The 59th Annual Meeting of the Japanese Association of Educational Psychology

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ポスター発表 PA(01-83)

ポスター発表 PA(01-83)

Sat. Oct 7, 2017 10:00 AM - 12:00 PM 白鳥ホールB (4号館1階)

10:00 AM - 12:00 PM

[PA79] 児童用の他律的(随伴性)セルフ・エスティーム尺度の開発

尺度の信頼性と妥当性の検討,そして教育への適用の考察

賀屋育子1, 山口悟史#2, 横嶋敬行3, 内田香奈子4, 山崎勝之5 (1.兵庫教育大学, 2.鳴門教育大学, 3.兵庫教育大学, 4.鳴門教育大学, 5.鳴門教育大学)

Keywords:他律的(随伴性)セルフ・エスティーム, 児童, 信頼性・妥当性

目   的
 セルフ・エスティーム (self-esteem)は,人の健康・適応を高める役割を持つ心的特性として,重視されてきた概念である。その一方で,近年その効用に対して否定的な知見もみられ(Baumeister et al., 2003),概念と測定法の観点から適応的側面と不適応的側面を弁別的に捉える研究が展開されている。
 山崎ら(2017)は,適応的側面を自律的セルフ・エスティーム,不適応的側面を他律的セルフ・エスティームと提唱して研究を進めている。また,前者は非意識の測定法の必要性が論じられ,横嶋ら (2017) によって潜在連合テストを用いた測定法が開発されている。一方で,後者はDeci & Ryan(1995)の随伴性セルフ・エスティームとほぼ同義の概念に位置づけられ(山崎ら,2017),外的な達成基準や他者との比較に依存して高まるセルフ・エスティームと定義される。また,随伴性セルフ・エスティームの測定方法には,Crockerら(2003)の自己価値の随伴性尺度(領域別,多因子)や,Paradise & Kernis(1999)の随伴性セルフ・エスティーム尺度(全体的,単因子)の尺度が開発されている。他律的セルフ・エスティームは,単因子構造の測定法による研究が優先的に推奨されることから後者の尺度の使用が挙げられるが,その因子構造を再検討した研究では,単因子ではなく多因子が妥当という指摘がある(Schwinger et al., 2015)。実際の項目表現をみても,特定の領域を表す項目が散見されることから,内容的妥当性の面でも課題がわかる。そこで,本研究では,学校場面で使用することを想定した児童用他律的セルフ・エスティーム尺度(Heteronomous Self-Esteem Scale for Children: HSES-C)の開発を行い,因子構造と内的整合性の検討,および担任教師の児童ノミネートによる妥当性の検討を行った。
方   法
調査時期・調査対象 調査は2017年1月と5月に実施された。小学校 (2校) の4年生から6年生349名 (男児183名,女児166名) を対象に実施した。また,各クラスの担任教師13名を対象に,児童ノミネートを行った。分析には,統計パッケージIBM SPSS Statistics 23を使用した。
他律的セルフ・エスティーム尺度 尺度項目は,心理学を専門とし,他律的セルフ・エスティームの概念に精通した大学教員1名,博士課程学生1名,修士課程学生6名によって内容的妥当性に配慮しつつ,「わたし(ぼく)は,友だちよりも,よいところを多くもっている」など8項目を原尺度項目として作成した。評定の方法は,「1.まったくあてはまらない」から「4.とてもよくあてはまる」の4件法とした。
児童ノミネートの基準と項目 本質問紙の妥当性を検討するため,他律的セルフ・エスティームが高い児童の特徴を「競争意識が高く,他の児童のできや結果が気になる特徴をもつ児童」とし,この特徴に対して最も当てはまる児童と最も当てはまらない児童を担任教師に3名ずつ(男女を問わず)選出してもらった。選出された児童は,男子50名,女子26名であった。
結果と考察
 探索的因子分析と検証的因子分析の結果から,項目2を除外した計7項目構成が最も適合度の高い構成であることが確認された。その適合度は,全体ではGFI=.979,AGFI=.958,RMSEA=.053,男子ではGFI=.969,AGFI=.937,RMSEA=.059,女子ではGFI=.979,AGFI=.957,RMSEA=.000,であった。また,α係数は全体でα = .80,男子がα = .80,女子がα = .82となり十分な内的整合性が確認された。
 妥当性の検討では,性×群(当てはまる,当てはまらない)の2要因の分散分析を行った(表1)。その結果,群の主効果が有意となり(F(1, 72) = 6.05, p < .05),「当てはまらない」に選出された児童よりも「当てはまる」に選出された児童の他律的セルフ・エスティーム得点が高い結果となった。このことから,他律的セルフ・エスティーム尺度の基準関連妥当性の一部が示された。