10:00 AM - 12:00 PM
[PA26] 歩き遍路体験を主題とする俳句の創作と学びの質との関係
Keywords:体験学習, 学びの質, 感動
問題と目的
歩き遍路体験は途上の自然,文化,そして人間との交流から自己や他者との関係を見つめ直す好機であり,体験の意義は心に刻み込んだり省みたりすることにより深まると考えられる。日本人は,体験を心に刻み込む手段として俳句という短詩型を創造し,遍路の途上でも数々の俳句が詠まれてきた。皆川は,こうした理解に基づき,本学の大学院ならびに学部における,歩き遍路を主体とする体験型の授業において,その途上で出会う風物や,同行者や地域の人々とのふれあいをテーマとして俳句を作ることを提案し実践してきた。歩き遍路に先立つ事前授業では,上で述べたような,俳句の機能とその構造(十七音,季語),および遍路との親和性について解説し,創作法(皆川,2005)を教授し,歩き遍路での俳句の創作を奨励してきた。この教育プログラムは,学部では2008年度より授業科目「阿波学」の中で,大学院では2007年度より授業科目「四国遍路と地域文化」の中で,継続して実施している。本研究は,歩き遍路に参加した学生が創作した俳句と,作者の心情との関係を分析し,歩き遍路体験の教育効果を検証することを目的として行われた。
方 法
研究協力者 2013年度,2014年度,および2015年度の3年間にN大学学部授業「阿波学(地域文化研究)」を受講した学部生計240名のうち,222名が俳句を提出し,研究協力者となった。
創作俳句・分析対象:本研究の対象年度とする3年間で222名により計666句が提出された。このうち,季語のない作品,季語はあるが当季ではない作品,季語を羅列した作品,語呂合わせに終始している作品,一部の語句の表記形態を変えただけの作品(漢字をカタカナに変えるなど),および既存のフレーズを借用している作品を除く575句を本研究の分析 対象とした。
歩き遍路に関する質問紙 下記7項目から成る質問紙を実施,0(まったくあてはまらない)から4(とてもよくあてはまる)までの5段階評定を求めた。①四季折々の草花や鳥など「自然」の風物と出会いをたいせつにしたい。②寺院の歴史や路傍の道標など地域の「文化」について学んでみたい。③地域の人々の生活など「人間」の営みに目を向けてみようと思う。④天候や気温,道の状態などに合わせて,歩き方を工夫してみようと思う。⑤同じ班の人と励まし合ったり助け合ったりしようと思う。⑥歩き遍路をしているのは自分たちだけではないと考え,周囲に配慮しながら過ごそうと思う。⑦自分を見つめ直すよい機会にしたいと考えている。この質問紙は,事前授業時,俳句提出時の2回実施した。
倫理的配慮 質問紙には「この用紙に記入された内容は統計的に処理されます。また,個人の情報が 外部にもれることは一切ありません。」と明記し,口頭でも説明した。
結果および考察
季語としてもっとも多く用いられたのは,「秋遍路」であり,96句において,この季語が用いられていた。この語はこの授業の内容(受講生の体験)をもっとも端的に表す季語であることから,自らの体験を俳句にしようとする意欲が感じられ,受講生にとってこの体験がいかに印象深いものであったが読み取れる。
季語を上五に置く俳句がもっとも多く,全575句のうち295句を占めていた。次いで,下五に季語を置く俳句が多く,225句であった。中七に季語を置く俳句は55句に過ぎなかった。このように,上五もしくは下五に季語を置く俳句が大半を占めたことには,本授業で導入した創作法が関係していると考えられる。
質問項目①に関わる俳句(=「自然」を主題とする俳句)がもっとも多かったが,その他の質問項目に関わる俳句も相当数創作された。それぞれ,下記を主題とする俳句群である。②「文化」,③「地域住民との交流」,④「状況対応」,⑤「同行者との協力」,⑥「共感・他者理解」,⑦「自己洞察」。
歩き遍路に関する質問紙は,全7項目において,事前よりも事後の平均評定値が上昇していた。創作俳句との関係をみると,各項目の評点が相対的に高く,また事前から事後への評点の上昇率が高い研究協力者ほど,その項目に関わる俳句を創作する傾向にあるという関係性が認められた。
これらの結果は,本授業における歩き遍路体験が「自然や文化に感銘し,自己を見つめ,他者を思いやる」機会となり,学びの質を高めたことを明示している。とりわけ,体験に伴う感動を俳句によって集約して表現するという教育活動によるところが大きいと考えられる。
歩き遍路体験は途上の自然,文化,そして人間との交流から自己や他者との関係を見つめ直す好機であり,体験の意義は心に刻み込んだり省みたりすることにより深まると考えられる。日本人は,体験を心に刻み込む手段として俳句という短詩型を創造し,遍路の途上でも数々の俳句が詠まれてきた。皆川は,こうした理解に基づき,本学の大学院ならびに学部における,歩き遍路を主体とする体験型の授業において,その途上で出会う風物や,同行者や地域の人々とのふれあいをテーマとして俳句を作ることを提案し実践してきた。歩き遍路に先立つ事前授業では,上で述べたような,俳句の機能とその構造(十七音,季語),および遍路との親和性について解説し,創作法(皆川,2005)を教授し,歩き遍路での俳句の創作を奨励してきた。この教育プログラムは,学部では2008年度より授業科目「阿波学」の中で,大学院では2007年度より授業科目「四国遍路と地域文化」の中で,継続して実施している。本研究は,歩き遍路に参加した学生が創作した俳句と,作者の心情との関係を分析し,歩き遍路体験の教育効果を検証することを目的として行われた。
方 法
研究協力者 2013年度,2014年度,および2015年度の3年間にN大学学部授業「阿波学(地域文化研究)」を受講した学部生計240名のうち,222名が俳句を提出し,研究協力者となった。
創作俳句・分析対象:本研究の対象年度とする3年間で222名により計666句が提出された。このうち,季語のない作品,季語はあるが当季ではない作品,季語を羅列した作品,語呂合わせに終始している作品,一部の語句の表記形態を変えただけの作品(漢字をカタカナに変えるなど),および既存のフレーズを借用している作品を除く575句を本研究の分析 対象とした。
歩き遍路に関する質問紙 下記7項目から成る質問紙を実施,0(まったくあてはまらない)から4(とてもよくあてはまる)までの5段階評定を求めた。①四季折々の草花や鳥など「自然」の風物と出会いをたいせつにしたい。②寺院の歴史や路傍の道標など地域の「文化」について学んでみたい。③地域の人々の生活など「人間」の営みに目を向けてみようと思う。④天候や気温,道の状態などに合わせて,歩き方を工夫してみようと思う。⑤同じ班の人と励まし合ったり助け合ったりしようと思う。⑥歩き遍路をしているのは自分たちだけではないと考え,周囲に配慮しながら過ごそうと思う。⑦自分を見つめ直すよい機会にしたいと考えている。この質問紙は,事前授業時,俳句提出時の2回実施した。
倫理的配慮 質問紙には「この用紙に記入された内容は統計的に処理されます。また,個人の情報が 外部にもれることは一切ありません。」と明記し,口頭でも説明した。
結果および考察
季語としてもっとも多く用いられたのは,「秋遍路」であり,96句において,この季語が用いられていた。この語はこの授業の内容(受講生の体験)をもっとも端的に表す季語であることから,自らの体験を俳句にしようとする意欲が感じられ,受講生にとってこの体験がいかに印象深いものであったが読み取れる。
季語を上五に置く俳句がもっとも多く,全575句のうち295句を占めていた。次いで,下五に季語を置く俳句が多く,225句であった。中七に季語を置く俳句は55句に過ぎなかった。このように,上五もしくは下五に季語を置く俳句が大半を占めたことには,本授業で導入した創作法が関係していると考えられる。
質問項目①に関わる俳句(=「自然」を主題とする俳句)がもっとも多かったが,その他の質問項目に関わる俳句も相当数創作された。それぞれ,下記を主題とする俳句群である。②「文化」,③「地域住民との交流」,④「状況対応」,⑤「同行者との協力」,⑥「共感・他者理解」,⑦「自己洞察」。
歩き遍路に関する質問紙は,全7項目において,事前よりも事後の平均評定値が上昇していた。創作俳句との関係をみると,各項目の評点が相対的に高く,また事前から事後への評点の上昇率が高い研究協力者ほど,その項目に関わる俳句を創作する傾向にあるという関係性が認められた。
これらの結果は,本授業における歩き遍路体験が「自然や文化に感銘し,自己を見つめ,他者を思いやる」機会となり,学びの質を高めたことを明示している。とりわけ,体験に伴う感動を俳句によって集約して表現するという教育活動によるところが大きいと考えられる。