10:00 AM - 12:00 PM
[PA10] 死別経験,死の不安と内的作業モデル
Keywords:死別, 死の不安, 内的作業モデル
目 的
内的作業モデルは,愛着の対象との継続的な相互交流から,内面に形成される愛着対象や自己についての心的表象とされる。質問紙では,他者は応答的で自己は援助されるべき存在とする「安定型」,他者に対して信頼と不信の両価的な「アンビバレント型」,他者が援助に拒否的で自己充足的な存在という「回避型」が測定される。
本報告は,身近で重要な身内との死別経験と死の不安が内的作業モデルとどのような関係にあるかを調査するために計画された。
死別にともなうさまざまな経験により,安定関連尺度では高得点に残りの2つの関連尺度では低得点につながることが予想される。
また,アンビバレント型や回避型は不安の高さと関係しているとされており(大井,2004),安定型は潜在的にも顕在的にも死への恐怖感が低く,アンビバレント型は反対に高いという(Mikulincerら,1990)。これらから,死の不安の高いものは安定に関する尺度で低く,アンビバレント型と回避型では高くなることが予想される。
方 法
調査時期および対象
本調査は,無記名式で2015年7月に女子大学生1から4年生(1,2年生が中心)206名を対象に実施し,未記入箇所があったものを除き分析対象は,184名で平均年齢は19.0歳であった。なお,回答に際して答えたくない場合は,フェイスシートにマークさせ回答を求めなかった。分析から除いた22通のうち10通がこれに該当した。
調査内容
調査は,死別経験に関することがらとともにいくつかの領域の質問項目にわたっていた。今回分析の対象とした質問項目としては,15項目からなる「死の不安尺度(DAS)」(Templer,1970;4件法),18項目からなる「内的作業モデル」(戸田,1988:6件法)についてであった。内的作業モデルでは,下位尺度として「安定尺度」,「アンビバレント尺度」,「回避尺度」の3つがあり,それぞれ6項目(安定-1~6,アンビバレント-7~12,回避-13~18)から成り立っていた。死別経験については,その有無を「強い悲しみや不安を感じた」場合に特定して,「家族・身内等」,「友人・知人等」,「ペット」別に「幼児期以前」から「大学生」までの6段階ごとに記入させた。ペットについては,種類も併せて記入を求めた。
結果と考察
(1)重要な身内との死別経験,死の不安と内的作業モデル
身内との死別経験の有無や死への不安の程度が内的作業モデルに影響しているか否かについて,死別経験の有無(2)×死の不安の高低(2)の2要因分散分析を実施した。18項目と3つの下位尺度についての分析の結果,死別の主効果については,アンビバレント尺度の2項目(自分に自信がもてないと人から嫌がられる)で認められ,いずれも死別経験のないものの方が高かった。
死の不安の高低の効果は,アンビバレント尺度の1項目(すぐに自信をなくしてしまう)と回避尺度の3項目(親しくされるとイライラする,親しくなるのは好きでない,人は全面的には信頼できない)と下位の回避尺度で得られた。アンビバレント尺度の1項目以外は,すべて死の不安が高い群の方が低い群より高得点になっていた。このように回避尺度では下位尺度を含め4項目で差異があり,死の不安の高さは人との関係性で回避的なる傾向を示していた。また,2項目(知り合いができやすい,すぐに人と親しくなる)で両要因の交互作用の傾向がみられ,ともに死の不安の低い群での差は少なく,高い群で死別有が明らかに高くなっていたことによってあらわれた。死の不安に関して,回避に関する項目では予測が支持されたが,他の領域では明らかにできなかった。
(2)高校生以降に死を意識した経験と内的作業モデル
学校段階別の死を意識した経験の3件法の回答の内,高校と大学時代にともに経験のあるもの(150名,85.2%)とないもの(26名,14.8%)に分け,t検定を実施した。その結果,安定尺度とこれに属する3項目(知り合いができやすい,好かれやすい,初めての人ともうまくやれる),アンビバレント尺度と1項目(自分を信用できない)で差が確認された。安定尺度・項目では死を意識した経験のあるものの方が高くなっており,アンビバレント尺度・項目では,意識経験のないものの方が高くなっていた。調査時点に近い青年期の重要な身内との死別経験は,多くの安定尺度と関係し肯定的な対人関係との関連性を見いだすことができた。
(3)ペットとの死別経験と内的作業モデル
ペットとの死別経験の有無との関係についても,内的作業モデルの各項目と下位尺度についてt検定を行ったが,1項目(頼ったり頼られたりする)だけ有意差が確認され,死別経験のない方が得点が高かった(無3.03,有2.71 )。
内的作業モデルは,愛着の対象との継続的な相互交流から,内面に形成される愛着対象や自己についての心的表象とされる。質問紙では,他者は応答的で自己は援助されるべき存在とする「安定型」,他者に対して信頼と不信の両価的な「アンビバレント型」,他者が援助に拒否的で自己充足的な存在という「回避型」が測定される。
本報告は,身近で重要な身内との死別経験と死の不安が内的作業モデルとどのような関係にあるかを調査するために計画された。
死別にともなうさまざまな経験により,安定関連尺度では高得点に残りの2つの関連尺度では低得点につながることが予想される。
また,アンビバレント型や回避型は不安の高さと関係しているとされており(大井,2004),安定型は潜在的にも顕在的にも死への恐怖感が低く,アンビバレント型は反対に高いという(Mikulincerら,1990)。これらから,死の不安の高いものは安定に関する尺度で低く,アンビバレント型と回避型では高くなることが予想される。
方 法
調査時期および対象
本調査は,無記名式で2015年7月に女子大学生1から4年生(1,2年生が中心)206名を対象に実施し,未記入箇所があったものを除き分析対象は,184名で平均年齢は19.0歳であった。なお,回答に際して答えたくない場合は,フェイスシートにマークさせ回答を求めなかった。分析から除いた22通のうち10通がこれに該当した。
調査内容
調査は,死別経験に関することがらとともにいくつかの領域の質問項目にわたっていた。今回分析の対象とした質問項目としては,15項目からなる「死の不安尺度(DAS)」(Templer,1970;4件法),18項目からなる「内的作業モデル」(戸田,1988:6件法)についてであった。内的作業モデルでは,下位尺度として「安定尺度」,「アンビバレント尺度」,「回避尺度」の3つがあり,それぞれ6項目(安定-1~6,アンビバレント-7~12,回避-13~18)から成り立っていた。死別経験については,その有無を「強い悲しみや不安を感じた」場合に特定して,「家族・身内等」,「友人・知人等」,「ペット」別に「幼児期以前」から「大学生」までの6段階ごとに記入させた。ペットについては,種類も併せて記入を求めた。
結果と考察
(1)重要な身内との死別経験,死の不安と内的作業モデル
身内との死別経験の有無や死への不安の程度が内的作業モデルに影響しているか否かについて,死別経験の有無(2)×死の不安の高低(2)の2要因分散分析を実施した。18項目と3つの下位尺度についての分析の結果,死別の主効果については,アンビバレント尺度の2項目(自分に自信がもてないと人から嫌がられる)で認められ,いずれも死別経験のないものの方が高かった。
死の不安の高低の効果は,アンビバレント尺度の1項目(すぐに自信をなくしてしまう)と回避尺度の3項目(親しくされるとイライラする,親しくなるのは好きでない,人は全面的には信頼できない)と下位の回避尺度で得られた。アンビバレント尺度の1項目以外は,すべて死の不安が高い群の方が低い群より高得点になっていた。このように回避尺度では下位尺度を含め4項目で差異があり,死の不安の高さは人との関係性で回避的なる傾向を示していた。また,2項目(知り合いができやすい,すぐに人と親しくなる)で両要因の交互作用の傾向がみられ,ともに死の不安の低い群での差は少なく,高い群で死別有が明らかに高くなっていたことによってあらわれた。死の不安に関して,回避に関する項目では予測が支持されたが,他の領域では明らかにできなかった。
(2)高校生以降に死を意識した経験と内的作業モデル
学校段階別の死を意識した経験の3件法の回答の内,高校と大学時代にともに経験のあるもの(150名,85.2%)とないもの(26名,14.8%)に分け,t検定を実施した。その結果,安定尺度とこれに属する3項目(知り合いができやすい,好かれやすい,初めての人ともうまくやれる),アンビバレント尺度と1項目(自分を信用できない)で差が確認された。安定尺度・項目では死を意識した経験のあるものの方が高くなっており,アンビバレント尺度・項目では,意識経験のないものの方が高くなっていた。調査時点に近い青年期の重要な身内との死別経験は,多くの安定尺度と関係し肯定的な対人関係との関連性を見いだすことができた。
(3)ペットとの死別経験と内的作業モデル
ペットとの死別経験の有無との関係についても,内的作業モデルの各項目と下位尺度についてt検定を行ったが,1項目(頼ったり頼られたりする)だけ有意差が確認され,死別経験のない方が得点が高かった(無3.03,有2.71 )。