The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PA(01-83)

ポスター発表 PA(01-83)

Sat. Oct 7, 2017 10:00 AM - 12:00 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 AM - 12:00 PM

[PA28] 授業における「問い」の問題

対話主義授業論の立場から

宮崎清孝 (早稲田大学)

Keywords:授業, 発問, 教師の学習

 授業が対話的なものであるために教師・教材・生徒間に教師と生徒が教材の「真理性について対等の権利を持つ」(Bakhtin, 1995)三項関係が必要であると考える立場からは,授業の中で存在する「問い」の性質を問うことが重要な研究課題となる。この点で大きな問題提起となったのがMehan(1979)による授業の中の教師の問いには教師が既に答えを知っているknown information questionが多いという指摘である。これに対して対話主義的な授業論の流れの中では,教師側も答えを知らない問いの存在と重要性が指摘されている。だがそれらはまだ少数で,このような問いの性質と,発見の過程についてさらに検討を進めることが必要であり,この発表ではそのための道筋を探る。
対話主義的な授業論の中で
 教師も答えを知らない問いの存在が対話主義的な授業で重要な理由は,それが生徒と教師が教材について「対等の権利」を持ちつつ探求し,学習していく焦点になるからである。教師が生徒と同じように教材について学ぶべきであるという主張は対話主義的な授業論で多くなされているが,問いに焦点化している者は少ない。Wells(1999)は教師の役割の一つとして生徒にthought provoking questionの提供を挙げる。またLampert (1995)は教師の責任として「議論のための問題を選ぶ」ことを挙げる。その問題を彼女は 「生産的思考を要する構造化された問題 」と呼ぶ。これら二つはいずれも学習者にさまざまに考えさせるための問題という点からの特徴づけであり,教師にとっての意味についてはまったく触れてない。それと異なるのがNystrand,et.al.(2003)のauthentic questionである。これは教師が前もって決めた答えを持っていない質問であり,彼はその例として情報を求める質問と,特定の答えを持たないopen-endの問いを挙げる。
日本の実践知の中で
 同様に宮崎の「教師にとっての未知の問い」unknown questionという概念も,はじめは(宮崎,2005)教師にとっても答えが未知で探求されるべきものとしてある問いとして特徴付けられた。ただそこでは教師と教材の関係のみが焦点化されたが,日本の教師の実践知の中にはさらに生徒項もそこに絡めて問いを考える考え方もある。塚本(2014)は教師から見ると誤りである生徒の答えの中に,実は教師のそれとは異なる問いがあり得るし,教師がその発見をすることが重要だと考える。こうなると「教師にとって未知の問い」は,答えだけではなく,問いの存在自体が教師にとって未知だったものも含むことになる(Miyazaki, 2013)。
理論枠組みについて
 問いの性格とその発見の過程は認知心理学的には「問題発見」過程の問題である。ただ心理学的研究はGetzels(1979)以降あまり進展がない。むしろ解釈学者Gadamer(2008)の「問いと答えの弁証法」論での「問いの地平」という考えが役に立つだろう。
文   献
Bakhtin, M.M.(1995).ドストエフスキーの詩学. 筑摩書房.
Gadamer, H.G.(2008).真理と方法.法政大学出版局.
Getzels, J.W.(1979). Problem finding: A theoretical note. Cognitive science,3,167-172.
Lampert, M. (1995). 真正の学びを創造する-数学がわかることと数学を教えること 佐伯胖・藤田英典・佐藤学(編)学びへの誘い. 東大出版会.
Mehan. H. (1979). “What time is it, Denise?”: Asking known information questions in classroom discourse. Theory into practice, 28, 285-294.
宮崎清孝(編)(2005). 総合学習は思考力を育てる. 一莖書房.
Miyazaki, K. (2013). From “unknown questions” begins a wonderful education: Kyozai-Kaishaku and the dialogic classroom. In K. Egan, A. Cant, & G. Judson (Eds.) Wonder-full education: The centrality of wonder in teaching and learning across the curriculum. New York: Routledge
Nystrand, M., Wu, L. L., Gamoran, A., Zeiser, S., & Long, D. A.(2003). Questions in time: Investigating the structure and dynamics of unfolding classroom discourse.Discourse Analysis, 35, 135-198.
塚本幸男(2014). 子どもは,教師の「発問」とは異なる「問い」を持つ. 千葉経済大学短期大学部研究紀要, 10, 25-37.
Wells, G. (1999). Dialogic inquiry: Toward a sociocultural practice and theory of education. NY: Cambridge University Press.