The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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自主企画シンポジウム 5

ポジティブ生徒指導の動向(3)

-我が国におけるPBISの導入に向けて

Sat. Oct 7, 2017 10:00 AM - 12:00 PM 会議室232 (2号館3階)

企画・話題提供:宇田光(南山大学)
企画:西口利文(大阪産業大学)
司会・話題提供:福井龍太#(茨城県立医療大学)
話題提供:市川哲(大阪産業大学)
話題提供:松山康成(寝屋川市立啓明小学校)
話題提供:沖原総太(寝屋川市立啓明小学校)
指定討論:有門秀記(一般財団法人 生徒指導士認定協会)

10:00 AM - 12:00 PM

[JA05] ポジティブ生徒指導の動向(3)

-我が国におけるPBISの導入に向けて

宇田光1, 西口利文2, 福井龍太#3, 市川哲4, 松山康成5, 沖原総太6, 有門秀記7 (1.南山大学, 2.大阪産業大学, 3.茨城県立医療大学, 4.大阪産業大学, 5.寝屋川市立啓明小学校, 6.寝屋川市立啓明小学校, 7.一般財団法人 生徒指導士認定協会)

Keywords:PBIS, 生徒指導, ポジティブ心理学

 今回は,米国において急速に普及しているPBIS(ポジティブな行動の介入とサポート=ポジティブ生徒指導)を取り上げる。PBISの理論と実践の展開,また日本においても始まっている実践の試みをみていく。日本の生徒指導は,米国とはまた異なる背景のもとにおこなわれている。PBISを日本の学校において導入する場合には,どのような形が効果的なのか,考えていきたい。


解決焦点化アプローチとポジティブ生徒指導
宇田 光
 学校で生じる児童生徒の「問題行動を減らす」。これは当然の目標に見える。しかし,問題を減らそうと考えた時点で,私たちは既にある呪縛にとらわれてしまっている。ネガティブな「問題行動」に注目してしまい,ポジティブな行動を無視しがちになるのである。問題行動を減らそうとしていると,悪い所ばかりが見えてきて圧倒されてしまう。これに対して,ポジティブな行動を児童生徒に指導したり,ポジティブな行動をとらえて強化する予防的な方法が出てきた。これを全校的に行おうというのがPBISである。私達はこれを,ポジティブ生徒指導と呼んでいる。
 問題そのものに目を向ける代わりに,うまく行っている所に着目する発想と技法は,ブリーフセラピーにおいて既に確立している。解決焦点化アプローチ(SFA)がそれである。
 SFAは1980年代に米国のキム・バーグらが開発,実践したものである(デュラン,1998)。クライエントの持ち込んでくる問題そのものではなく,その陰にある問題の例外やリソースに着目する。「悪いところを治す」セラピーとは一線を画するアプローチである。とりわけ学校カウンセリングにおいては,有望な方法と考えられる。ここでは,PBISの土台としてのSFAを,問題志向との対比であらためて考えてみたい。

参考文献
デュラン,M.著 市川千秋・宇田 光(編訳)(1998) 効果的な学校カウンセリング-- ブリーフセラピーによるアプローチ 二瓶社 
マーフィーとダンカン (1999) 学校で役立つブリーフセラピー 金剛出版 
市川千秋(監修)(2009) 学校心理学入門シリーズ3 ー臨床生徒指導 理論編 ナカニシヤ出版 

米国ウィスコンシン州の1小学校におけるPBISの実践
市川 哲
 PBIS(Positive Behavioral Interventions and Supports:ポジティブな行動支援と介入:ポジティブ生徒指導)とは,子供の適切な行動の増加を目的とし,スクールワイド,クラスワイドに行う「ポジティブで予防的」な生徒指導システムである(池田, 2014)。また,予防的支援の第1層,第1層で改善が見られなかった子供に対する第2層,第2層で改善が見られなかった子供に対する第3層の階層的支援からなる(Sugai, 2013)。米国から始まったPBISの実践は,近年我が国にも紹介されつつあり(市川・宇田,2016),我が国の学校現場における実践が報告されてきている(池島・松山,2015)。
 発表者は2017年1月に米国ウィスコンシン州の小学校へ視察を行った。視察した小学校は,PBIS導入5年目であり,PBISのプログラムを忠実に実践していることからウィスコンシン州よりPBIS実践校として認証されている。本発表では,視察した米国の1小学校におけるPBISの第1~3層の各層ごとでの取り組みを紹介する。第1層では,子供たちに求められる場面別期待行動表の提示と,期待行動のカードによる個人レベル,クラスレベル,学校レベルでの強化,Morning Meeting,問題行動への対処としてThink sheet(反省シート),Office Dicipline Refferal(規律違反委託書)等の取り組みを発表する。第2層では,第1層で改善が見られなかった子供へのCheck-in /Check-Out(CICO),Social Academic Instructional Groups(SAIG),Individualized CICO(個別CICO)を報告する。そして第3層ではMentoringの取り組みを紹介する。

参考資料
Springer,Stormont, Lewis, Beckner, Johnson (2008) Implementing Positive Behavior Support Systems
in Early Childhood and Elementary Settings, Corwin. (市川千秋・宇田光(監訳) 2016 『いじめ,学級崩壊を激減させるポジティブ生徒指導(PBS)ガイドブック――期待行動を引き出すユニバーサルな支援』明石書店)
池島徳大・松山康成(2016)学級における3つの多層支援の取り組みとその効果-PBIS の導入と
その検討-奈良教育大学教職大学院研究紀要「学校教育実践研究」8,1-9
池田 実(2014)「学校全体の行動教育(肯定的な介入と支援)」生徒指導士認定協会応用講座
Sugai, (2013) すべての児童・生徒のためのポジティブな行動的介入と支援 日本教育心理学会第55回総会講演


小学校におけるPBISの実践と展開
松山康成・沖原総太
 石隈(1999)は学校心理学の枠組みから,3段階の心理教育的援助サービスを提唱している。また文部科学省(2010)も,集団指導と個別指導を進める指導原理として,生徒指導事象を第1次から第3次的支援に分けて指導する必要性を示している。このようにわが国において多層支援の重要性は指摘されてきている。アメリカではこの多層支援はMTSS(Multi-Tier System of Supports)と呼ばれ,子どもの学力,行動などの様々な側面を多層支援でサポートしようとする取り組みが,近年広がっている。その中でも行動面の多層支援として,PBISが着目されている。松山は,アメリカで取り組まれている PBIS の視察を2013年と2014年に2度行い(枝廣・松山, 2015),アメリカの学級で取り組まれている PBIS の実際をみた。そこで,アメリカでの取り組みを参考に,わが国の学校で取り組むことができるPBIS を開発し,実践を行った。
 実際には, PBISを学校全体で取り組むことを目指し,昨年度にまずは2つの学年でPBISの実践を行った。小学5年生に対して適応行動の増加を目指した取り組みとしてトークンエコノミーシステムを実施した。トークンは全教職員が行った。また,小学4年生1学級に対して,授業妨害行動の減少を目指した取り組みとして,集団随伴性を用いた取り組みを実施した。このような取り組みによって,小学5年生では授業準備行動の増加,対立問題の減少,そして小学4年生では授業における授業妨害行動(私語)の低減が見られた。これらの結果を通して,全校での校内研修で実践を共有し,今年度は学校全体でのPBISの取り組みを計画している。本発表では4年生,5年生の実践の概要と,校内でのPBISの導入の展開について発表することとする。
参考文献
枝廣和憲・松山康成(2015)学校全体における積極的行動介入および支援(SWPBIS)の動向と実際 ―イリノイ州District15公立小学校における取り組みを中心に― 岡山大学学生支援センター年報 (8) 27-37
枝廣和憲・松山康成(2015)学校全体における積極的行動介入および支援の動向と実際 ―イリノイ州 District15 公立中学校における取り組みを中心に― 岡山大学教師教育開発センター紀要 5(1) 35-43

問題行動報告書(ODR)にみる問題行動の内容について
福井龍太
 ポジティブ生徒指導(PBIS)において多層的な介入支援を行うにあたっては,生徒の行動についてのデータを収集することが必要である(Sailorほか(2009))。このデータ収集のために,ODR(Office Discipline Referral; 問題行動報告書)と呼ばれる文書が用いられる(Irvinほか(2006))。生徒の問題行動をODRに記入し,問題行動の内容や回数を記録することで,その生徒に対する介入支援の必要性や内容について検討し,また介入支援の効果が確認される(Sugaiほか(2000), Clonanほか(2007))。ODRは生徒の問題行動の指標としておおよそ妥当であり,学校に焦点を当てた研究やデータに基づく意思決定のための効果的な資料と考えられる(Pasほか(2011))。ODRに記載される問題行動は,重大な(major)問題行動と軽微な(minor)問題行動に分類される(Toddほか(2010))。発表者の予備調査によれば,ODR文書の形式は学校ごとに異なっており,これはそれぞれの学校が抱える生徒の問題行動の質を反映していると思われる。そこで本発表では,ウェブ経由で収集したODRについて検討することによって,アメリカの学校において介入支援の対象とされる問題行動の内容について報告する。

引用文献
Clonan, et al. (2007) “Use of Office Discipline Referrals in School-Wide Decision Making: A Practical Example,” Psychology in the Schools, 44, 19-27.
Irvin, et al. (2006) “Using office discipline referral data for decision making about student behavior in elementary and middle schools: An empirical evaluation of validity,” Journal of Positive Behavior Interventions, 8, 10-23.
Pas, et al. (2011) “Examining the Validity of Office Discipline Referrals as an Indicator of Student Behavior Problems,” Psychology in the Schools, 48
Sailor, et al. (2009) Handbook of Positive Behavior Support, Springer.
Sugai, et al. (2000) “Preventing school violence: The use of office discipline referrals to assess and monitor school-wide discipline interventions,” Journal of Emotional and Behavioral Disorders, 8, 94-101.
Todd, et al. (2010) Referral form definitions. School-wide Information System v4.3., University of Oregon, Eugene, Oregon.