The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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自主企画シンポジウム 5

児童・青年の発達とメンタルヘルスに関する大規模縦断研究

いじめ,性別違和感,発達障害特性,インターネット依存の観点から

Sun. Oct 8, 2017 10:00 AM - 12:00 PM 会議室232 (2号館3階)

企画・話題提供:伊藤大幸(浜松医科大学)
司会・話題提供:村山恭朗(神戸学院大学)
話題提供:浜田恵#(名古屋学芸大学)
話題提供:足立匡基#(弘前大学)
指定討論:村上隆#(中京大学)
指定討論:山根隆宏(神戸大学大学院)

10:00 AM - 12:00 PM

[JD05] 児童・青年の発達とメンタルヘルスに関する大規模縦断研究

いじめ,性別違和感,発達障害特性,インターネット依存の観点から

伊藤大幸1, 村山恭朗2, 浜田恵#3, 足立匡基#4, 村上隆#5, 山根隆宏6 (1.浜松医科大学, 2.神戸学院大学, 3.名古屋学芸大学, 4.弘前大学, 5.中京大学, 6.神戸大学大学院)

Keywords:コホート研究, 小中学生, 精神的健康

 児童・青年期は,抑うつ,不登校,自傷行為,攻撃性,非行,いじめ加害など,メンタルヘルスに関わる多様な心理社会的問題が顕在化・深刻化する時期であり,この時期の心理社会的適応の悪化は成人期以降の適応をも強く予測する。そのため,児童・青年期のメンタルヘルスの問題の発生機序を明らかにし,その予防・介入の方策を見出すことは重要な社会的課題である。一般に,メンタルヘルスの問題には,個人が生来的に有している発達障害特性や気質などの個人要因と,個人を取り巻く家庭,友人,学校などの環境要因の間の複雑な相互作用が関与していることが指摘されている。こうした複雑な因果的メカニズムの検証に際して,最も有効な手立てを提供する研究手法の一つとしてコホート研究(縦断研究)がある。コホート研究とは,特定の大規模集団(コホート)を追跡的に調査し,心理学的・医学的問題の発生メカニズムを検証する手法である。児童青年のメンタルヘルスの問題とそのリスク要因や保護要因に関して,欧米では多くの縦断コホート研究が行われ,様々な知見が蓄積されてきた。しかし国内では,児童・青年期のメンタルヘルスを主たる研究対象とし,そのメカニズムを体系的に検証した縦断コホート研究はほとんど行われておらず,体系的な知見は得られていない。
 浜松医科大学子どものこころの発達研究センターでは2007年から,弘前大学子どものこころの発達研究センターでは2014年から,保健センター,保育所・幼稚園,小・中学校などで,それぞれ1万人以上の子どもを対象とした大規模な縦断コホート調査を継続実施してきた。本シンポジウムでは,これらの調査データをもとに,児童青年のメンタルヘルスを規定するメカニズムについて,(1)いじめ加害・被害,(2)性別違和感(性同一性障害),(3)発達障害特性,(4)インターネット依存という4つの観点から検討した中間結果を報告する。また,心理計量学を専門とする中京大学の村上隆先生と臨床心理学を専門とする神戸大学の山根隆宏先生を指定討論者にお迎えし,研究の方法論的問題,研究の結果から得られる示唆,今後の課題などについて議論を深めたい。

いじめ被害と加害の継時的関連の検証
-抑うつ・攻撃性を加えた同時効果モデル-
村山恭朗(神戸学院大学)
 いじめは小中学校における問題の一つである。国内調査では,児童生徒の10%前後がいじめに関与することが示されている(村山他,2015)。いじめは1人もしくは複数の弱者に対して意図的かつ反復的に行われる攻撃行動(Olweus, 2002)と定義され,一見するといじめの加害者と被害者は明確に区別されると思われる。しかしながら,これは小中学校を取りまく現状とは異なる。国内調査(国立教育政策研究所,2013)では,いじめ被害や加害は特定の児童生徒に認められるものではなく,いじめ被害/加害の児童生徒は入れ替わることが指摘されている。このことから,いじめに関わる児童生徒の多くはいじめ被害と加害の双方を経験すると推測される。実際,一部の研究では,いじめ被害を経験した児童・生徒がその後に加害者側に転じるリスクが示唆されている(Barker et al., 2008)。このことから,いじめの遷延化の背後には,いじめ被害と加害の連鎖があると思われる。しかしながら,いじめ被害と加害の継時的な関連に関する知見が少なく,いじめの連鎖のプロセスは未だ明らかではない。本話題提供では,いじめに関連する主要な変数であるメンタルヘルス問題(抑うつと攻撃性)を分析モデルに加え,一般児童生徒から得た4年分の縦断データに基づいたいじめ被害と加害の継時的な関連について報告する。


性別違和感が友人関係困難および抑うつに及ぼす効果の縦断的検討
浜田恵(名古屋学芸大学)
 近年,自分の身体的性別と性自認とのずれの感覚(性別違和感)と関連する問題については,成人の外科的治療のみならず,児童・思春期における対応が求められている。性別違和感を示す青年/成人を対象とした調査では,周囲からの拒絶的対応の経験頻度が性別違和感とwell-beingの関連を媒介すること(Baams et al., 2013)が報告されていることから,性別違和感は対人関係困難を経てメンタルヘルスに負の影響を与えることが推測される。一方で性別違和感には,中核群として幼少期から強い違和感が継続し身体治療を求める者もいるが,子どもの頃の性別違和感は,成長につれて6割が消失するとする先行研究もある(Wallien et al., 2008; Sttensma et al., 2013)。これには,同一性が発達途上であることに加え,性指向が異性愛でないこと(Wallien et al., 2008),発達障害に代表されるような対人関係困難からの一時的な性自認の不安定さ(de Vries et al., 2010)などが背景に推測できる。ただ,先行研究は臨床群が対象であり,一般的な傾向として性別違和感がどのような変遷やメンタルヘルスとの関連をたどるのかは明らかになっていない。本話題提供では,一般群(小4〜中3)における性別違和感の変化および抑うつへの効果を3年間のデータを使用して検討した結果を報告する。

就学前の発達障害特性による児童・青年期の心理社会的不適応の発達的軌跡の予測
伊藤大幸(浜松医科大学)
 発達障害は,脳の発達上の問題に起因する障害の総称であり,不注意や多動・衝動性を主症状とする注意欠如多動性障害(ADHD),社会的コミュニケーションの困難やこだわりの強さを主症状とする自閉症スペクトラム障害(ASD),微細運動や粗大運動における協調動作の困難を主症状とする発達性協調運動障害(DCD)などが含まれる。これまで多くの研究が発達障害と心理社会的不適応の関連を検証し,ADHDは主に学業不振や外在化問題(怒り,反抗,攻撃,非行など),ASDは主に友人関係での孤立や内在化問題(不安,抑うつ,自傷行為,引きこもりなど),DCDは主に学業不振や友人関係問題のリスクを高めることを示している(e.g., Barkley et al., 2006; Maiano et al., 2016; Poulsen et al., 2008)。
 しかし,先行研究ではいくつかの重要な点について検証がなされていない。 第一に,先行研究の大部分は,各障害の診断の有無による差異を検証するカテゴリカルなアプローチを取っているため,それぞれの障害を構成する複数の中核症状のうち,いずれの症状が心理社会的不適応をもたらすのかについて十分な知見がない。第二に,先行研究では,特定の単一時点での不適応状態について検討されており,発達障害特性が不適応状態の発達的軌跡にどのような影響をもたらすか(例えば,定型児との差は児童・青年期を通して,縮小するのか,安定的なのか,拡大するのか)についてはわかっていない。第三に,この問題に関する国内での縦断研究はほとんど例がない。
 こうした問題を解決するため,本研究では就学前に評価された各障害の個々の中核症状(発達障害特性)が,児童・青年期の心理社会的不適応の発達的軌跡をどのように予測するかについて,10年間の縦断データを用いて検討した。

児童思春期のインターネット依存傾向の
実態と保護・危険因子
足立匡基(弘前大学)
 児童思春期におけるインターネット利用人口の劇的な増加が報告され始めたのは,20年近く前であり(Kandell, 1998),使用年齢の低年齢化に伴い,依存の問題が取りざたされるようになった。インターネット依存について,とりわけ高い有病率が示されているのは,アジアの国々であり,心身への深刻な影響(Duerkee et al., 2016; Kawabe et al., 2016)から,近年では,インターネット依存に対する有病率の推定,関連する保護因子や危険因子の検討などが盛んに行われるようになってきた。このような中,国外の知見においては,ソーシャルサポートの低さ,社会的孤立(Ko et al., 2009; Whang et al., 2003),養育スタイルを含む家族機能の問題(Chen et al., 2015),発達特性(Yoo et al.,2004)などとの関連が指摘されているが,一方で国内での知見は少ない。以上の現状を踏まえ,児童思春期におけるインターネット依存傾向を持つ者の割合,年齢による推移,保護・危険因子について精査することを目的に調査を行った。