4:00 PM - 6:00 PM
[JF06] 大学におけるネットいじめの様相と対策
Keywords:大学, ネットいじめ, 様相・対策
企画主旨
近年,携帯電話やスマートフォンなどの携帯型電子通信機器は急速な発展と普及を遂げ,インターネット(以下,ネット)の世界はかつてないほど身近なものとなった。そこでは個人の現実社会での属性による制約も少なく,誰もが気軽に情報を共有・交換し,自由なコミュニケーションを享受できているように見える。ところがその反面,情報の真偽や利用方法,犯罪レベルの判断等を誤れば,ネット上で他者を誹謗中傷するなどのネットいじめ,LINEやTwitterなどのソーシャルネットワークサービス(SNS)上に自身が関与した公共の場での問題行動を撮影した画像や動画を投稿し,不特定多数の閲覧者から非難や暴言を浴びるという炎上投稿,さらにはリベンジポルノなどの性犯罪や暴力犯罪への巻き込まれなど,様々な問題行動に関与してしまうリスクと隣り合わせでもある。
これまで主に中高生までを想定し,学校や教育委員会による情報モラルやメディアリテラシー向上等の指導・教育の実施,警察によるサイバーパトロールなど防犯体制の強化,携帯電話事業者などによる未成年者へのフィルタリングサービス提供等が行われて一定の成果をあげてきたが,大学生のネットいじめを含むネット問題については,あまり注目されてこなかった。しかしながら,2013年頃から大学生が関与した炎上投稿や,SNS上で他者とつながっていることが精神的疲弊をもたらすSNS疲れ問題等がしばしばメディアに取り上げられている。また最近では,自身の性的志向性を友人にSNS上で暴露された大学生が自死するという痛ましい事件も起こっており,LINEという手軽な手段によって行われてしまったアウティングが深刻な結末を迎えてしまったという意味で,ネット問題に関する一事例として捉えられる。
本シンポジウムでは,特に大学生のネットいじめに焦点を当て,関与の様相と関連要因を検討するとともに,大学における先駆的なネットいじめ予防・対策実践を紹介する。そのうえで,大学におけるネットいじめ問題への今後の対応のあり方について,検討する。
大学におけるネットいじめの様相
-大学生の経験と認識-
金綱知征
大学生のネットの利用実態について,大学生になると勉強や課題に関する情報収集や,SNS等を用いた友人とのコミュニケーションなどでネットを利用する時間がそれまでよりも増加する傾向にあることが報告されている(岡本・三宅他, 2014)。また大学生のおよそ2割がネット利用中に何らかのトラブルを経験しており,なかでもネット上での誹謗中傷など対人トラブルが顕著であることが報告されている(岡本・三宅他, 2014)。ところが,大学生を対象としたネットいじめに関する報告はあまり多くない。
そこで本話題提供では,大学生600名を対象に実施した,「ネット掲示板・SNS上での誹謗中傷および個人情報暴露」「嫌がらせメールの受信」「なりすましによる偽情報流布」「望まない動画像の拡散」という4つのネットいじめ被害に関する経験と認識をたずねた調査結果について報告する。ネットいじめについては,昨今,従来型いじめとの重複性や順次性の問題が議論されているが,本調査においても,いずれの被害についても,ネット上の人間関係ではなく,現実世界の身近な人間関係が反映されたものであると認識されていることが示された。また自らが何らかの被害を経験している者や身近な人間の被害を見聞した経験をもつ者は,そうした経験をもたない者に比べて将来の被害に対する危機意識や予防意識が高いことが示された。
これらの結果を踏まえ,本話題提供ではさらに,ネット上の逸脱行為を促進させ,また被害への予防意識を低下させる要因として考えられているネット上の匿名性に関する信念が,ネットいじめ被・加害に及ぼす影響について検討した結果についても報告し,今後の予防・対応のあり方について検討したい。
ネットいじめ被害時の遮断的対処の逆説的影響
-ネットいじめが起きたとき,我々はどう対処すべきなのか?-
藤 桂
ネットいじめがもたらす影響のネガティビティは,様々な研究において示唆されてきた。学校の中で生じる従来型のいじめと同様,ネガティブ感情を引き起こす(Ybara & Mitchell, 2004;Wolak, Mitchell, & Finkelhor,2006;三島・本庄,2015)のみならず,長期に渡る心理的問題をもたらすことも示されてきている(鈴木・坂元・熊崎・桂,2013;Cole, Zelkowitz, Nick, Martin, Roeder, Sinclair-McBride, & Spinelli,2016)。それゆえ,ネットいじめが発生した際には,その影響を可能な限り低減することが重要であり,何らかの対処を即座に行っていくことが課題となる。しかし,具体的にはどのような対処が有効なのであろうか。
これを踏まえ本話題提供では,ネットいじめ被害経験のある者を対象に実施した調査結果について紹介する。特に,多くのケースにおいて行われる「ネットやパソコン・携帯機器を全く見ないようにする」「被害を受けた自分のサイトをすぐに閉鎖する」「メールアドレスを変更する」などの遮断的対処が,その後のネガティブ感情の増大といった短期的影響のみならず,大学入学以降の対人的態度の消極化といった長期的影響にも結びつくことを示した分析結果について報告する。
この結果に関連づけながら,本話題提供ではさらに,ネットいじめの被害経験者自身が有効であったと考える対処方法がどのようなものであるかについて分析した結果も紹介する。そして,これらの分析結果を踏まえて,今後のネットいじめへの対処のあり方について「何をすべきで,何をすべきでないか」「何が求められ,何が求められていないか」という観点から新たな方向性を提示しつつ,大学におけるネット問題対策のあり方についても議論を深めていく予定である。
大学におけるネットいじめ対策
-学生相談やピアサポートを用いた実際の予防・対策実践-
金山健一
大学では,一見ネットいじめは目立たないが,それはまだ大学がその問題を的確にキャッチできていない可能性が高い。では,大学ではどのようにネットいじめを把握し対応しているのか,A大学の包括的学生支援を紹介する。
1次支援では居場所づくりと予防的な対応を実施する。UPI(University Personality Inventory)を全学で実施し,心に問題を抱える学生,ネット問題に直面している学生を早期に発見し対応していく。UPIの結果から,必要に応じて個別の教育支援計画を策定し支援を展開する,また,初年次教育で情報モラル教育「ケータイと法律講座」「サイバー警察講座」を実施し,予防的な取り組みを実施する。
2次支援では,チーム支援とピアサポートを実施する。全国の大学ピアサポートの実施率(日本学生支援機構, 2017)では,大学全体では49.3%,国立大学83.5%,公立大学34.9%,私立大学46.4%と急増している。ピアサポート参加者には,一般学生の他に,精神的課題がある学生,ネットいじめで傷ついている学生などの要支援学生がいるが,両者のピアサポート研修・活動による効果には差がないことが確認できた(金山,2014)。また,要支援学生への具体的な対応方法(金山,2015)についても報告する。
3次支援では,医療機関・警察との連携を図る。ネットいじめなどの問題に直面している学生は,心的ストレスで精神疾患になる場合もあり医療機関との連携も必要である。また,ネットでの誹謗中傷など,警察での対応が必要な場合もある。
大学におけるネットいじめ対策は,スクリーニング・テストを活用し,予防教育,ピアサポートを活用した包括的学生支援が必要であるといえるが,抱える課題や問題を議論したい。
【本シンポジウムは, 科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金 基盤研究(C)「インターネット上における仮名や匿名の自己呈示とネットでの問題行動との関連」(課題番号16K04788・研究代表者 金綱知征)による研究活動の一環である】
近年,携帯電話やスマートフォンなどの携帯型電子通信機器は急速な発展と普及を遂げ,インターネット(以下,ネット)の世界はかつてないほど身近なものとなった。そこでは個人の現実社会での属性による制約も少なく,誰もが気軽に情報を共有・交換し,自由なコミュニケーションを享受できているように見える。ところがその反面,情報の真偽や利用方法,犯罪レベルの判断等を誤れば,ネット上で他者を誹謗中傷するなどのネットいじめ,LINEやTwitterなどのソーシャルネットワークサービス(SNS)上に自身が関与した公共の場での問題行動を撮影した画像や動画を投稿し,不特定多数の閲覧者から非難や暴言を浴びるという炎上投稿,さらにはリベンジポルノなどの性犯罪や暴力犯罪への巻き込まれなど,様々な問題行動に関与してしまうリスクと隣り合わせでもある。
これまで主に中高生までを想定し,学校や教育委員会による情報モラルやメディアリテラシー向上等の指導・教育の実施,警察によるサイバーパトロールなど防犯体制の強化,携帯電話事業者などによる未成年者へのフィルタリングサービス提供等が行われて一定の成果をあげてきたが,大学生のネットいじめを含むネット問題については,あまり注目されてこなかった。しかしながら,2013年頃から大学生が関与した炎上投稿や,SNS上で他者とつながっていることが精神的疲弊をもたらすSNS疲れ問題等がしばしばメディアに取り上げられている。また最近では,自身の性的志向性を友人にSNS上で暴露された大学生が自死するという痛ましい事件も起こっており,LINEという手軽な手段によって行われてしまったアウティングが深刻な結末を迎えてしまったという意味で,ネット問題に関する一事例として捉えられる。
本シンポジウムでは,特に大学生のネットいじめに焦点を当て,関与の様相と関連要因を検討するとともに,大学における先駆的なネットいじめ予防・対策実践を紹介する。そのうえで,大学におけるネットいじめ問題への今後の対応のあり方について,検討する。
大学におけるネットいじめの様相
-大学生の経験と認識-
金綱知征
大学生のネットの利用実態について,大学生になると勉強や課題に関する情報収集や,SNS等を用いた友人とのコミュニケーションなどでネットを利用する時間がそれまでよりも増加する傾向にあることが報告されている(岡本・三宅他, 2014)。また大学生のおよそ2割がネット利用中に何らかのトラブルを経験しており,なかでもネット上での誹謗中傷など対人トラブルが顕著であることが報告されている(岡本・三宅他, 2014)。ところが,大学生を対象としたネットいじめに関する報告はあまり多くない。
そこで本話題提供では,大学生600名を対象に実施した,「ネット掲示板・SNS上での誹謗中傷および個人情報暴露」「嫌がらせメールの受信」「なりすましによる偽情報流布」「望まない動画像の拡散」という4つのネットいじめ被害に関する経験と認識をたずねた調査結果について報告する。ネットいじめについては,昨今,従来型いじめとの重複性や順次性の問題が議論されているが,本調査においても,いずれの被害についても,ネット上の人間関係ではなく,現実世界の身近な人間関係が反映されたものであると認識されていることが示された。また自らが何らかの被害を経験している者や身近な人間の被害を見聞した経験をもつ者は,そうした経験をもたない者に比べて将来の被害に対する危機意識や予防意識が高いことが示された。
これらの結果を踏まえ,本話題提供ではさらに,ネット上の逸脱行為を促進させ,また被害への予防意識を低下させる要因として考えられているネット上の匿名性に関する信念が,ネットいじめ被・加害に及ぼす影響について検討した結果についても報告し,今後の予防・対応のあり方について検討したい。
ネットいじめ被害時の遮断的対処の逆説的影響
-ネットいじめが起きたとき,我々はどう対処すべきなのか?-
藤 桂
ネットいじめがもたらす影響のネガティビティは,様々な研究において示唆されてきた。学校の中で生じる従来型のいじめと同様,ネガティブ感情を引き起こす(Ybara & Mitchell, 2004;Wolak, Mitchell, & Finkelhor,2006;三島・本庄,2015)のみならず,長期に渡る心理的問題をもたらすことも示されてきている(鈴木・坂元・熊崎・桂,2013;Cole, Zelkowitz, Nick, Martin, Roeder, Sinclair-McBride, & Spinelli,2016)。それゆえ,ネットいじめが発生した際には,その影響を可能な限り低減することが重要であり,何らかの対処を即座に行っていくことが課題となる。しかし,具体的にはどのような対処が有効なのであろうか。
これを踏まえ本話題提供では,ネットいじめ被害経験のある者を対象に実施した調査結果について紹介する。特に,多くのケースにおいて行われる「ネットやパソコン・携帯機器を全く見ないようにする」「被害を受けた自分のサイトをすぐに閉鎖する」「メールアドレスを変更する」などの遮断的対処が,その後のネガティブ感情の増大といった短期的影響のみならず,大学入学以降の対人的態度の消極化といった長期的影響にも結びつくことを示した分析結果について報告する。
この結果に関連づけながら,本話題提供ではさらに,ネットいじめの被害経験者自身が有効であったと考える対処方法がどのようなものであるかについて分析した結果も紹介する。そして,これらの分析結果を踏まえて,今後のネットいじめへの対処のあり方について「何をすべきで,何をすべきでないか」「何が求められ,何が求められていないか」という観点から新たな方向性を提示しつつ,大学におけるネット問題対策のあり方についても議論を深めていく予定である。
大学におけるネットいじめ対策
-学生相談やピアサポートを用いた実際の予防・対策実践-
金山健一
大学では,一見ネットいじめは目立たないが,それはまだ大学がその問題を的確にキャッチできていない可能性が高い。では,大学ではどのようにネットいじめを把握し対応しているのか,A大学の包括的学生支援を紹介する。
1次支援では居場所づくりと予防的な対応を実施する。UPI(University Personality Inventory)を全学で実施し,心に問題を抱える学生,ネット問題に直面している学生を早期に発見し対応していく。UPIの結果から,必要に応じて個別の教育支援計画を策定し支援を展開する,また,初年次教育で情報モラル教育「ケータイと法律講座」「サイバー警察講座」を実施し,予防的な取り組みを実施する。
2次支援では,チーム支援とピアサポートを実施する。全国の大学ピアサポートの実施率(日本学生支援機構, 2017)では,大学全体では49.3%,国立大学83.5%,公立大学34.9%,私立大学46.4%と急増している。ピアサポート参加者には,一般学生の他に,精神的課題がある学生,ネットいじめで傷ついている学生などの要支援学生がいるが,両者のピアサポート研修・活動による効果には差がないことが確認できた(金山,2014)。また,要支援学生への具体的な対応方法(金山,2015)についても報告する。
3次支援では,医療機関・警察との連携を図る。ネットいじめなどの問題に直面している学生は,心的ストレスで精神疾患になる場合もあり医療機関との連携も必要である。また,ネットでの誹謗中傷など,警察での対応が必要な場合もある。
大学におけるネットいじめ対策は,スクリーニング・テストを活用し,予防教育,ピアサポートを活用した包括的学生支援が必要であるといえるが,抱える課題や問題を議論したい。
【本シンポジウムは, 科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金 基盤研究(C)「インターネット上における仮名や匿名の自己呈示とネットでの問題行動との関連」(課題番号16K04788・研究代表者 金綱知征)による研究活動の一環である】