおける反応については,数字の読字数の影響も見られた。ただし, 1対1対応の原理が未獲得でも,数字の読み書きに長けた幼児(E)の存在も確認された。
(本研究は科研基盤研究 (C)の助成を受けた。)
【方法】すべて個人面接調査。調査参加児:3歳児13名(平均3:10),4歳児20名(平均4:10),5歳児20名(平均5:9)の計53名。課題:<数表記課題>(1)数字の読み課題:数字の書かれたカードを1枚ずつランダムに提示し,書かれた数字を声に出して読んでもらった(0,1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,12,13,20の計15個)。(2)数字の産出課題:調査者が読み上げる数字を,A3大の画用紙にカラーペンで書いてもらった(1,2,3,4,5,6,7,8,9,10,11,0の計12個)。<数概念課題>新版K式発達検査2001より,(3)4つの積木,(4)13の丸(以上1対1対応の原理の指標),(5)数選び(5は本稿では省略)。
【結果】各課題の結果はTable 1に示した。「積木4」「丸10(13)」は,4つの積木(10個・13個の丸)に指をあてて数えることができたときに,課題通過とみなした。表では,3課題のいずれかが不通過であった12名の結果を不通過の3パターンに分けて示した。「数字の読み」は,正しく読まれた数字の総数である。「数字の書き」については, Yamagata(2007)のカテゴリを参考により細分化したカテゴリを設け,各数字に対する反応を分類して,カテゴリごとの総数を示した(「慣用的表示」が正規の数字である)。 1.読みの検討 通過児を含む3~5歳の参加児全体の平均正反応数は,10.36個であった。「積木4」不通過群5名のうち,Eを除く4名は, 0~1個であり全体平均を大きく下回っていた。しかし,「積木4」通過の2群においては,正反応数が0~1個の者は7名中2名(I・K)のみであり,全体平均に近似または上回る者も3名いた(G・H・L)。 2.書きの検討 慣用的表示の産出については,「積木4」不通過群では読字数の多いE以外はなかった。他の2群では7名中4名に見られ(F・G・H・J),いずれも4個以上の数字が読める者であった。次に,擬似数字における「数字」間の弁別性を吟味するため,形態の多様性を検討したところ,「積木4」不通過群でのみ,すべての数字を1種類の形態のみで書く者がいた(A:短線+丸,C:丸)。「数字」間の弁別性が低くなるこの書き方は,他群には見られなかった。最後に,「わからない」という反応については,「丸10」不通過群で見られ(F・G),また,「丸13」不通過群では書き課題の途中から課題継続への抵抗感を示す者がいた(H・J)。4名とも,4個以上の数字を正しく読み,かつ慣用的表示を産出していることから,いくつかの数字が読めるようになることで,数字間の形態の違いに気づき,正しく書けない数字に取り組むことへの抵抗感が生じた可能性もあるだろう。
【考察】以上の検討から,4つ以上のモノと数詞の1対1対応ができることが,数字の読みの可否,および弁別的な形態による書きの程度を規定する可能性が示唆された。また,数字の書きにおける反応については,数字の読字数の影響も見られた。ただし, 1対1対応の原理が未獲得でも,数字の読み書きに長けた幼児(E)の存在も確認された。
(本研究は科研基盤研究 (C)の助成を受けた。)