The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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自主企画シンポジウム 4

児童生徒のインターネット上でのいじめやトラブルをどう理解し,どう介入するか

Sun. Oct 8, 2017 4:00 PM - 6:00 PM 会議室231 (2号館3階)

企画・話題提供:西野泰代(広島修道大学)
企画・司会・話題提供:原田恵理子(東京情報大学)
企画・話題提供:若本純子(佐賀大学)
指定討論:渡辺弥生(法政大学)

4:00 PM - 6:00 PM

[JF04] 児童生徒のインターネット上でのいじめやトラブルをどう理解し,どう介入するか

西野泰代1, 若本純子2, 原田恵理子3, 渡辺弥生4 (1.広島修道大学, 2.佐賀大学, 3.東京情報大学, 4.法政大学)

Keywords:ネットいじめ, 対人関係, 予防教育

企画の趣旨

 平成29年2月に公表された文部科学省の調査結果では,国公私立の小学校・中学校・高校・特別支援学校におけるいじめのうち「パソコンや携帯電話などで誹謗中傷や嫌なことをされる」の件数は9,187件で,年々その件数が増加していることが報告された。その内訳は,小学校が2,075件(1.4%),中学校が4,644件(7.8%),高校が2,365件(18.7%),特別支援学校103件(8.1%)で,特に,高校では「冷やかしやからかい,悪口や脅し文句,嫌なことを言われる」に次いで件数が多いことが示された(文部科学省,2017)。
 また近年では,中学生・高校生の携帯電話やスマートフォンの所持率が高くなり,LINEなどのSNSはコミュニケーションツールの一つとして生徒の日常生活に浸透している。たとえば高校生の圧倒的多数は,友人や親しい人とのコミュニケーションのために頻用している(若本,2014)。一方,中学生や高校生のスマートフォン使用の増加とともに,ネット上のいじめやトラブルも増加し,学校教育現場では生徒のSNSをめぐるいじめやトラブルへの対応に追われている状況がある。
 文部科学省(2013)は,このような状況に対して,いじめ防止対策推進法の中で「心理的又は物理的な影響を与える行為の中にインターネットを通じて行われるものを含む」とし,具体的な対処内容を明示し,学校教育全体を通じて,対応することを求めている。
そうした状況の中,児童生徒間でのインターネット上でのいじめやトラブルを未然に防ぐために,各自治体や学校現場では,講演会や道徳の授業等で様々な対応や取り組みが行われるようになった。
 しかしながら,それらは十分な基礎研究に基づいているとは言い難い状況にあり,エビデンスを伴う予防教育プログラムを実施し,客観的指標を用いて効果測定までを行っている実践も少ない。効果的な教育実践をするためには,研究によって明らかとなった知見に基づくことが重要である。
 そこで今回のシンポジウムでは,各自が行ってきた児童生徒のインターネット上でのいじめやトラブル,および予防的介入に関する研究や実践を報告し,児童生徒のインターネット上でのいじめやトラブルについて多角的に検討することを目的とする。
児童生徒のソーシャルメディア・コミュニ ケーションとトラブル ―現状と背景―
若本純子(佐賀大学)

 昨今,わが国の児童生徒に,スマートフォンを用いたソーシャルメディア・コミュニケーション(代表的なものとして,LINE,ツイッター,フェイスブック等)が急速に浸透し,それと相まって,ソーシャルメディア・コミュニケーションに付随するトラブルも頻発している。
 学校内でのスマートフォンの使用禁止,フィルタリング,使用時間の管理・制限等,さまざまな手立てをとり,情報モラル教育によって情報機器を使用する際のマナーやリスク対策を身につけさせることも重要であろう。
 しかし,ソーシャルメディアを介したコミュニケーションがいかなる特徴をもつのか,児童生徒の視座を考慮したものでなければ,本質的な対策とはなり得ないであろう。すでに(というより,とっくに)ソーシャルメディア・コミュニケーションは児童生徒の日常であり,用途や対象に応じたアプリの使い分けも進んでいる。その中で「依存」という状態を示す児童生徒も登場しているが,海外の状況とはその性質を異にする。それは,ソーシャルメディア・コミュニケーションを開始する思春期以降の児童生徒の友人関係の様相と密接に関連していると考えられるが,それらを包括的に議論する機会はいまだ乏しいように見受けられる。
 そこで,本発表では,著者らが収集したソーシャルメディア・コミュニケーションに関するデータと国内外の先行研究を基に,現状とその背景を考察する。


「ネットいじめ」の特徴-従来のいじめとの比較から見えてくるもの
西野泰代(広島修道大学)

 スマートフォンが急速に普及する中,若者たちが,電車やバスの中で,あるいは,歩きながらでも絶えずスマートフォンを操作する姿をしばしば見かける。内閣府による調査 (2017) では,小学生27.0%,中学生51.7%,高校生94.8%がスマートフォンを利用しており,中高生では1日の中でスマートフォンの平均利用時間が2時間を超え,また,スマートフォン利用の目的として「コミュニケーション」が最も多く挙げられたことが報告された。また,総務省情報通信政策研究所(2014)が高校生を対象として実施したスマートフォンとの接し方に関する調査では,スマートフォンユーザーの42.6%が「ひまさえあれば,スマートフォンでネットを利用している」と回答し,その目的として最も多く挙げられたのが,ソーシャルメディアの利用であった。そして,ソーシャルメディアを使う理由のうち「友だちや知り合いとコミュニケーションをとるため」が71.8%と最も高い割合を示した。
 そのような状況の中,ネット機器を用いた「いじめ」として出現した「ネットいじめ(cyber bullying)」は,「いつでも」「どこでも」「だれにでも」起こりうる現象となり,ますます大人たちからその容態が見えにくくなってきている。こうしたことから,ネットいじめの問題は子どもの健全な発達を支援する上で重要な課題であり,問題に対する有効な対応や予防の策を検討することは非常に意義のあることであろう。
 ネットいじめと従来のいじめ(traditional bullying)との間には,いくつかの共通点や相違点のあることが世界中で検証されつつあるが,未だ不透明な部分も多い。そこで,本シンポジウムでは「従来のいじめ」と比較しながら,実証データを基に,日本の文化と社会の中で起きている「ネットいじめ」に顕著にみられる特徴について明らかにすることを試みたい。また,ネットいじめが起きる背景を明らかにするために,個人と環境との相互作用の中で見えてくる「仲間関係を構築し維持することの難しさ」についても併せて考察したい。
 なお,今回の報告は,日本学術振興会科学研究費 基盤研究(C)[課題番号:26380913]により実施された調査内容を含む。


高等学校を対象とした3段階の援助で介入したネット上のトラブルに対する予防教育
-道徳の授業で実施したSSTによる効果-
原田恵理子(東京情報大学)
                  
 生徒のコミュニケーション能力を身に付けるため,高等学校への対人関係の支援の方法の一つとして,ソーシャルスキルトレーニング(Social skills training,以下SST)が導入され,現在では学校教育現場に定着しつつある。そのコミュニケーション能力の育成について考える時,情報モラル教育の視点も重要になる。情報社会に生きる児童生徒はコミュニケーションの一つとして用いているLINEといったSNS等のソーシャルメディアにも注目する必要がある。つまりは,コミュニケーションに関する教育をするとき,対面上とネット上のどちらも大切にし,同時に教育することが重要になってくるのである(文部科学省,2009;原田,2014)。このように,ネット上と対面上のコミュニケーション能力のどちらをも身に付けることに着目した高校生を対象とするSSTに原田(2015),本田(2016)がある。
 SSTを予防教育としてみたとき,これらの実践研究だけでなく,全ての校種においてSSTは行われてきている。これまでの小学校・中学校・高等学校におけるSSTの実践研究においては,スクールワイド,学年,学級で実施されてきた。それにもかかわらず,それらの実践はひとくくりで効果が実証されてきている。そのため,スクールワイド,学年,学級,個別といったようにそれぞれに対する介入の効果が検証されているとは言い難い。
 このようなことから,予防教育として実施するSSTを,「3段階の援助サービス」(全生徒を対象とする1次的援助サービス,一部の生徒を対象とする2次的援助サービス,個別に支援を必要とする生徒を対象とする3次的援助サービス)の考えに基づき(石隈,1999),学校教育で介入する必要があるのではないだろうかと考える。
 そこで,本発表では,高校生を対象に道徳の授業の時間に実施したネット上と対面上のコミュニケーションのどちらも取り入れたネットいじめの予防を目的としたSSTのプログラムの概要を説明するとともに,その結果と課題も報告する。特に,学年・学級・個人による三段階で介入する予防教育としてのSSTが,どのような影響をもたらしているのかについて報告する。また,担任教師によっては,発問や教材を工夫する等の授業展開もあるため,担任教師のSSTの経験の有無や指導案の工夫にも着目しながら,SSTの3段階で介入する際の知見に関する考察を深めたいと考えている。