The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

Presentation information

ポスター発表 PA(01-83)

ポスター発表 PA(01-83)

Sat. Oct 7, 2017 10:00 AM - 12:00 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 AM - 12:00 PM

[PA60] 幻聴をともなう統合失調症の青年を,医療とのコラボはもちろん,メール,電話,面談,そして社会活動も支援することで,寛解に導こうとするカウンセラーの2年間の試み

高山智 (青山学芸心理)

Keywords:臨床, 発達障害

問   題
 筆者の所属する青山学芸心理(以下当方)は,1996年の設立以来,カウンセリングの和語として「安談」という言葉を用い,日本人の文化や風土に合わせた心理相談を提供している。
 当方では「一定時間くりかえして対話できる状況が作れない慢性疾患」のかたは,安談の対象にしないのだが,その当事者本人が(家族よりもむしろ)ふつうの生活をしたいという強い希望を持っている場合に限り,安談を実施している。
 それは,安談が,いわゆる精神医学的な寛解(かんかい:症状が安定している状態)を促進できるとの仮説をもとに,いくつかのケースで,安談と医療とのコラボに加えて,メンター(相談的年長者)を派遣することで,本人の社会的な折り合いの機会を増やして,寛解への実績をあげているからである。
 本研究では,昨年の日本教育心理学会第58回総会で「ケース③ 幻聴に10年苦しむ27歳男性に9回目の入院を勧める」として発表したケースが,9回目の退院後,(それまでは盗聴されるから嫌だと言っていた)携帯電話を持つことで,当方と安心して安談できるようになったことや,メンターと一緒にビリヤードやテニスや受診をすることで,次第に,電車にひとりで乗れたり,1時間半にも及ぶクラッシックのコンサートを楽しめたりするようになった経緯を取り上げる。
目   的
 昨年度総会パネルでは,医療機関と協働しながら家族を支援することで,当事者に対して間接的な支援をすることを述べた。
 今回は,さらに,メンターを派遣することで,当事者自身が社会的行動(駅で待ち合わせる,切符を買って電車に乗る,駅でタクシーを待つ,薬局で薬を受け取る,行きと同じように帰路をたどるなど)を日常に取り入れられるよう,当事者を具体的に支援した。
 本研究は,発病後10年,当事者が社会的折り合いをつけることが,幻聴との付き合い方にとっていかに有用であることを示す。
事例紹介
 主訴:18歳の秋,不登校。「近所で僕のことを叩いている」と訴えあり。近くのクリニックを受診。統合失調症との診断。専門病院入院したものの,三ヶ月で退院。
 下宿(一人暮らし)に2回チャレンジするも,夜中に部屋で物を投げ,28歳3月8回目の入院。普通の生活をしたいと希望あり。
 生育歴(親の記述):末っ子長男。3歳まで発語なし。中2秋の運動会で仲間から離れて一人。偏食だが病気知らず。性格は完璧主義ではないが生真面目。
 当事者来談の様子:29歳秋,親に伴われて初回安談に。「幻聴が飛んで来る。10年前まではなかった。物に当たる。自分では止められない。中2体育祭でお前が悪い(ルールの変更を理解できずミス)と責められた。高校になじめず,行って帰るだけの毎日。絵画療法やカウンセリングも受けた。他の人がやっていることでも,自分はできないと思ってしまう。母には一緒にいてほしい」と。
 当方コラボの精神科Dr.A受診:29歳冬,母と本人と当方が一緒に初診へ。本人は増薬したいが,どの薬が効いているかがわからないので,まずは主治医Dr.Bと減薬可能性を検討してほしいとDr.Aから言われる。
 社会的折り合い:29歳新春,メンター及びカウンセラーとテニス。そのあとゴルフ練習。
 処方見極め入院:29歳初夏,現状の処方でに本人不満。4ヶ月後,退院。30歳秋,Dr.A再診。調整した処方が始まり,一年経った今かなり落ち着いている。
考   察
 発表当日は,処方内容や週一回の外出について,ポスターで詳細を発表する。なお,本ケースは当人とその家族に許可を得て抄録に載せている。