日本教育心理学会第58回総会

講演情報

ポスター発表 PB(65-87)

ポスター発表 PB(65-87)

2016年10月8日(土) 13:00 〜 15:00 市民ギャラリー (1階市民ギャラリー)

[PB76] ダンス・ムーブメントセラピーによる友人関係意識の変化

不登校経験者が多い通信制高校を対象に

向出章子 (奈良女子大学大学院)

キーワード:不登校, 対人関係, ダンス・ムーブメントセラピー

問題と目的
 不登校の原因の一つとして友人関係をめぐる問題がある。文部科学省(2011)は,子どもの身体性や身体感覚が乏しくなっていることが他者との関係づくりに負の影響を及ぼしていることを指摘している。近年,身体性を視座としたダンス・ムーブメントセラピー(以下D/MT)が行われつつある。D/MTとは,身体の動きを通して自己と向き合い他者との身体的なかかわりによって対人関係の変容を目指すものである。
 そこで,本研究では,不登校経験がある生徒にD/MTの授業を行い,身体を通したかかわりのなかで友人関係の意識がどう変化するかを検討する。
方   法
調査対象 不登校・不適応経験がある生徒が多く在籍する通信制A高校1年生4クラス計145名を対象として,D/MTの授業に5回出席をしたうえで有効回答をした30名(男子22名,女子8名)を分析対象とした。
調査時期 2015年9月~11月
調査方法 D/MTの授業を5回実施,活動の流れは以下の通りである。(Table 1)
調査内容 親和動機尺度(杉浦,2000)の下位尺度「親和傾向」「拒否不安」18項目,コミュニケーションスキル尺度ENDCOREs(藤本・大坊,2007)の下位尺度「他者受容・関係調整」8項目の質問紙調査を授業前・授業後に実施した。自己評価「友達とコミュニケーションができたか」を含め全て4件法で回答を求めた。
結果と考察
 D/MTの授業において,友人関係の意識の変化を検討するため,親和動機尺度・コミュニケーションスキル尺度を用い,授業前・授業後の平均の差についてt検定を行った。(Table 2)
 親和動機尺度「親和傾向」では有意差が見られ,授業後の得点の高さが確認できた(t(29)=2.15,p<.05)。しかし,「拒否不安」,コミュニケーションスキル尺度「他者受容・関係調整」については有意な差は見られなかった。自己評価の「友達とコミュニケーションができたか」では,「とてもあてはまる」が40%,「だいたいあてはまる」が43%,「あまりあてはまらない」が17%,「あてはまらない」が0%であり,肯定的回答が8割を超えた。
 これらの結果から,D/MTの他者と身体的にかかわる授業を通して親和傾向が肯定的に変化することが示唆された。友達と親密になりたい,人と深く知り合いたい等の親和動機が奮起されたと思われる。しかし,他の尺度・項目については有意な差が見られなかった。これは,対象者の多くが不登校の経験のある生徒であるため対人関係に不安を抱き,5回の授業だけでは意識が変容するまでには至らなかったと考える。また,自己評価の「友達とコミュニケーションができたか」の肯定的回答が8割を超えたことに反して,コミュニケーションスキルの尺度が有意にならなかった理由として,友達とコミュニケーションはできたが,「他者受容・関係調整」などスキルの向上までには至らなかったと考える。