10:00 AM - 12:00 PM
[PA76] 教職課程大学生の模擬授業経験による授業イメージの変化
熟達化モデルから反省的実践家モデルへの移行
Keywords:教員養成, インタビュー
問題と目的
教員の力量形成に関連するモデルとしてSchon (1983)は技術的な熟達者(technical expert)モデルと省察的実践者(reflective practitioner)モデルを提唱し,この2つを対比した。そして前者はドリルや練習を管理する能力を拡大していくが,後者は実践の場で固定的な授業計画を超えるような授業展開のアイディアを思い描くような成長を示すとしている。このような省察的な実践者として授業を行う教師の成長が期待される一方で,教員としての力量形成が始まる大学教職課程で大学生が省察的な実践者としての力量を身につける機序について論じられることは少ない。
そこで本研究では,大学教職課程の学生が教育実習実施前に模擬授業を繰り返し経験する中での授業に対するイメージの変化について検討し,教職志望の大学生の大学の中での反省的実践者としての成長がどのようなものなのかを検討する。
模擬授業の中での授業イメージの変化を取り上げる理由として(1)教員採用選考において複数の自治体が教員としての適性や力量を確認するための手段として,模擬授業を採用していること,(2)現在の教職課程のカリキュラムでは,2~4週間の教育実習の中で実習生が授業を行う時間数に個人差が大きいことの2つがある。
方 法
模擬授業とインタビューにはN県内の大学の教職課程に所属し,中学校の保健体育の教員になることを志望している大学生男子2名から協力を得た。実験協力者は2014年~2016年,2016年~2017年にかけて,それぞれ8回の模擬授業を行い,模擬授業終了後,撮影した自らの模擬授業の動画を見ながら,うまくできたポイント,うまくできなかったポイント,緊張したポイント,リラックスしたポイントについて問う半構造化面接を行った。面接についてもビデオカメラで撮影し,インタビューの中で語られる内容を前半(1~4回目の模擬授業)と後半(5~8回目の模擬授業)で比較し,模擬授業経験による授業イメージの変化を探った。
結果と考察
2名に共通して,うまくできた/できなかったポイントについて語られる内容は,前半の模擬授業(1~4回目)では「予定していた自分の教授行動(板書を書く,生徒を指名し本を読ませるなど)ができた/できなかった」などの内容が大半であった。それに対して後半の模擬授業では「しっかりと(生徒に)わかるように説明できた/できなかった」「生徒が理解している/いないことがわかった」などの生徒の授業内容に対する理解,生徒の内面の変化などについての内容が増加していた。
また,緊張とリラックスについても前半は予定通りに進むかどうかわからないまたは進まないような時間帯に緊張し,予定通りに進めばリラックスするといった内容が語られることが多かったが,後半になると「リラックスしていない時間帯は緊張しているのではなく集中している」「リラックスしている時間帯は,生徒の笑顔を引き出せた時間帯」などが語られた。
これは大学生が模擬授業を経験する中で,「教員が準備していたものを再生する授業」から「教員が相手(生徒)に理解させる授業」へと授業イメージが変わっていることを示唆するものである。
Tohyama et al. (2015) は大学生が同じ内容の模擬授業を繰り返す中で自らの行動にばかり注意が向いている状態を脱し,自分が何をすると何が起きるのかが見えるようになってくるのは,自らの行動を自動化し,自分の教授行動について意識せずにできる部分が増えたために余裕が生まれ,その余裕が自らの教授行動の結果として引き起こされる子どもの反応や子どもの理解を意識することにむくのではないかと述べている。
Schon (1983)は「教師はもっぱら自分が進めている授業計画の内容を消化することに関連した成功・失敗という視点から関心を寄せる」「そして省察的な実践者としての教師が考え,行為を始めるときには生徒の活動や状況に深く耳を傾ける」と述べている。本研究において示された前半と後半の差異は教職課程の大学生の模擬授業の中での熟達として技術的な熟達が先行し,その後省察的実践者としての熟達が続くことを示しているのであれば,大学教職課程の初期の模擬授業などで技術的な熟達を促す経験をした上でさらに大学の教職課程で省察的な実践者としての成長をスタートさせることが可能なのではないだろうか。
本研究は平成26年度より科学研究費補助金(基盤研究(C))課題番号23650339)の交付を受けている
教員の力量形成に関連するモデルとしてSchon (1983)は技術的な熟達者(technical expert)モデルと省察的実践者(reflective practitioner)モデルを提唱し,この2つを対比した。そして前者はドリルや練習を管理する能力を拡大していくが,後者は実践の場で固定的な授業計画を超えるような授業展開のアイディアを思い描くような成長を示すとしている。このような省察的な実践者として授業を行う教師の成長が期待される一方で,教員としての力量形成が始まる大学教職課程で大学生が省察的な実践者としての力量を身につける機序について論じられることは少ない。
そこで本研究では,大学教職課程の学生が教育実習実施前に模擬授業を繰り返し経験する中での授業に対するイメージの変化について検討し,教職志望の大学生の大学の中での反省的実践者としての成長がどのようなものなのかを検討する。
模擬授業の中での授業イメージの変化を取り上げる理由として(1)教員採用選考において複数の自治体が教員としての適性や力量を確認するための手段として,模擬授業を採用していること,(2)現在の教職課程のカリキュラムでは,2~4週間の教育実習の中で実習生が授業を行う時間数に個人差が大きいことの2つがある。
方 法
模擬授業とインタビューにはN県内の大学の教職課程に所属し,中学校の保健体育の教員になることを志望している大学生男子2名から協力を得た。実験協力者は2014年~2016年,2016年~2017年にかけて,それぞれ8回の模擬授業を行い,模擬授業終了後,撮影した自らの模擬授業の動画を見ながら,うまくできたポイント,うまくできなかったポイント,緊張したポイント,リラックスしたポイントについて問う半構造化面接を行った。面接についてもビデオカメラで撮影し,インタビューの中で語られる内容を前半(1~4回目の模擬授業)と後半(5~8回目の模擬授業)で比較し,模擬授業経験による授業イメージの変化を探った。
結果と考察
2名に共通して,うまくできた/できなかったポイントについて語られる内容は,前半の模擬授業(1~4回目)では「予定していた自分の教授行動(板書を書く,生徒を指名し本を読ませるなど)ができた/できなかった」などの内容が大半であった。それに対して後半の模擬授業では「しっかりと(生徒に)わかるように説明できた/できなかった」「生徒が理解している/いないことがわかった」などの生徒の授業内容に対する理解,生徒の内面の変化などについての内容が増加していた。
また,緊張とリラックスについても前半は予定通りに進むかどうかわからないまたは進まないような時間帯に緊張し,予定通りに進めばリラックスするといった内容が語られることが多かったが,後半になると「リラックスしていない時間帯は緊張しているのではなく集中している」「リラックスしている時間帯は,生徒の笑顔を引き出せた時間帯」などが語られた。
これは大学生が模擬授業を経験する中で,「教員が準備していたものを再生する授業」から「教員が相手(生徒)に理解させる授業」へと授業イメージが変わっていることを示唆するものである。
Tohyama et al. (2015) は大学生が同じ内容の模擬授業を繰り返す中で自らの行動にばかり注意が向いている状態を脱し,自分が何をすると何が起きるのかが見えるようになってくるのは,自らの行動を自動化し,自分の教授行動について意識せずにできる部分が増えたために余裕が生まれ,その余裕が自らの教授行動の結果として引き起こされる子どもの反応や子どもの理解を意識することにむくのではないかと述べている。
Schon (1983)は「教師はもっぱら自分が進めている授業計画の内容を消化することに関連した成功・失敗という視点から関心を寄せる」「そして省察的な実践者としての教師が考え,行為を始めるときには生徒の活動や状況に深く耳を傾ける」と述べている。本研究において示された前半と後半の差異は教職課程の大学生の模擬授業の中での熟達として技術的な熟達が先行し,その後省察的実践者としての熟達が続くことを示しているのであれば,大学教職課程の初期の模擬授業などで技術的な熟達を促す経験をした上でさらに大学の教職課程で省察的な実践者としての成長をスタートさせることが可能なのではないだろうか。
本研究は平成26年度より科学研究費補助金(基盤研究(C))課題番号23650339)の交付を受けている