10:00 AM - 12:00 PM
[PA05] 保育者の働きかけが幼児の自己制御行動に与える効果
自然観察法を用いた事例研究から
Keywords:自己制御行動, スキンシップ, 集団行動
問 題
本研究では幼稚園の保育者が「気になる子ども」と感じている幼児を対象とし,集団行動場面における問題行動改善に向けた保育者の取り組みの効果について検討する。対象児は在園2年で,本年4月から年長に進級した子どもであった。これまでに対象児を担当した保育者からは,(1) 性格はマイペース,(2) 遊び場面において,友だちへの過度のスキンシップがあり,その友だちから嫌がられることがあった,(3) 仲間とのいざこざから友だちを噛むことがあった,また噛まれたこともあった,(4) 集団行動場面において,自分に注意が向くときには保育者の指示によく従うが,順番を待たなければならない場面においては「おもしろくない」と感じているような態度になり,それを注意するとその場では指示に従うがそれが持続しない,などが報告された。一方で,対象児は良きにつけ悪しきにつけ「何でもよくわかる子」であり,リーダーシップを発揮できる資質があると感じるとも報告された。これらの報告の通り,年長担当の保育者は,新学期が始まった初期の頃の対象児の様子について,全体的に落ち着きがなく,集中力がないように感じていた。本研究では,対象児の観察を通して,この保育者の自己制御行動を引き出す保育実践について検討する。
方 法
対象児 N県下の私立幼稚園の年長に在園する男児1名(5歳7ヶ月)であった。この対象児を担当する保育者は,保育暦11年の女性であり,4月より対象児の担任に就いた。
手続き 観察実施日時と場所は,2017年4月21日(園庭),26日(遊戯室),28日(園庭)の3日間で,すべて午前11:20〜午後12:20までの60分間であった。観察した場面は,当該園が外部講師を招いて週に2回実施している30分間の体操教室の時間とその前後の15分間であった。体操教室は園庭の遊具・稼働性のある鉄棒・コーン・大きな輪などを利用した,駆けっこを中心とした活動であった。担任の保育者はこの活動のサポートに入る形で関わった。観察は自然観察法を用い,記録方法は活写法であった。観察終了後に観察者と保育者との観察視点にずれがないか否かを確認するため,保育者から5〜10分間程度の聞き取りを行った。
結果と考察
3回の観察を通して,集団行動全体の妨げになるような対象児の問題行動は認められなかったが,外部講師や保育者の注意が自分に向かない場面では,集中力の低下,「おもしろくない」という態度が散見された。
他の園児との関わり 第1回目の観察時には,障害物競争の一部として設けられたすべり台の順番待ちの際に,前に並んでいた女児の順番を抜かす,怖がってなかなか滑り出せない別の女児を軽く足で蹴るなどの行動があった。2人1組になり,友だちと向かい合い手をつなぐ指示があった際には,最後までパートナーを見つけることができなかった。それに気づいた友だちが声がけしてパートナーになったが,その子の両手を強く握り上下に腕を大きく振ったことで離れて行かれる場面があった。観察者と保育者が注目したのは,第3回目の活動時にリレーの順番をめぐって対象児と友だちとの間でいさかいが起こった場面であった。双方が「先に来た順やで。オレが先やで!」と主張し,2人がつかみ合う小競り合いが始まった。ところが,対象児は誰から注意されたわけでもないのに順番をその男児に譲り,その場を収めた。それは対象児の自己抑制に関わる自己制御行動が顕在化した場面であった。
保育者への聞き取り 保育者は対象児の問題行動が対象児自身の自己評価の低さに起因するものである可能性を考慮し,対象児に対して積極的にスキンシップをとるようにしていると述べた。短期間の保育実践ではあるが,スキンシップを実践した直後やその後に,対象児の行動が落ち着くことを強く実感していると報告した。対象児のリーダー的資質を引き出すため,日常の保育場面では,対象児にクラスメートの「お手本」になってもらう機会を多く設け,注意が散漫になるような場面でも叱らないよう配慮していると報告した。これらのスキンシップの活用や配慮には,対象児にクラスの要となる存在になってもらいたいという,保育者自身の期待があるからだと述べている。
今後も時間をかけた観察が必要となるが,保育者によるスキンシップの活用や「子どもを認める」という関わりが,子どもの自発的な自己制御行動に効果的な影響を及ぼす可能性が示唆されたといえる。
本研究では幼稚園の保育者が「気になる子ども」と感じている幼児を対象とし,集団行動場面における問題行動改善に向けた保育者の取り組みの効果について検討する。対象児は在園2年で,本年4月から年長に進級した子どもであった。これまでに対象児を担当した保育者からは,(1) 性格はマイペース,(2) 遊び場面において,友だちへの過度のスキンシップがあり,その友だちから嫌がられることがあった,(3) 仲間とのいざこざから友だちを噛むことがあった,また噛まれたこともあった,(4) 集団行動場面において,自分に注意が向くときには保育者の指示によく従うが,順番を待たなければならない場面においては「おもしろくない」と感じているような態度になり,それを注意するとその場では指示に従うがそれが持続しない,などが報告された。一方で,対象児は良きにつけ悪しきにつけ「何でもよくわかる子」であり,リーダーシップを発揮できる資質があると感じるとも報告された。これらの報告の通り,年長担当の保育者は,新学期が始まった初期の頃の対象児の様子について,全体的に落ち着きがなく,集中力がないように感じていた。本研究では,対象児の観察を通して,この保育者の自己制御行動を引き出す保育実践について検討する。
方 法
対象児 N県下の私立幼稚園の年長に在園する男児1名(5歳7ヶ月)であった。この対象児を担当する保育者は,保育暦11年の女性であり,4月より対象児の担任に就いた。
手続き 観察実施日時と場所は,2017年4月21日(園庭),26日(遊戯室),28日(園庭)の3日間で,すべて午前11:20〜午後12:20までの60分間であった。観察した場面は,当該園が外部講師を招いて週に2回実施している30分間の体操教室の時間とその前後の15分間であった。体操教室は園庭の遊具・稼働性のある鉄棒・コーン・大きな輪などを利用した,駆けっこを中心とした活動であった。担任の保育者はこの活動のサポートに入る形で関わった。観察は自然観察法を用い,記録方法は活写法であった。観察終了後に観察者と保育者との観察視点にずれがないか否かを確認するため,保育者から5〜10分間程度の聞き取りを行った。
結果と考察
3回の観察を通して,集団行動全体の妨げになるような対象児の問題行動は認められなかったが,外部講師や保育者の注意が自分に向かない場面では,集中力の低下,「おもしろくない」という態度が散見された。
他の園児との関わり 第1回目の観察時には,障害物競争の一部として設けられたすべり台の順番待ちの際に,前に並んでいた女児の順番を抜かす,怖がってなかなか滑り出せない別の女児を軽く足で蹴るなどの行動があった。2人1組になり,友だちと向かい合い手をつなぐ指示があった際には,最後までパートナーを見つけることができなかった。それに気づいた友だちが声がけしてパートナーになったが,その子の両手を強く握り上下に腕を大きく振ったことで離れて行かれる場面があった。観察者と保育者が注目したのは,第3回目の活動時にリレーの順番をめぐって対象児と友だちとの間でいさかいが起こった場面であった。双方が「先に来た順やで。オレが先やで!」と主張し,2人がつかみ合う小競り合いが始まった。ところが,対象児は誰から注意されたわけでもないのに順番をその男児に譲り,その場を収めた。それは対象児の自己抑制に関わる自己制御行動が顕在化した場面であった。
保育者への聞き取り 保育者は対象児の問題行動が対象児自身の自己評価の低さに起因するものである可能性を考慮し,対象児に対して積極的にスキンシップをとるようにしていると述べた。短期間の保育実践ではあるが,スキンシップを実践した直後やその後に,対象児の行動が落ち着くことを強く実感していると報告した。対象児のリーダー的資質を引き出すため,日常の保育場面では,対象児にクラスメートの「お手本」になってもらう機会を多く設け,注意が散漫になるような場面でも叱らないよう配慮していると報告した。これらのスキンシップの活用や配慮には,対象児にクラスの要となる存在になってもらいたいという,保育者自身の期待があるからだと述べている。
今後も時間をかけた観察が必要となるが,保育者によるスキンシップの活用や「子どもを認める」という関わりが,子どもの自発的な自己制御行動に効果的な影響を及ぼす可能性が示唆されたといえる。