The 56th meeting of the Japanese association of educational psychology

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ヒューマン・コミュニティ(HC)創成マインドにもとづく地域との協同実践研究の課題と展望

Sat. Nov 8, 2014 1:30 PM - 3:30 PM 1階メインホール (1階)

[j-sym01] ヒューマン・コミュニティ(HC)創成マインドにもとづく地域との協同実践研究の課題と展望

城仁士1, 岡田修一1, 伊藤篤1 (神戸大学)

Keywords:HC創成マインド, 地域との協同実践研究, 課題と展望

企画趣旨
 人間発達やその形成研究にとって、高度な専門的力量を実際の現場や学際的研究フィールドにおいて、それらに携わる人々と協働しながら発揮していくことは非常に重要なことである。このように他の大学や研究領域の研究者だけでなく非専門家とも協力し合いながら、地域・NPO・企業・行政と協働するために欠かすことのできない重要な資質または能力を「ヒューマン・コミュニティ創成マインド(Human and Community Development Mindset)」と定義する。すなわち神戸大学人間発達環境学研究科・発達科学部は創設以来、人間の発達とそれを支える活動を行っている地域組織、NPO、NGO、企業、行政、学校等の人々と連携しながら、研究・実践を深め、人間らしさにあふれたコミュニティの創成を目指して研究活動を行っている。本研究科・学部で取り組んでいる数多くのプロジェクトのうちタイプの異なる3つのプロジェクト(基幹、サテライト型、地域出張型)を今回取り上げ、教育心理学が貢献できる地域協同実践研究の現状や生じた問題に対する対処及び今後の課題について討議を深めたい。
 1) 基幹プロジェクト:このプロジェクトは人間発達環境学研究科・発達科学部をホームベースにして、そこに近隣のコミュニティ(鶴甲団地)を巻き込んだ研究活動である。
 プロジェクト名:鶴甲いきいきまちづくりプロジェクト〜アクティブエイジングを目指して〜
 2) サテライト型プロジェクト:このプロジェクトは、発達支援インスティテュートで取り組んでいる研究プロジェクトであり、旧灘区役所庁舎跡地内で、大学、行政、地域組織、地域住民が協働的に展開している子育て支援活動である。
 プロジェクト名:のびやかスペースあーち
 3) 地域出張型プロジェクト:このプロジェクトは、本研究科の研究スタッフが他地域(京都府福知山市)に出かけていって、その地域の福祉サービスシステムをケアスタッフと協同で作り上げていく協同実践研究活動である。
 プロジェクト名:健康増進支援プロジェクト「あんしんケアコールセンター24」

地域住民のアクティブ・エイジングの実現を目指したコミュニティ創成研究の試み
岡田修一
 鶴甲いきいきまちづくりプロジェクト概要
 本プロジェクトは、人間発達環境学研究科における多分野の研究者グループが神戸市灘区鶴甲地区の住民・自治会及び神戸市灘区役所と連携し、世代を超えた人々の参画のもと、健康を維持し、かつ社会参加ができる、安全な生活の場としてのコミュニティの創成を目指し、取り組んでいる。
 対象とした鶴甲地区は高齢化率が31%を超えた典型的な都市部型高齢化地域である。プロジェクトの実施にあたり、まず鶴甲地区の全戸を対象にした住民調査を行った。その結果、当該地区の問題点として、高齢者の孤立化、世代間交流の欠如、災害時の安全性に対する不安などが明らかになった。また、多くの住民が地域のなかで教養や学習の場、娯楽の場が少ないという不満を持っているということも明らかになった。
 それらの住民調査の結果をふまえ、アクティブ・エイジングの概念である「健康」「安心・安全」「社会参加」に「多世代共生」を加えた4つの概念を柱とし、本研究科の特性を活かした様々な研究分野に関するタウンミーティング、講演会などを実施してきた。これらのイベントの具体的なテーマ設定にあたっては、自治会や行政各機関と連携を図り、意見交換を行いながらより地域住民の抱える課題や関心に近いテーマを設定するよう留意した。同時に、住民の中で広報ボランティアサポーターを募り、チラシ配布や自治会掲示板へのポスター掲示、参加への声掛けなどをお願いし、現在では住民による広報活動が展開できるようになってきた。
 このような活動の結果として、①回数を重ねるごとに初参加の人が増えてきた、②友人同士で誘い合いながら参加する人が増えてきた、③参加した人の口コミによって参加者の輪が広がってきた、④参加者の中からは、「地域の中に少しまとまりが出来てきた」という声が聞かれるようになった、という4つの効果が表れた。
 しかし、各イベントへの参加者の年齢層には偏りがみられている。特に30~40代の子育て世代の参加が伸びないのが現状であり、この世代の人々が参加できるような仕組みを考えることが大きな課題である。

大学サテライト施設における子育て支援
伊藤 篤
 神戸市との連携のもと、神戸大学人間発達環境学研究科が、その理念である「ヒューマン・コミュニティ創成」に基づき、「子育て支援を契機とした共生のまちづくり」拠点を目指して、2005年9月から地域住民へのサービスを提供しているのがサテライト施設「のびやかスペースあーち」である。
 この拠点事業は、主に0歳から3歳未満の子どものいる家庭を対象とした国事業(第2種社会福祉事業)であり、基本4事業が定められている。本施設でも、これに従って、拠点での交流促進(地域からの受容や地域への所属意識を高めること)や相談対応を通して利用者の孤立や育児不安(孤立感・困難感・負担感・焦燥感)を解消すること、拠点で提供される情報の取捨選択や交流・セミナー等での学びを通して利用者が親として自己成長することを目指している。
 さらに、本施設では、ユニバーサル支援の中にターゲット支援を組み込む(子育て家庭が自らのニーズに応じて選択できるような多様な資源編成を工夫する)ことを通して、あらゆる階層の家庭が多様な学びや交流を展開できるような「切れ目のない支援」の構造化に努めてきた。
 本シンポジウムでは、これまでの協同実践、すなわち、地域の子育て家庭が拠点利用を通して自らをエンパワメントしていくことを支援するために、拠点を地域の多様な支援資源がかかわるプラットフォームにしていく過程(資源の編成過程)で生まれた意義や効果に関する協同実践研究の現状と課題を検討したい。
 今日までに実施した協同実践研究は、開設5年が経過した時点でそれまでの全利用者を対象に実施した調査(評価)研究、拠点で展開された相談内容の分類研究と事例研究、産科施設に助産師を派遣して拠点の早期利用を促すペリネイタル・アウトリーチ・サービスの効果検証研究、拠点利用による育児ストレス亢進予防の効果検証研究、利用開始期のビギナーズ交流会への参加がもたらすエンパワメント効果検証研究、0歳児のパパママセミナーへの参加がもたらす意義に関する研究、次世代育成プログラム(小・中・高校性の赤ちゃんふれあい体験学習)の意義に関する研究である。
 これらの研究の対象は、いずれも多様な支援者(プログラム担当者・施設のスタッフ・相談員・ボランティア)がかかわる支援的な協同実践であるにもかかわらず、研究の主体は大学の教員や院生・研究員、研究の対象が利用者(親や子ども・青年)に限定されており、複雑で重層的な協同実践の内実(何が起きているのか・誰がどう変容しているのか)を十分に明らかにしていない。あらゆる関係者が参画できる研究、日々展開するダイナミックな人々の関係性を描き出す研究などを工夫していくことが今後の大きな課題である。

「あんしんケアコールセンター24」協同実践研究
城 仁士
 あんしんケアコールセンター24の概要
 映像機器を内蔵した端末機(テレビ電話)を利用者の自宅に設置し、端末本体もしくはペンダントいずれかのボタンを押すと、オペレーターと対話でき、状況に応じてホームヘルパーが訪問介護サービスを提供するものである。映像機器を使用することで、双方がお互いの顔を見ながら対話することができるため、安心感が得られるだけでなく、利用者の健康状態や要請内容の判断も容易にできる。このサービスを利用することで、時間帯を問わず、「必要なタイミング」で「必要な量と内容」の介護サービスを提供することができる。
 一日数回の定期訪問を基本とし、それに随時訪問を加えることで利用者が24時間・365日安心して自宅での生活を送ることができることを目標としている。
 新たなシステムで夜間対応も可能になり、食事配送サービスによって栄養バランスの整った食事を毎日とることができるようになる。また、家族の都合などにより、一時的に自宅にいることが困難になった場合は、福祉施設内に新たに建設されたサポートハウスで過ごすことも可能となった。
 これまで個別に事業活動を行っていた2施設(岩戸ホームとサンヒルズ紫豊館)がケア24として協同するため、サービス提供や人員援助において連携が取りやすくなるという変化もみられる。また、地域コミュニティでは、介護支援サポーターを加えより強力な支援体制を実現することが構想されている。
 しかし一方、以下のような問題点を含んでいる。
① 訪問介護員などの配置、勤務体制のあり方。
② 医療と看護、介護との連携のあり方。
③ 栄養バランスの取れた、温かい食事の提供。
④ 夜間対応。
 特に④の夜間対応でのスタッフの夜勤問題は、事業継続上非常に難しい問題をはらんでいる。
 以上のことから、事業発足から現在まで2年間が経過しているが、「あんしんケアコールセンター24」事業は概ね順調に推移しているといえる。
 しかし、本事業は利用者のためにどのようなサービスでも提供できるわけではない。随時通報が頻繁である利用者に対して、どのように対応するのが最も適切なのか、ケースごとにしっかりした対応が望まれる。
 今後は、利用者の生活状況をふまえたケアマネージャーによる最適なケアプラン作成能力の育成が課題となるであろう。