The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ポスター発表 PH

(501)

Sun. Nov 9, 2014 1:30 PM - 3:30 PM 501 (5階)

[PH096] 発達凸凹支援におけるカウンセラーの役割

高山智1, 山口隼ノ介1 ((株)青山学芸心理)

Keywords:発達, 特別支援, WAIS

問題
筆者らの所属する株式会社青山学芸心理は、日本初のカウンセリングサービスの株式会社である。弊社では、カウンセリングの和語として「安談」という言葉を用い、日本人の文化や風土に合わせた心理相談を提供している。安談の最大の特徴は、相談者が「社会的な折り合いをつける」ことを目標にしている点にある。高山(2011)は、この「社会的折り合い」を「自分の気持ちを感じ取り、自己肯定感を保ちながら、上手に他者との関係や意思疎通を成り立たせて生きていけるようになること」と定義し、安談における実際の相談場面において最も重要視される事項としている。
近年の相談では発達障害にまつわる案件が増えてきている。筆者らは、いわゆる軽度な発達障害を「発達の凸凹」と呼んでいる。日本精神神経学会でも、本年5月28日、「DSM-5病名・用語翻訳ガイドライン」において、「障害」を「症」と呼ぶようにという告知が出た。つまり、区別的・差別的な対応ではなく、凸凹にそった支援が求められるようになった。
そして、支援の前提になるのは、それぞれの特性に対する理解である。これは当事者にはもちろんのこと、凸凹さんを取り巻いている周囲の支援者にとって、必要なものである。しかし、特性を持つ凸凹さんと、そうでない支援者(または、支援者も凸凹を有していることもあり得る)との相互関係に解離が起きやすい事実がある。
目的
本研究では、弊社が凸凹さんそれぞれが持つ特性を理解し、社会的折り合いを支援するための具体的な方略を論じることを目的とする。凸凹さんと接する周囲の支援者と凸凹さんの間の仲介役としての、カウンセラーの役割ついても論じる。パネルおいては、WAISの結果の解釈が、凸凹さん理解に役に立っていることを提示する。
事例紹介
以下、筆者らの臨床事例である。その際、凸凹さんたちそれぞれが有している特性と、筆者らが彼らに行った生活場面における具体的な支援、また周囲の支援者に対してカウンセラーが担った役割について論じる。
ケース①「聴覚優位で認知上の困難がある社会人」
【具体的支援と、カウンセラーの役割】
安談手から、話を聞けないことで注意をしている上司のそばに行って話を聞くことをアドバイスした結果、最初は、そこで聞けばよいと言っていた上司が、「こちらに来なさい」と呼ぶようになった。
・上司宛に、弊社の「発達凸凹の程度と対処法」を所見として提出。さらに、「具体的な職場での工夫と提案」という要望書を弊社の監修で作成した。その結果、「自分で考えろ」とか「言い訳するなという注意」が減った。
ケース②「枠組みが無いと家事ができない家庭人」
【具体的支援と、カウンセラーの役割】
一を聞いて十をしることができないので、配偶者に、わからないときは確認することを受け入れてほしいと言ったら、受け入れてもらえた。
・配偶者に、発達障害のわかりにくさや具体的な対処法を安談で説明した。最初は、相手に暴力的だったものの、本人の努力やしつけによるものではないことを理解して、協力的になった。
ケース③「言語性優位で行動が不安定な小6」
【具体的支援と、カウンセラーの役割】
提出物やかたずけができないことで二次障害と見られる逸脱行動、反社会的行動が見られたが、行動そのものが問題ではなく、素因として持っている凸凹によるという説明に周囲が納得した。
・保護者、担任宛に、WISC-Ⅲのデータに基づいて、言語性優位(動作性とのIQ差40)によって、本人が言葉の上で「できる」と言っていることが実はできないことであることを理解してもらった。
ケース④「優先順位がつけられない新社会人」
【具体的支援と、カウンセラーの役割】
シングルタスクがマルチタスクになる瞬間に、「期限のないタスクが無期限になって」優先順位が狂うことを上司に理解してもらった。
・新入社員であることから会社側に猶予を持って見守ってもらうとともに、「できないことを叱責対象にするのではなく」、凸凹論からの論点に置き換えてもらうことができた。
考察
以上の事例から、保護者や支援者は、凸凹さんの特性によっておこる反応を十分にとらえきれていないことが分かり、その間に仲介するカウンセラーの重要性が明らかになった。凸凹さんの問題は、能力的に人より高い部分を持っているのに相反して、実際の生活場面でできないことがあるために、かえって「どうしてできないのか」と目立ってしまうことにある。しかも、支援者も、特性が多様であることを理解できず、専門書などに頼ることで、まちがった理解をしていることが多いので、心理の専門家であるカウンセラーが仲介者または通訳として入るのは不可欠であると言えよう。
【参考文献】
高山智・佐々木真哉(2011) 「家族樹形図療法を通じて得られる『社会的折り合い』2」日本社会心理学会第52回大会
「DSM-5病名・用語翻訳ガイドライン」日本精神神経学会