10:00 AM - 12:00 PM
[PA81] 論理的思考に人称視点と不安および情動が及ぼす効果についての研究
Keywords:演繹的推理, 不安, 人称
問 題
一人称視点の文章と三人称視点の文章では読み手が受ける印象が異なるものであることが報告されている(例えばTang & John, 1999; Moitmann, 2006)。これらの結果は,読み手に対して一人称視点の文章はその内容が主観的なものという印象を与え,三人称視点の文章はその内容を客観的なものという印象を与える効果があることを示唆している。前研究(大岸・中田,2015)では個人の特性として不安レベルをとりあげ,三人称視点の文章における演繹的推理の思考傾向の検討を行ったが,一人称視点の文章における演繹的推理の思考傾向の検討は行っていない。そこで本研究では全研究と同様に不安レベルをとりあげ,主観的な印象を読み手に与える一人称視点の文章が不安と三段論法演繹推理の思考にどのような影響を及ぼすのか,また三人称視点の文章による検討結果とどのような違いがあるのかを検討した。
方 法
実験参加者 大学生および大学院生144名(男子98名,女子46名)。実験に先立って新版STAI (2000)により特性不安と状態不安を測定した。
実験材料 大岸・中田(2015)で使用した三人称視点の仮言三段論法形式(「pならばqである」)の演繹推理問題96問と,新たに作成した一人称視点の問題文96問を用いた。三人称視点と一人称視点の問題文のうち90問は,視点が異なるだけで内容は同一である(例「ボールならば転がる」を「私がボールならば私は転がる」に変更した)。さらに,問題文に含まれる語の意味内容により,問題文の情動価を3水準(Neutral語,Positive語,Negative語)を設定した。
手続き 各実験参加者に対して,演繹推理問題を個別実験で96試行実施した。各試行では,コンピュータ画面に前提1(例「私が不幸ならば私はため息をつく」)が最初提示され,次に進むと前提2と問題が同時に提示された。前提2の形式は前件肯定(例「私は今不幸だと思っている」),前件否定(例「私は今,自身を不幸だとは思っていない」),後件肯定(例「私はため息をついていた」),後件否定(例「私は最近ため息をついていない」)の4種類から構成された。実験参加者は前提1と前提2をもとに問題(例「私に不幸があったか?」)に対して「はい」「いいえ」「どちらともいえない」の3件法で解答するよう求められた。
結果と考察
不安について後件否定の正答率×不安の2要因分散分析をした結果, 後件否定の正答率×不安の交互作用が有意で(F(10,705) =1.897, p=.0425), 特性不安・状態不安ともに後件肯定の正答率の違いで差があった。この正答率による分類での不安の分析結果で有意であったのは,三人称視点の文章の課題では全く見られず,一人称視点の文章の課題においても後件肯定だけであった。すなわち,一人称視点の文章の推理課題の回答は,三人称視点のものと比べて個人の特性を反映しやすく,中でも後件肯定のような一見複雑に見える課題に個人の特性が反映されやすいと考えられる。
Figure 1 人称視点×推理形式の交互作用(エラーバーは標準誤差)
また,人称×情動価×推理形式の3要因分散分析の結果,人称×推理形式の交互作用が有意で(F[3, 642] = 15.545, p <0.001),三人称視点の回答に比べて一人称視点の回答は全体的に「どちらともいえない」という曖昧な回答が少なくなっていた(Figure 1参照)。
これらの結果は,個人の特性が演繹的推理に影響を及ぼすと曖昧な回答が減少し,「はい」「いいえ」といった断定的な回答が増加することを示している。つまり,本研究では思考に個性が反映されると曖昧さを避け,断定的な結論を導くことが増加することと推理課題の正答率×不安が有意であったことから推理課題によって不安を測定できる可能性が示された。
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引用文献 大岸通孝・中田順平 (2015). 不安・情動的要因が演繹的推理に及ぼす効果.日本教育心理学会第57回総会発表論文集, 1002019-1.
一人称視点の文章と三人称視点の文章では読み手が受ける印象が異なるものであることが報告されている(例えばTang & John, 1999; Moitmann, 2006)。これらの結果は,読み手に対して一人称視点の文章はその内容が主観的なものという印象を与え,三人称視点の文章はその内容を客観的なものという印象を与える効果があることを示唆している。前研究(大岸・中田,2015)では個人の特性として不安レベルをとりあげ,三人称視点の文章における演繹的推理の思考傾向の検討を行ったが,一人称視点の文章における演繹的推理の思考傾向の検討は行っていない。そこで本研究では全研究と同様に不安レベルをとりあげ,主観的な印象を読み手に与える一人称視点の文章が不安と三段論法演繹推理の思考にどのような影響を及ぼすのか,また三人称視点の文章による検討結果とどのような違いがあるのかを検討した。
方 法
実験参加者 大学生および大学院生144名(男子98名,女子46名)。実験に先立って新版STAI (2000)により特性不安と状態不安を測定した。
実験材料 大岸・中田(2015)で使用した三人称視点の仮言三段論法形式(「pならばqである」)の演繹推理問題96問と,新たに作成した一人称視点の問題文96問を用いた。三人称視点と一人称視点の問題文のうち90問は,視点が異なるだけで内容は同一である(例「ボールならば転がる」を「私がボールならば私は転がる」に変更した)。さらに,問題文に含まれる語の意味内容により,問題文の情動価を3水準(Neutral語,Positive語,Negative語)を設定した。
手続き 各実験参加者に対して,演繹推理問題を個別実験で96試行実施した。各試行では,コンピュータ画面に前提1(例「私が不幸ならば私はため息をつく」)が最初提示され,次に進むと前提2と問題が同時に提示された。前提2の形式は前件肯定(例「私は今不幸だと思っている」),前件否定(例「私は今,自身を不幸だとは思っていない」),後件肯定(例「私はため息をついていた」),後件否定(例「私は最近ため息をついていない」)の4種類から構成された。実験参加者は前提1と前提2をもとに問題(例「私に不幸があったか?」)に対して「はい」「いいえ」「どちらともいえない」の3件法で解答するよう求められた。
結果と考察
不安について後件否定の正答率×不安の2要因分散分析をした結果, 後件否定の正答率×不安の交互作用が有意で(F(10,705) =1.897, p=.0425), 特性不安・状態不安ともに後件肯定の正答率の違いで差があった。この正答率による分類での不安の分析結果で有意であったのは,三人称視点の文章の課題では全く見られず,一人称視点の文章の課題においても後件肯定だけであった。すなわち,一人称視点の文章の推理課題の回答は,三人称視点のものと比べて個人の特性を反映しやすく,中でも後件肯定のような一見複雑に見える課題に個人の特性が反映されやすいと考えられる。
Figure 1 人称視点×推理形式の交互作用(エラーバーは標準誤差)
また,人称×情動価×推理形式の3要因分散分析の結果,人称×推理形式の交互作用が有意で(F[3, 642] = 15.545, p <0.001),三人称視点の回答に比べて一人称視点の回答は全体的に「どちらともいえない」という曖昧な回答が少なくなっていた(Figure 1参照)。
これらの結果は,個人の特性が演繹的推理に影響を及ぼすと曖昧な回答が減少し,「はい」「いいえ」といった断定的な回答が増加することを示している。つまり,本研究では思考に個性が反映されると曖昧さを避け,断定的な結論を導くことが増加することと推理課題の正答率×不安が有意であったことから推理課題によって不安を測定できる可能性が示された。
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引用文献 大岸通孝・中田順平 (2015). 不安・情動的要因が演繹的推理に及ぼす効果.日本教育心理学会第57回総会発表論文集, 1002019-1.