10:00 AM - 12:00 PM
[PA65] 日本語の発達性書字障害のサブタイプ
認知障害の種類によるディスレクシア児の分類
Keywords:ディスレクシア, 認知障害の種類, 書字障害のサブタイプ
目 的
近年,アルファベット言語の発達性読み書き障害(以下,「ディスレクシア」と呼ぶ)の研究においては,読字過程に関する様々な情報処理モデルが提起され(e.g.,Coltheart,Rastle,Perry,Langdon & Ziegler,2001),読字障害のサブタイプや認知障害に関する実証的研究行も多数行われてきた(e. g.,Sprenger-Charolles,Siegel,Jiménez & Ziegler,2011)。しかしながら,ディスレクシアの書字障害に関する研究は読字障害の研究と比較すると少なく,特に,日本語の発達性書字障害のサブタイプやメカニズムは未だ十分に解明されていない。
本研究は,日本の小学校教員に対して実施した「日本語の発達性書字障害の認知・行動特性に関する調査」(杉本, 2017)で得られたデータをさらに分析することにより,日本語の発達性書字障害にはどのようなサブタイプが存在するのかについて検討することを目的とした。
方 法
参加者:日本全国の都道府県に居住している3年生以上の普通学級を担任している小学校教員188名が本質問調査に参加した。調査への回答はインターネット上で行った。参加教員が担任している学級に,ディスレクシア児がいる教員(81名)は当該ディスレクシア児のうち1人について,いない教員(107名)には担任している健常児のうち1人について,質問項目に回答するように指示した。参加した全教員が担当している児童の総数は5226人であり,ディスレクシア児の総数は153人であった。
質問項目:先行研究,小学校教員への聞き取り調査,予備的質問紙調査等を基に,ディスレクシア児の書字における典型的・特徴的な認知・行動特性を抽出し,書字障害尺度(64の質問項目)を作成した。回答形式は5件法(「1:全くない」~「5:いつもそうである」)であった。
分析方法:杉本(2017)では,この書字障害尺度に対して因子分析(主因子法・プロマックス回転)を行い,4因子(「綴り・音韻辞書障害」「視覚性障害」「音韻性障害」「書字コントロール障害」)を抽出した。本研究では,さらに,これら4種類の障害に基づき,クラスタ分析を用いて調査対象児を分類することにより,発達性書字障害のサブタイプについて検討した。
結 果
因子分析の結果(杉本,2017)に基づき,プロマックス回転後の「綴り・音韻辞書障害」「視覚性障害」「音韻性障害」「書字コントロール障害」の各因子得点を算出した。これらの因子得点を用いて,Ward法によるクラスタ分析を行った結果,5つのクラスタに分類された。第1クラスタには23名,第2クラスタには66名,第3クラスタには41名,第4クラスタには35名,第5クラスタには23名の調査対象児が含まれていた。
次に,得られた5つのクラスタを独立変数,「綴り・音韻辞書障害」「視覚性障害」「音韻性障害」「書字コントロール障害」の各因子得点を従属変数として分散分析を行った。その結果,「綴り・音韻辞書障害」「視覚性障害」「音韻性障害」「書字コントロール障害」の全てにおいて統計的に有意な群間差が見られた(綴り・音韻辞書障害: F(4,183)=186.55,p<.001,視覚性障害: F(4,183)=107.17,p<.001,音韻性障害: F(4,183)=143.10,p<.001,書字コントロール障害: F(4,183)=121.49,p<.001)。Figure 1に各群の平均値を示す。
第1クラスタは,全ての障害の得点が高いため,『重度多重障害』群と命名した。第2クラスタは,全ての障害の得点が0付近に位置し,障害と健常の境界領域にあると考えられるため,『ボーダー』群とした。第3クラスタは,全ての障害の得点が中程度のプラスの値を示しているため,『中度多重障害』群とした。第4クラスタは,全ての障害の得点がマイナスであるため,『障害なし』群と命名した。第5クラスタは,「書字コントロール障害」と「音韻障害」の得点はマイナスであるが,「視覚性障害」得点がプラスであるため『視覚性障害』と命名した。
考 察
本研究結果から,『障害なし』(健常児)を除いた日本語のディスレクシア児の書字障害のサブタイプとしては,『重度多重障害』『中度多重障害』『視覚性障害』『ボーダー』が存在することが示された。アルファベット言語のディスレクシアのサブタイプには「音韻性失読」「表層性失読」「深層性失読」が存在し,書字障害においても「表層性」と「音韻性」が認められることが報告されてきたが,本研究結果からは,日本語のディスレクシア児では,「視覚性障害」に特化したディスレクシア児以外は,異なる種類の障害を複合的に持っているため,「音韻性」「表層性」というサブタイプに明確に分類することが難しいことが示唆された。
今後,実際のディスレクシア児に認知課題を実施することにより,発達性書字障害のサブタイプやメカニズムをより詳細に検討していくことが重要であろう。
近年,アルファベット言語の発達性読み書き障害(以下,「ディスレクシア」と呼ぶ)の研究においては,読字過程に関する様々な情報処理モデルが提起され(e.g.,Coltheart,Rastle,Perry,Langdon & Ziegler,2001),読字障害のサブタイプや認知障害に関する実証的研究行も多数行われてきた(e. g.,Sprenger-Charolles,Siegel,Jiménez & Ziegler,2011)。しかしながら,ディスレクシアの書字障害に関する研究は読字障害の研究と比較すると少なく,特に,日本語の発達性書字障害のサブタイプやメカニズムは未だ十分に解明されていない。
本研究は,日本の小学校教員に対して実施した「日本語の発達性書字障害の認知・行動特性に関する調査」(杉本, 2017)で得られたデータをさらに分析することにより,日本語の発達性書字障害にはどのようなサブタイプが存在するのかについて検討することを目的とした。
方 法
参加者:日本全国の都道府県に居住している3年生以上の普通学級を担任している小学校教員188名が本質問調査に参加した。調査への回答はインターネット上で行った。参加教員が担任している学級に,ディスレクシア児がいる教員(81名)は当該ディスレクシア児のうち1人について,いない教員(107名)には担任している健常児のうち1人について,質問項目に回答するように指示した。参加した全教員が担当している児童の総数は5226人であり,ディスレクシア児の総数は153人であった。
質問項目:先行研究,小学校教員への聞き取り調査,予備的質問紙調査等を基に,ディスレクシア児の書字における典型的・特徴的な認知・行動特性を抽出し,書字障害尺度(64の質問項目)を作成した。回答形式は5件法(「1:全くない」~「5:いつもそうである」)であった。
分析方法:杉本(2017)では,この書字障害尺度に対して因子分析(主因子法・プロマックス回転)を行い,4因子(「綴り・音韻辞書障害」「視覚性障害」「音韻性障害」「書字コントロール障害」)を抽出した。本研究では,さらに,これら4種類の障害に基づき,クラスタ分析を用いて調査対象児を分類することにより,発達性書字障害のサブタイプについて検討した。
結 果
因子分析の結果(杉本,2017)に基づき,プロマックス回転後の「綴り・音韻辞書障害」「視覚性障害」「音韻性障害」「書字コントロール障害」の各因子得点を算出した。これらの因子得点を用いて,Ward法によるクラスタ分析を行った結果,5つのクラスタに分類された。第1クラスタには23名,第2クラスタには66名,第3クラスタには41名,第4クラスタには35名,第5クラスタには23名の調査対象児が含まれていた。
次に,得られた5つのクラスタを独立変数,「綴り・音韻辞書障害」「視覚性障害」「音韻性障害」「書字コントロール障害」の各因子得点を従属変数として分散分析を行った。その結果,「綴り・音韻辞書障害」「視覚性障害」「音韻性障害」「書字コントロール障害」の全てにおいて統計的に有意な群間差が見られた(綴り・音韻辞書障害: F(4,183)=186.55,p<.001,視覚性障害: F(4,183)=107.17,p<.001,音韻性障害: F(4,183)=143.10,p<.001,書字コントロール障害: F(4,183)=121.49,p<.001)。Figure 1に各群の平均値を示す。
第1クラスタは,全ての障害の得点が高いため,『重度多重障害』群と命名した。第2クラスタは,全ての障害の得点が0付近に位置し,障害と健常の境界領域にあると考えられるため,『ボーダー』群とした。第3クラスタは,全ての障害の得点が中程度のプラスの値を示しているため,『中度多重障害』群とした。第4クラスタは,全ての障害の得点がマイナスであるため,『障害なし』群と命名した。第5クラスタは,「書字コントロール障害」と「音韻障害」の得点はマイナスであるが,「視覚性障害」得点がプラスであるため『視覚性障害』と命名した。
考 察
本研究結果から,『障害なし』(健常児)を除いた日本語のディスレクシア児の書字障害のサブタイプとしては,『重度多重障害』『中度多重障害』『視覚性障害』『ボーダー』が存在することが示された。アルファベット言語のディスレクシアのサブタイプには「音韻性失読」「表層性失読」「深層性失読」が存在し,書字障害においても「表層性」と「音韻性」が認められることが報告されてきたが,本研究結果からは,日本語のディスレクシア児では,「視覚性障害」に特化したディスレクシア児以外は,異なる種類の障害を複合的に持っているため,「音韻性」「表層性」というサブタイプに明確に分類することが難しいことが示唆された。
今後,実際のディスレクシア児に認知課題を実施することにより,発達性書字障害のサブタイプやメカニズムをより詳細に検討していくことが重要であろう。