The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PA(01-83)

ポスター発表 PA(01-83)

Sat. Oct 7, 2017 10:00 AM - 12:00 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 AM - 12:00 PM

[PA06] 母親の感情発話と幼児の感情語彙数及び社会的行動の関連

浜名真以1, 溝川藍2 (1.東京大学・日本学術振興会, 2.椙山女学園大学)

Keywords:幼児, 感情, 母親

問   題
 母親による感情に関する発話・言及は,感情をテーマにした絵本の読み聞かせ場面で多く見られる。また,その際の母親の感情発話のスタイルは子どもの共感性や向社会的行動と関連することがわかっている(Denham & Auenbach, 1995; Brownell et al, 2013)。本研究では,この母親の感情発話に注目し,子どもの感情語彙や,問題行動も含めた社会的行動との関連について検討する。観察による発話収集には,子どもの絵本への関心や集中力等の他要因との交絡の可能性や参加者の負担の大きさといった問題があるため,母親の発話は質問紙を用いて収集する。
方   法
参加者 保育所に通う年中児21名(M=5;5)とその母親21名,クラス担任の保育士2名。
手続き 母親の感情発話 母親対象の質問紙調査において,子どものキャラクターが6種類の感情(喜び,怒り,嫌悪,驚き,悲しみ,恐怖)を経験している状況が描かれたイラストを1つの感情につき1枚ずつ提示し,それぞれのイラストの状況について,自分の子どもにどのように説明するかを自由記述で回答することを求めた。
母親の感情発話のコーディング 母親が感情場面を説明する程度の詳細さの指標として,6つの感情場面のイラストについての記述の総文節数を算出した。また,発話スタイルの指標として「どっちから開けるかな」,「(キャラクターに)声をかけてあげよう」といった子どもの参加を促す発話(以下,参加型発話)の数,並びに「怖いね,でも大丈夫」,「悲しいけどわざとじゃないから許してあげよう」といったネガティブ感情を制御する発話(以下,感情制御型発話)の数を算出した。
子どもの感情語彙数 母親対象の質問紙調査において,新規に作成した110語の感情語リストを提示し子どもの感情語の産出語彙数を測定した。なお,この感情語リストの作成にあたっては,まず,既存の日本語の感情語リスト(e.g., Tsuji, 2011),英語の感情語彙測定質問紙(e.g., Baron-Cohen et al., 2005)で扱われている感情語を和訳した語,語彙分類表 (国立国語研究所, 2004),教育基本語彙(阪本, 1984)のうち感情語に当たるものから328語を抜粋した。次に,小学校教諭へのインタビューを行い,328語のうち小学1年生が使用しない語を除外し275語を選定した。さらに,その275語について4-5歳児の母親19名を対象に質問紙調査を行い,自分の子どもが産出しないと全員が報告した語を除外し226語を選定した。最後に,感嘆詞,オノマトペ,外来語,複合語,俗語,感情以外の意味も取る語を除外し,最終的に110 語を選定した。
子どもの社会的行動 クラス担任への質問紙調査を実施し,日本語版Strengths and Difficulties Questionnaire(SDQ;Goodman, 1997)を用いて,行為,多動・不注意,情緒,仲間関係,向社会性の5側面の社会的行動を測定した。
子どもの言語年齢 子どもを対象に個別に絵画語彙発達検査(PVT-R;上野・名越・小貫, 2008)を実施し,その得点から言語年齢を算出した。
結果・考察
 母親の感情発話と,子どもの感情語彙数および社会的行動の関連を調べるため,スピアマンの順位相関分析を行った。その結果,母親の感情発話の総文節数と子どもの感情語彙数の関連,母親の感情発話の総文節数と子どもの社会的行動の関連,母親の発話スタイルと子どもの社会的行動の関連が認められた(Table 1)。言語年齢は,いずれの指標とも有意な相関がみられなかった。
 これらの結果から,感情場面で多くを説明する母親の子どもほど感情語彙数が多く,仲間関係の問題が少ないこと,また,参加型発話スタイル及び感情制御型発話スタイルの母親の子どもほど,行為,多動,仲間関係の問題が少ないことが明らかになった。さらに,参加型発話スタイルの母親の子どもほど,向社会性が高いことが示された。
付   記
 本研究に使用したデータは,国立教育政策研究所プロジェクト研究「非認知的(社会情緒的)能力の発達と科学的検討手法に関する研究(平成27~28年度)(研究代表者:遠藤利彦)」において収集された。