10:00 AM - 12:00 PM
[PA12] 仲間の違反の報告に対する児童の認識に親密性が与える影響の検討
Keywords:真実の報告, 親密性, 善悪判断
問題と目的
本研究は,仲間の違反を報告すること(tattling,告げ口)に対する児童の認識を検討するものである。この認識に関する研究は,初期にはPiaget(1930)によって取り上げられ,近年ではChiu Loke et al.(2011,2014)や楯(2016,2017)などによって報告がなされている。本研究では,違反者と違反の報告者の関係性(親密性)が,児童の報告の予測や選択に関する認識,および報告に対する善悪判断に与える影響を明らかにする。
方 法
調査対象 公立小学校に通う4年生73名(平均年齢9.95歳,男子42名,女子31名)。
課題内容 他者の違反(図書室の本を破る,廊下のポスターを破る)を目撃した主人公が,その後教師からその違反を行ったのは誰かを尋ねられるストーリー課題が用いられた(楯,2016,2017)。親密性の要因(被験者内要因として設定)として,主人公と違反をした者が仲の良い友人である親密条件と,関わりの薄い他のクラスの子である非親密条件の2条件が設定された。
質問内容 以下の質問が設定された。
(1)真実報告の予測質問 課題の主人公は教師に仲間の違反を報告すると思うか否を尋ねた。
(2)真実報告の選択質問 「あなた」(調査対象の児童)が主人公であったら,仲間の違反を報告するか否かを尋ねた。
これら2つの質問については,「言うと思う」「言わないと思う」のいずれかを選択させた。
(3)善悪判断質問 主人公が教師に仲間の違反を報告した場合と,報告しなかった場合について,それぞれ,「とても悪い」から「とても良い」の7件法で善悪判断の評定をさせた。
調査手続き 質問紙による仮想場面実験を実施した。質問紙は,主人公の性別,違反内容と親密性の条件の組み合わせ,および善悪判断質問の順序を考慮し,8パターン作成された。
結 果
真実報告の予測 集計の結果,親密条件で主人公が「言うと思う」と回答した児童は29名(39.7%)であった。一方,非親密条件では66名(90.4%)であった。親密性の条件間の回答を比較するためにMcNemar検定を実施した結果,有意差が得られた(p<.01,両側検定)。非親密条件に比べて親密条件において,主人公は「言うと思う」と回答した者の比率が低いことが明らかになった。
真実報告の選択 親密条件で自分が「言うと思う」と回答した児童は38名(52.1%),非親密条件では54名(74.0%)であった。予測質問と同様に,親密条件と非親密条件における回答の差異をMcNemar検定で比較したところ,有意差が確認された(p<.01,両側検定)。予測質問と同様に,非親密条件に比べて親密条件において,自分が主人公であったら「言うと思う」と回答した者の比率が明らかに低かった。
善悪判断 善悪判断質問の7件法による評定結果を-3から+3に得点化し,親密性(親密,非親密)×報告(「言う」,「言わない」)の被験者内計画による2要因分散分析を行った。その結果,報告の主効果(F(1,72)=244.14,p<.01)および親密性と報告の交互作用(F(1,72)=4.29, p<.05)が有意であった。交互作用の下位検定を行ったところ,報告の要因の単純主効果は親密性の両条件において1%水準で有意であった。親密性の両条件とも,仲間の違反を「報告しない(言わない)」よりも「報告する(言う)」場合の平均値が高かった。また親密性の単純主効果は,「報告する」条件において5%水準で有意であった。仲の良い友人の違反を教師に報告することは,交流の少ない他のクラスの子の違反をする場合に比べて,平均値が低くなることが示された。
考 察
ストーリー課題の主人公による違反の報告の予測,および調査に参加した児童自身の違反の報告の選択の両方において,親密性の条件による差異が確認された。違反者が仲の良い友人であった場合,そうでない場合と比べて教師への違反の報告は抑制される,と児童は認識していた。また,親密性の要因は,「違反の報告をすること」に対する善悪判断に一部影響を与えていた。親密な友人の違反を報告することは,そうでない他者の違反を報告するよりも「良くない」と,児童は判断していた。親密な友人の違反の報告は,「告げ口」と見なされ,より否定的に捉えられている可能性がある。しかしながら,基本的に児童は仲間の違反を報告することは,報告しないことと比べて明らかに良いと捉えていた。この結果から,親密性の要因は善悪判断以上に他の認識(例えば,仲間からの報復の予測など)に関与し,報告の予測や選択に差をもたらしている可能性も示唆された。
本研究は,仲間の違反を報告すること(tattling,告げ口)に対する児童の認識を検討するものである。この認識に関する研究は,初期にはPiaget(1930)によって取り上げられ,近年ではChiu Loke et al.(2011,2014)や楯(2016,2017)などによって報告がなされている。本研究では,違反者と違反の報告者の関係性(親密性)が,児童の報告の予測や選択に関する認識,および報告に対する善悪判断に与える影響を明らかにする。
方 法
調査対象 公立小学校に通う4年生73名(平均年齢9.95歳,男子42名,女子31名)。
課題内容 他者の違反(図書室の本を破る,廊下のポスターを破る)を目撃した主人公が,その後教師からその違反を行ったのは誰かを尋ねられるストーリー課題が用いられた(楯,2016,2017)。親密性の要因(被験者内要因として設定)として,主人公と違反をした者が仲の良い友人である親密条件と,関わりの薄い他のクラスの子である非親密条件の2条件が設定された。
質問内容 以下の質問が設定された。
(1)真実報告の予測質問 課題の主人公は教師に仲間の違反を報告すると思うか否を尋ねた。
(2)真実報告の選択質問 「あなた」(調査対象の児童)が主人公であったら,仲間の違反を報告するか否かを尋ねた。
これら2つの質問については,「言うと思う」「言わないと思う」のいずれかを選択させた。
(3)善悪判断質問 主人公が教師に仲間の違反を報告した場合と,報告しなかった場合について,それぞれ,「とても悪い」から「とても良い」の7件法で善悪判断の評定をさせた。
調査手続き 質問紙による仮想場面実験を実施した。質問紙は,主人公の性別,違反内容と親密性の条件の組み合わせ,および善悪判断質問の順序を考慮し,8パターン作成された。
結 果
真実報告の予測 集計の結果,親密条件で主人公が「言うと思う」と回答した児童は29名(39.7%)であった。一方,非親密条件では66名(90.4%)であった。親密性の条件間の回答を比較するためにMcNemar検定を実施した結果,有意差が得られた(p<.01,両側検定)。非親密条件に比べて親密条件において,主人公は「言うと思う」と回答した者の比率が低いことが明らかになった。
真実報告の選択 親密条件で自分が「言うと思う」と回答した児童は38名(52.1%),非親密条件では54名(74.0%)であった。予測質問と同様に,親密条件と非親密条件における回答の差異をMcNemar検定で比較したところ,有意差が確認された(p<.01,両側検定)。予測質問と同様に,非親密条件に比べて親密条件において,自分が主人公であったら「言うと思う」と回答した者の比率が明らかに低かった。
善悪判断 善悪判断質問の7件法による評定結果を-3から+3に得点化し,親密性(親密,非親密)×報告(「言う」,「言わない」)の被験者内計画による2要因分散分析を行った。その結果,報告の主効果(F(1,72)=244.14,p<.01)および親密性と報告の交互作用(F(1,72)=4.29, p<.05)が有意であった。交互作用の下位検定を行ったところ,報告の要因の単純主効果は親密性の両条件において1%水準で有意であった。親密性の両条件とも,仲間の違反を「報告しない(言わない)」よりも「報告する(言う)」場合の平均値が高かった。また親密性の単純主効果は,「報告する」条件において5%水準で有意であった。仲の良い友人の違反を教師に報告することは,交流の少ない他のクラスの子の違反をする場合に比べて,平均値が低くなることが示された。
考 察
ストーリー課題の主人公による違反の報告の予測,および調査に参加した児童自身の違反の報告の選択の両方において,親密性の条件による差異が確認された。違反者が仲の良い友人であった場合,そうでない場合と比べて教師への違反の報告は抑制される,と児童は認識していた。また,親密性の要因は,「違反の報告をすること」に対する善悪判断に一部影響を与えていた。親密な友人の違反を報告することは,そうでない他者の違反を報告するよりも「良くない」と,児童は判断していた。親密な友人の違反の報告は,「告げ口」と見なされ,より否定的に捉えられている可能性がある。しかしながら,基本的に児童は仲間の違反を報告することは,報告しないことと比べて明らかに良いと捉えていた。この結果から,親密性の要因は善悪判断以上に他の認識(例えば,仲間からの報復の予測など)に関与し,報告の予測や選択に差をもたらしている可能性も示唆された。