10:00 AM - 12:00 PM
[PA56] ふれ合い恐怖的心性と自己愛の関連についての試論
Keywords:ふれ合い恐怖的心性, 青年期, 自己愛
本研究は,現代の青年に見られる「ふれ合い恐怖的心性」の特徴について再検討するものである。
岡田(2002)は一般青年に見られるふれ合い恐怖的傾向(ふれ合い恐怖的心性)を測る尺度を作成し,このうち「対人退却」下位尺度が高い青年は会食など心情的に近い他者との場面で安心感が低いことを見いだした。また「対人退却」下位尺度は他者と関係を持つ行動そのものについての感じ方を中心とした項目から構成され,ここに従来の対人恐怖的心性の対人関係と相違が示されているとしている。一方で「関係調整不全」下位尺度は,対人関係を深める行動の結果生じうる困難についての項目が中心であった。そして,対人関係を深めた結果において恐れている内容は,ふれ合い恐怖の者と従来の対人恐怖とでは共通しているが,結果を回避するための防衛の様式が異なっている可能性が示唆された。また岡田(2014)は対人場面での安心感との関係から,ふれ合い恐怖的心性尺度のうち「関係調整不全」下位尺度は従来型対人恐怖と共通する特徴を持つことを見いだした。一方,伊藤・村瀬・金井(2011)はふれ合い恐怖の背後には潜在的特権意識(誇大的自己愛)があり,これが満たされないために他者と距離を置くとし,岡田(2011)も現代青年のさまざまな特質について自己愛と者の視線に対する懸念の連続体上で,これを位置づけた。しかしこれまでの研究において,ふれ合い恐怖的心性尺度と誇大性との直接的な関連は見いだされない(岡田,2016)。よって本研究では不安を感じる場面に焦点を当て自己愛との関連を検討する。
方 法
調査対象者 クローズド型インターネット調査を利用し,登録モニタによる匿名の調査を実施した。実施時期は2016年12月であった。
回答者 日本全国都道府県の719名中,1-4年生に属さない大学生及び非在籍者を除いた4年制以上の大学学生を有効回答とした。有効回答数は692名(男性347名,女性345名,1~4年生,18歳~24歳)であった。
尺度項目
1)不安場面項目 岡田(2014)で用いた項目から高校生向けに再編した40項目の対人場面について,不安‐安心度を尋ねた。「1そのような場面は経験がない」「2とても不安である」~「7とても安心できる」の7段階であった。分析にあたっては「経験無し」を欠損値とし,他の選択肢について1を減じた値を用いた。
2)ふれ合い恐怖的心性 岡田(2002)で作成された尺度を用いた。「関係調整不全」「対人退却」の下位尺度を持つ。
3)自己愛 評価過敏性-誇大性自己愛尺度(中山・中谷,2006)を用いた。本尺度は過敏型・誇大型自己愛の特徴を測るもので,過敏型自己愛の特性「評価過敏性」と,誇大型自己愛の特性である,「誇大性」の下位尺度から成る。
2)3)は「1まったくあてはまらない」~「6とてもあてはまる」の6段階であった(この他に実施した尺度項目については今回の報告の対象とはしない)。
結 果
ふれ合い恐怖的心性および自己愛尺度(誇大性)と不安場面尺度の相関をTable 1に示す。ここに見られるように,対人退却は「近い他者場面」での安心感と負の相関が見られる一方で,公的場面や遠い他者との場面とは大きな相関が見られなかった。一方,誇大性は公的場面や遠い他者との場面と正の相関関係が見られた。また関係調整不全,対人退却ともに誇大性との相関は.1に満たず無相関に近かった。
考 察
ふれ合い恐怖症は「ふれ合い」を感じる身近な他者との場面に苦痛を感じる反面,公的場面や遠い他者場面はそつなくこなせるとされてきた。しかし本研究の結果からは,ふれ合い恐怖を構成するのはもっぱら近い他者場面での不安感であり,公的場面や遠い他者との場面での安心感とは関わらないことが示唆された。また,自己愛の誇大性は公的場面などでも不安を感じない自分への肯定感に基づいていると考えられるが,「近い他者」場面での安心感-不安感とはほとんど無相関であった。すなわち,ふれ合い恐怖と自己愛の誇大性とは異質な心理的状態であることが考えられる。
本研究は科学研究費基盤(C) 課題番号 24530811「現代青年の友人関係における心理的脆弱性と社会適応の関連に関する研究」の一部である。また金沢大学人間社会研究域「人を対象とする研究審査」承認番号2016-4として倫理審査と承認を受けたものである。
岡田(2002)は一般青年に見られるふれ合い恐怖的傾向(ふれ合い恐怖的心性)を測る尺度を作成し,このうち「対人退却」下位尺度が高い青年は会食など心情的に近い他者との場面で安心感が低いことを見いだした。また「対人退却」下位尺度は他者と関係を持つ行動そのものについての感じ方を中心とした項目から構成され,ここに従来の対人恐怖的心性の対人関係と相違が示されているとしている。一方で「関係調整不全」下位尺度は,対人関係を深める行動の結果生じうる困難についての項目が中心であった。そして,対人関係を深めた結果において恐れている内容は,ふれ合い恐怖の者と従来の対人恐怖とでは共通しているが,結果を回避するための防衛の様式が異なっている可能性が示唆された。また岡田(2014)は対人場面での安心感との関係から,ふれ合い恐怖的心性尺度のうち「関係調整不全」下位尺度は従来型対人恐怖と共通する特徴を持つことを見いだした。一方,伊藤・村瀬・金井(2011)はふれ合い恐怖の背後には潜在的特権意識(誇大的自己愛)があり,これが満たされないために他者と距離を置くとし,岡田(2011)も現代青年のさまざまな特質について自己愛と者の視線に対する懸念の連続体上で,これを位置づけた。しかしこれまでの研究において,ふれ合い恐怖的心性尺度と誇大性との直接的な関連は見いだされない(岡田,2016)。よって本研究では不安を感じる場面に焦点を当て自己愛との関連を検討する。
方 法
調査対象者 クローズド型インターネット調査を利用し,登録モニタによる匿名の調査を実施した。実施時期は2016年12月であった。
回答者 日本全国都道府県の719名中,1-4年生に属さない大学生及び非在籍者を除いた4年制以上の大学学生を有効回答とした。有効回答数は692名(男性347名,女性345名,1~4年生,18歳~24歳)であった。
尺度項目
1)不安場面項目 岡田(2014)で用いた項目から高校生向けに再編した40項目の対人場面について,不安‐安心度を尋ねた。「1そのような場面は経験がない」「2とても不安である」~「7とても安心できる」の7段階であった。分析にあたっては「経験無し」を欠損値とし,他の選択肢について1を減じた値を用いた。
2)ふれ合い恐怖的心性 岡田(2002)で作成された尺度を用いた。「関係調整不全」「対人退却」の下位尺度を持つ。
3)自己愛 評価過敏性-誇大性自己愛尺度(中山・中谷,2006)を用いた。本尺度は過敏型・誇大型自己愛の特徴を測るもので,過敏型自己愛の特性「評価過敏性」と,誇大型自己愛の特性である,「誇大性」の下位尺度から成る。
2)3)は「1まったくあてはまらない」~「6とてもあてはまる」の6段階であった(この他に実施した尺度項目については今回の報告の対象とはしない)。
結 果
ふれ合い恐怖的心性および自己愛尺度(誇大性)と不安場面尺度の相関をTable 1に示す。ここに見られるように,対人退却は「近い他者場面」での安心感と負の相関が見られる一方で,公的場面や遠い他者との場面とは大きな相関が見られなかった。一方,誇大性は公的場面や遠い他者との場面と正の相関関係が見られた。また関係調整不全,対人退却ともに誇大性との相関は.1に満たず無相関に近かった。
考 察
ふれ合い恐怖症は「ふれ合い」を感じる身近な他者との場面に苦痛を感じる反面,公的場面や遠い他者場面はそつなくこなせるとされてきた。しかし本研究の結果からは,ふれ合い恐怖を構成するのはもっぱら近い他者場面での不安感であり,公的場面や遠い他者との場面での安心感とは関わらないことが示唆された。また,自己愛の誇大性は公的場面などでも不安を感じない自分への肯定感に基づいていると考えられるが,「近い他者」場面での安心感-不安感とはほとんど無相関であった。すなわち,ふれ合い恐怖と自己愛の誇大性とは異質な心理的状態であることが考えられる。
本研究は科学研究費基盤(C) 課題番号 24530811「現代青年の友人関係における心理的脆弱性と社会適応の関連に関する研究」の一部である。また金沢大学人間社会研究域「人を対象とする研究審査」承認番号2016-4として倫理審査と承認を受けたものである。